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扉の向こう
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時間を気にしながら、慌てて家に駆け込んで。
なかなか脱げないスニーカーに少し苛立ちを覚え、下を向いた瞬間、思考が完全に止まった。
明らかな、女物の靴。細く華奢なヒールは、俺を殺す凶器に見えて、下がる場所もないのに思わず後退りをした。
なんで、なんで、なんで・・・?
どうして、こんなものがここにある?
ただひたすらに、恐ろしい物を見るかのように、ピンヒールの靴を見つめていた。赤いエナメルに、自分の虚ろな顔が写っている気がした。
不吉な赤いピンヒールから逃げるように、のろのろと、重い体を動かす。
頭では、やめておけ、と誰かが叫ぶのに、体は動き続け、そして、その扉の前まで来た。
アキラの部屋、俺とアキラが何度も抱き合って眠った部屋、色んな思い出がつまった部屋。
そして、今は地獄への入り口となったその部屋の前に、・・・立ち尽くしていた。
「あぁんっ、あんっ、いいっ」
「お前のナカ、さいっこー・・・もっと締めろよッ、んっ」
「アキラぁ、あんっ、もっとぉ・・ああぁ、んっ」
中から聞こえる声は、容赦なく俺を痛めつけた。
徐々に麻痺していく心。
俺とではなくても、ギシギシとベッドは軋むんだな。男同士で重たいからかと思っていた。
やっぱり、こんな痩せ細ったみっともない体より、女の子の方がいいよな、きっと。柔らかいんだろうな。
止まっていた頭が、それまでを取り戻すかのように、どうでもいいことを考え続けていた。
あと、何回こんなことが続くんだろう。アキラは、俺に飽きてるんじゃないのかな。飽きてるなら、捨ててくれればいいのに。
そんなことを考えていると、一際高く、長い嬌声が聞こえ、荒い息づかいのみになった。
しばらく、固まっていると、再び行為が始まったのか、耳を塞ぎたくなるような声と、くちゃりと湿った水音が聞こえてきて。
そこで、ようやく思い知らされた。
俺が彼氏だと思っていた相手は、俺が初めて好きになった人は、俺が全てを捧げた恋人は、この扉の向こうで、他の誰かを抱いているんだと。
今だけじゃない。
俺が見えていないだけで、知らないだけで、今まででも、こうして他の誰かを抱いていたんだ。
そう気づいた後の記憶は曖昧で。・・・気づけば、着の身着のままで外に出ていた。
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