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微笑んだ
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朝比奈教授は、感情を押し殺すように、淡々と話始めた。
愛情にかけていた子供時代。大きくなってもそれは変わらず、次第に自分から周りを遠ざけていたこと。
ある時、そんな自分に構ってくる人物が現れる。いつしかその人に夢中になっていて、気がつけばその人が拒否しないことをいいことに、体の関係を持ち、一緒に暮らすようになって・・・。
ビクッと俺の体が大きく揺れた。
俺とアキラの関係に似ているのなら、この先は聞きたくない。
「・・・彼は、どんどん追い詰められていってたんでしょうね。私の一方的で重たい愛情に応えることが苦痛になっていたんだと、今ならわかります」
教授が、“彼”と呼んだことはあまり気にはならなかった。
「・・・徐々に、顔を合わせる時間が減って、気付けば、毎晩のように誰かの家に泊まってくるようになりました。浮気、されていたんだと思います。君のように現場を見聞きしたわけではないですが・・・」
教授の優しげな顔には、何の感情も浮かんでいない。
「それでも、彼を嫌いになれなかった私は、彼のそばを離れようとはしませんでした。彼も優しさから、私を切り捨てることができなくて・・・結局、取り返しのつかないことになるまで、二人とも苦しみ続けてました」
「・・・取り返しのつかないことって・・・?」
聞いてはいけない、と心のどこかでわかっていても、聞かずにいられなかった。
教授は、聞かれることがわかっていたかのように、話しだしてから初めて、微笑んだ。
「彼に愛されてないことが辛くて、私はいろんなものに逃げました。睡眠薬、精神安定剤、お酒・・・それから、いろんな相手と寝ることで・・・彼もそんな私に気付いていたんでしょうね。私がある時、発作的に自殺をはかったときも、気づいて止めに来て・・・私が刃物を振り回したから彼は止めようとしたんです。もみくちゃになって、気が付いたら私は病院でした」
悲しげな微笑みは、変わることなく、涙すら浮かべていない。きっと、この人はまだ苦しんでるんだ。だから、泣けないんだ。
なんとなく、そう感じた。
「もみ合いになった時に、彼が私の腹部を刺してしまったんです。手術が必要なくらい。・・・私と彼のことは周りの知るところとなり、すぐに私たちは引き裂かれました。全てを私が知ったのは、二週間以上経ってからで、すでに彼は私のもとを去っていました。・・・私は、彼に別れすら言えなかったんです・・・」
涙が溢れてくる。教授が泣けないのに、泣いちゃいけないと思いながらも、涙を止めることができなかった。
「・・・このマンション、譲り受けたって言ったでしょう?・・・本当は、このマンションと一緒に私は捨てられたんです。外聞が悪い、と言われてね・・・縁が薄かったとはいえ、家族と愛する人、全てを、あの過ちで失ってしまったんです」
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