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打ち上げ
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それから時は流れ、問題のイベントの日を迎え、俺が思っていたよりもあっさりと、イベントは幕を閉じた。
結局、人手が足りなくなったということで、俺も先生と同じように発達障害の子やその保護者らの相談相手となることになったのは予定外だったが、突然のことでも、なんとか対応できていたと思う。
「リョウ君、今日はお疲れ様だったね」
打ち上げしよう、と先生から誘われ、駅前の居酒屋に来ていた。
ざわざわと騒がしい店内は、俺には少しだけ居心地が良かった。以前は、こんな騒がしさは苦痛でしかなかったのに、最近では一人きりの静けさの方が苦痛に感じることが多い。
「見てたら大丈夫そうだったけど、
ご感想は?やっぱり子どもは苦手?」
あの忙しさの中でも、俺のことを気にかけてくれていたのか。
「苦手、までは感じませんでしたが、忙しくて余裕がなかっただけのような気もします」
先生がつまみの枝豆を口に放り込みながら聞いていたので、自分も、とビールをあおりながらしゃべる。
そういえば、いつの間にか酒にも強くなった。まあ、先生やら八嶋さんやらにしょっちゅう付き合わされていれば、強くもなるだろう。
「まあ、さ。何事も経験だよ、うん」
一人で納得したように、何度も頷く先生に、今までの経験上、嫌な予感しか湧かない。
「・・・と、ゆーわけなので、次回からは君一人に任せたいと思いまーす」
パンパカパーン、とふざけている先生に、さっきの感動を返せ、と本気で思った。
「先生、どういうことですか?!」
声が多少荒々しくなったのは、仕方のないことだと思う。こんなこと、聞いていない。
「聞いてないって思ってる?だって言ってないからね。でも、この話が僕のところに来たときから、君に任せようって思ってたんだ。どうやって、巻き込もうか悩んでたのに、君が自分から進んで巻き込まれに来てくれたから、手間が省けて助かったよー」
口を挟む隙すら作らず、一息でそこまで言われてしまえば、言いたいことはたくさんあれども、何も言えるわけもない。
「・・・つまり、俺がバカだってことですね・・・」
自虐的になるより、他には何もできなかった。
「まあまあ、そんなに落ち込まない落ち込まない。君が飛び込んでこなくても、どのみち僕が引きずり込んでたんだから」
バカは否定しないのか。どんどん拗ねた気分になるが、口には出さず、今日は絶対に奢って貰おうと、ビールをどんどんあおる。
「それに、ね。君にならできるって、今日一日見てて確信したから、ね」
俺の拗ねた様子がわかったのか、すかさずそう言われると、ご機嫌とりだとわかっていても、思わず赤面してしまう。こんなことで騙される自分が悔しいが、尊敬する人から褒められて嬉しくないわけがない。
「ありがとう、ございます・・・」
研究室によく出入りしていた頃の、先生に近づきたくてたまらなかった自分を思いだし、報われたような気分に浸っていた。
「うっわぁ、リョウ君が素直だー」
先生の一言で台無しになったが。
「ではでは、そんなリョウ君へのご褒美に、今日は僕が人生の先輩として、イイトコロに連れてってあげるよー」
またしても、パンパカパーンと腹のたつ擬声語を出された。
嫌な予感しか、しないのだが。
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