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曇りのち嵐、襲来
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教室に入ると、廊下にまで響いていた喧騒が嘘のようにしんと静まり返る。
扉近くに立っていた男子にちらっと目を向けると「ひっ!」と情けない声をあげて後退る。
その様子を見ていたクラスメイト達の顔には緊張の色が見てとれた。
何度目かも思い出せないこの光景にため息が漏れる。
俺はなにも言わずそのままの足で自分の席へと向かい、腰掛けた。
その瞬間、みんなに安堵の表情が浮かんだのを見逃さなかった。
別に今更なにを言うつもりもないけど、あからさまなその態度は正直やめて欲しいと思う。
なにもしてない奴を自分の機嫌次第でどうこうするような、そんな横暴なことはしないんだけど…。
小さい頃はどうだったか覚えてない。
中学に上がった頃から俺は周りから浮くようになった。
高い身長
毛の量が多くもっさりとした髪
不眠症による寝不足からできた目の下の隈
視力が悪いため、人を睨むような目つき
加えて、極度の人見知りだったために会話も続かず終始無言状態
それらが周囲に与える印象は
────ひと括りに『怖い人』。
その頃は外見だけでもなんとかしようと睡眠薬を飲んだり、眼鏡を作り、コンタクトにも挑戦した。
だけど、どれも上手くいかず挫折した。
睡眠薬はなぜか気分が悪くなって吐いたし、眼鏡は低下する視力に追いつかずすぐに変えなければいけなかった。
コンタクトも目が充血して酷い目にあった。しばらくは痛くて涙が止まらなかったのを覚えてる。
とかくこれといっていい思い出が一つもない。
仕方ないと諦め、努力することをやめた。
生活に多少の支障はあるものの、そこまで苦労することはあまりない。
中学を卒業し、同級生とはバラバラになった。
高校ではせめて怖がられないようにしようと決心し、クラスでは目立たず、普通にしていれば人間関係でもまず問題はないだろうと甘く見ていた。
高いところにある荷物を取ろうとしていた女子がいて、なかなか取れずに四苦八苦していた。
背は他の男子よりも高かったから、迷惑かな、とは思ったが横からすっと箱を取りその子に渡した。
その子はびくびくしながらも「あ、あ、ありがとうございます…っ!」と言って何度も頭を下げて去っていった。
次の日、その事が噂になった。
『B組の目付きの悪い奴が女子に重い荷物を持たせてパシらせてた』という内容の。
別のある日には、喧嘩の仲裁に入ったのに
『機嫌が悪くて目が合った奴らを片っ端からボコボコにした』と突飛な噂が飛び交った。
真偽を含んだ噂は瞬く間に学校中に広まり、周囲は俺を遠ざけた。
この時はもう飽きれて言葉も出なかった。
次第に慣れることを覚え、今朝みたいな反応にはため息を漏らすものの、なにもしないし言わなくなった。
なにかすれば話が盛大に盛られた挙げ句、学校中に知れ渡るわますます評判は悪くなるわ、俺にとってはいい事なしなわけだし。
そのせいで先生の風当たりも冷たいし。
時々、授業をサボりはするがちゃんと勉強はしてるしテストでは上位の方にいるから、何人かは"救いようのある問題児"としてたまに気にかけてくれるけど…それもかなり虚しい。
──変わりたいけど、変われない。
いっそのこと、誰かに俺のことを壊して欲しいとさえ思う。
だってそうでもしないと、俺はきっと一人じゃなにもできないままだから。
考え込んでいるうちにだんだん眠くなってきて、自然と欠伸が一つ。
頬杖をつきうとうとし始めたところに
例のあいつがやって来た。
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