アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
仔犬
-
……どうしよう…
俺の腹か胸くらいの高さで小さくなって仔犬みたいにぷるぷると震える女の子を前にしばし固まる。
まるで時間が止まったかのように俺の周囲だけがしんと静まり返っていた。遠くからは楽しそうな騒ぎ声が聞こえる。
この状況、第三者から見たらどういう風に映るんだろうか。
どう考えたって俺がこの子を虐めてるようにしか見えない、よなぁ…また変な噂が立ったら嫌だなぁ──…
「あー…人捜してんだけどさ、聞いてもいいか?」
「えッ──そ、それは…いい、ですけど…。
えと……どなたをご所望でしょうか…?」
「……は?」
「い、いえ!あの、もし私にご用でしたら…に、逃げませんので。だから、その、痛いのだけは……」
「……………」
もしかしてこの子はとんでもない勘違いをしてるんじゃないだろうか…
目が必死だ
「……いや、リンチの誘いとかじゃなくて…」
どう見たってパニック起こしてる目の前の子となんとか穏便に事を済ませようと右往左往してる俺。
どっちも機能してねえな。
「そ、そうでしたか…私、てっきり…。あっ、ご、ごめんなさい…」
「や、気にしなくていい…」
今日この時間だけでげっそりと痩せそうだった。
この子にとって今の言葉は何気ないことで、きっとそれは周りの人も同じ考え。
ああ、やっぱりか、って諦めとそれでも
本当はそうじゃないのに、と悲しくなる。
──"悲しい"…?
「あ…それで、誰を捜してるんですか…?」
「ん?
ああ、えっと──…」
そこでふと我に返った。
俺、あいつの名前知らねえわ……
「──男、なんだけど…背は俺と同じくらいで、前髪がうっとうしいほど長くて銀色なんだ。ピンクのカーディガンも着てたな…。
あ、あと、ものすごく性格が悪い。そんな奴、いる?」
「は、はぁ……」
その子は驚いたように目をパチパチと開閉させていた。
いっぺんに喋り過ぎたか、と少し心配したが無用だった。
「性格の悪さはわかりませんけど……
でも、多分、しおねくんのことだと思うよ」
「………しおね……?」
「うん……あ、いやっ、はい」
緊張が解れて多少なりと気を許しかけていたのか、その子は慌てて言い直した。
そんなにかしこまらなくても別に怒ったりなんてしないのに。
──"しおね"…か……
「そういえば、今日は朝から見てないなあ…」
「えっ、じゃあ来てないのか?」
「いえ、鞄はあるので…学校には来ているんだと思います」
俺を放っといてサボりかよ…
「…え?」
「──え、ぁ…いや、」
もしかして今の、声に出てた…?
「……あの…?」
「な、なんでも…ない。
それよりその、しおねの席、教えてくれるか?」
「あ、はい。こっちです」
その子にしおねの席とついでに居場所を教えてもらって、荷物をまとめていそいそと退散した。
なんで俺がこんなとこまで来てるんだ、とか
なんであいつの荷物を持って行ってるんだ、とか
なんでこんなに心がぐるぐるするんだ、とか
思うことは色々あったけどそのすべてがあいつに繋がることには変わりなかった。
教室を出て人とすれ違う度に聞こえた。
──『しおねのこと脅してるって噂、本当だったんだ』──
俯いたまま、ずんずんと廊下を突っ切っていく。
ヒソヒソと囁く周りの"音"が耳障りなほどにうるさく聞こえた。
早く、早く、早く──
今すぐここから立ち去りたかった。
こんなの、違う……
こんな感情を俺は知らない
「……あいつに…………会いたい………」
呟いた言葉は喧騒にかき消された。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 291