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答え合わせ
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公園からの帰り道
俺たちは手を繋いで歩いた。
慣れなくて、足取りもぎこちなかった。
そんな俺を見て汐音は「キスはできるのになんで恋人つなぎができないの」と呆れ顔だった。
「あーあ、なんだか君には一杯食わされた気分だよ」
「は? なんでだよ」
「…あそこで交換条件の話を持ち出されるなんて、想定外だ」
「じゃあ、どっから話せば良かったんだよ…」
「あのクダリはいらないっての。本気で嫌われたんだと思って…焦った。
結果的には君の本音は聞けたし、晴れて恋人同士にもなれたわけだけど。
…とにかく心臓に悪い」
「…キスされたのは想定内だったわけ?」
「……それも想定外だ」
むすっと頬を膨らませた。
…俺だけに翻弄される汐音か
それも新鮮でいいかもな
むくれる横顔を見ながらそう思ったのはもちろん秘密だ。
「そういえば、これ。結局どういう意味だったんだ?」
空いた方の手でポケットに入れていたクローバーとダンコウバイを持って見せた。
「なんだ、気になるの?」
「そりゃあ…まぁ」
言葉を濁すとどっちだよ、と膝裏を蹴られた。衝撃で、ガクッと体がくの字に折れる。
「き、気になります……」
「あ、そ」
ひょいと俺の持っていた二つを手に取ると、同じようにくるくると回し始めた。
「……『約束』、『わたしを見つけて』……」
「…え?」
「花言葉だよ」
くすっと笑い、俺に返してきた。
返されたそれを見つめながら、汐音の言葉を一考する。
…やはり、覚えがない。
「前から思ってたんだけどさ
俺、お前とのこと…なにか忘れてる?」
「……………」
「もしかして、"かおさん"て人も関係あんの…?」
"かおさん"の名前に反応して隣を歩く足がピタッと止まった。
はぁっ、と息を吐き出すと重々しく口を開き始めた。
「…本当は全部、君に思い出して欲しかったんだけど……それは僕の勝手なエゴでしかないのかもね」
「……………」
「一つだけ、教えてあげる。君、とんでもない勘違いをしてるよ」
繋いでいる手に力が入る。
汐音はくるりと俺の前に回り込むと人差し指をトン、と俺の胸に押し当てた。
「…?」
「"かお"はね、君のことだよ」
君が僕だけに許してくれた名前
と付け加えられた。
──要するに、俺は覚えのない自分に嫉妬してたってこと?
「……なんだそれ」
くそ恥ずかしい
つか、やっぱり俺、忘れてんじゃん…
「でも、いいんだ。忘れられてても、いい…。
また、こうして君とスタートを切れるんなら…これから知ってもらえばいいんだし。
それに、今の僕が好きなのは今の君だから」
「……………」
迷いのない、真っ直ぐな言葉に眩んでしまいそうだった。
…俺、愛されてたんだなぁ
「もう…どっちが先に好きだったのかわかんねえな」
「間違いなく君だろ。鈍過ぎて気付かなかっただけで」
「…そうかもな」
汐音は思い出さなくていい、って言ったけど
それじゃあ今までこいつが抱えてきた思いと割に合わない。
俺だって一緒に背負いたい。
痛みも、苦しみも、全部。
だったら、俺にできることは一つだけ──。
『好きだ』と言ってくれた、待っていてくれたこいつのために一つでも多くの記憶を思い出す努力をしよう。
今までずっと逃げてきた分、しっかり向き合うから……。
「…汐音。もう一回…キス、したい……」
「…ムッツリすけべ」
それでも、なんだかんだ言いながらも少しだけ背伸びをして、顔を近付けてくれるんだな…
今度は自分の気持ちを確かめるためのものではなく「愛してる」の意を込めて──
「……ん、…」
そっと、触れるだけのキスをした。
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