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不器用と鈍感
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するりと胸ぐらを掴んでいた手が滑り落ち、強く握られていたせいでTシャツには何本ものしわが刻まれた。
これで諦めてくれたか、と思った。
なのに──…
「…なんで泣いてんだよ」
「……え………?」
どうやら指摘されるまで気づいてなかったみたいだ。着ていたカーディガンの袖を引っ張るとゴシゴシと急いで涙を拭う。それでも止まらず、小さな嗚咽まで聞こえてきた。
耐えきれず、汐音は俺に背を向けようとしけど、俺がそれを許さない。
肩を掴み、無理やり向き直させる。
「っ、放せよ…」
「嫌だ」
「…なんだよ、見られたくないから放せって言ってんだろ。少しは察しろよ…っ」
「嫌だ、つってんだろ」
「あっ……!?」
ググ、と顔を覆っていた汐音の腕を力任せに退かした。
「……っ、」
「……も………最悪………見んな、よ…………」
ポロポロと涙を頬に伝わせた顔があまりにも綺麗で
ほんのり赤く色付いた鼻が無性にかわいく思えて
なんでかその顔をもっと見ていたい、と思ってしまって…
嫌だ嫌だと抵抗する汐音の腕を壁に押さえつけた。
案の定、汐音は余計に抵抗して、手を使えない代わりに顔を伏せてみたり足で蹴ってみたりした。さすがに足で蹴られるのは痛かったから汐音の股の間に自分の片足を差し入れておいた。
しばらく煩く威嚇していたけど、観念したのか、大人しくなってぐずぐずと鼻をすすりながら俯くだけになった。
どうして泣くほど怒っているのか、正直心当たりがない。
なにか悩み事があるにしても、汐音がここまで感情的になるほどのことなのだろうか?
そこが引っかかっていくら考えても目ぼしい答えは見つからなかった。
可能性としては瀬良に関することが大きいが、肝心の汐音は口を開く気配がなく実のところ、本当にそれが原因なのか否か判断がつかないのが現状だ。
だけど、そんな汐音を放っておけるほど図太い神経を持ち合わせてるわけでもなくて、掴んでいた腕を放してやり垂れた頭をそっと胸に引き寄せた。
突然のことにびっくりしたのか、引き攣ったような声が上がる。
「……っな…に……」
「…悪い。俺、お前がなににそんな悩んでんのか、正直さっぱりわかんねぇ」
「……………」
「わかんねぇから、俺のせいってことでいいよ。…やっぱりお前はいつも通りクソ生意気な汐音の方がよっぽどいい」
ひゅっと短く息を吸うような音が聞こえて、俺の胸にくっつけた頭をぐりぐりと押しつけてきた。
「……ふ、なにそれ。
…ばかじゃないの」
ほんと、素直じゃないな、思う。
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