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遠い
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トンネルに入りちょうど中間あたりまで進んだところで、鈍い音と衝撃が響いた。同時に、バツン、という音が鳴り照明が落ちる。
一瞬にして車内は暗闇に包まれた。
少し遅れて、アナウンスが流れた。
『──ただいまの衝撃は人身事故によるものと思われます。停電についても点検を致しますので、しばらくお待ちください。
なお、ご乗車頂いている皆様には大変ご迷惑をお掛け致します…』
"人身事故"という言葉に冷や汗が滲む。
まさか、あいつなんじゃ──…
どうにも落ち着かなくて、嫌な方にばかり考えてしまう。
心臓の音は相変わらずドクドクと煩いほど全身に響いている。
待ち時間の間、せわしなく手足が動いた。
5分、10分、15分──
5分刻みに時間が過ぎていく。
段々と焦りと苛立ちに限界が近づいてきたところでアナウンスを知らせる音が鳴った。
『──先程のは人身事故ではなく、線路に落ちていた木片が原因であると判明致しました。回収作業に入りますので安全のため、もうしばらくお待ちください』
良かった、汐音じゃなかった……
そのことに溜めていた息を吐き出すほど安堵した。
けれど、ほっと一息ついたのも束の間、次に流れてきたアナウンスに今度は奈落の底に突き落とされたような気分になった。
『また、衝突による電車の損傷が激しく、運行再開の目処は立っておりません。詳細がわかり次第、お客様には随時アナウンスをさせていただきますが──…』
最後まで聞き終える前に体が動いていた。
暗闇の中、手探りで扉を探す。
引っ掛かりを見つけてすぐさまそこに指をかけ力任せに引っ張るが、固く閉ざされた扉は簡単には開かない。
「くそ…っ開けよ、開けったら!!」
「……あっ、お、お客様!? お止め下さい、危険ですから!」
「電車が動かないなら歩いて行く…だから、早く開けてくれ!」
駆けつけた乗務員に止められ、許可はできない、開けられないと言われ、それでもなお「開けろ」と喚き続ける。
「……お願い…、だから……っ」
今日じゃないと、今俺が行かないと駄目なんだ
例え行った先にあいつがいなくても構わない
どこにいたって、いつまでだって
俺が絶対に見つけ出してやると言ったんだから
「──くそおぉおっ!!」
やるせない思いが溢れ、真っ暗な車内に俺の叫び声だけが響いた。
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