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空虚
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黒煙が辺りを覆う。
そして、その後ろから炎の波が全ての木や動物までも飲み込んでいく。
大蛇のように...
俺らは、全力で火から逃れようとひたすらに走り続けた。
恐怖さえ、感じている暇もなく。
煙を吸い、さらに息が辛くなる。
けれど、なおも後ろを振り向くことすらせずにただただ走り続けた。
生きるために。
離れないために。
そして、見知らぬ滝壺に入り、俺ら2人は意識をなくしたのだった.....
焦げくさい匂いで目が覚める。
その匂いで、昨日の記憶がフラッシュバックし、恐怖で足が竦んだ。
情けない。
そう思っても、怖かった。
迫り来る炎が、カインを連れ去ってしまいそうで....
はっとして、隣を確認する。
服が所々焦げてはいるものの、カインはなんの問題もなさそうに熟睡していた。
ホッと安心し、カインが俺にやるようにカインの赤毛をクシャリと撫でた。
暖かい感触が手から伝わる。
そこで、自分の身体が想像以上に冷えていることに気づく。
服が濡れているせいだろう。
とにかく、ずっと滝壺のなかで寝ているわけにもいかない。
それに、服も乾かさなければ。
隣の熟睡中のカインを叩き起こす。
「おい、カイン!カイン、起きろ!」
頬をペチペチと叩く。
「うーん?」
カインは、眠い目をこすりながら、ゆっくりと起きあがる。
なんとも、呑気なことで...
「おはよう、デーヴァ...」
いつもにも増してけだるげな挨拶。
いつも以上に疲れていたのだろうか。
しかし、服が濡れているから外へ出て乾かさないと。
だから、ぼさっとしているカインを無理矢理手を引いて、滝壺の外に出た。
肉の焦げた匂いが一層ひどくなる。
そして、想像以上の悲惨さに言葉を失った。
木々は、焼け焦げ、動物の気配はどこにもない。
カインもまた、言葉を失っていた。
そして、苦々しそうに唇を噛んだ。
たぶん、優しいこいつのことだから、親や村人たちのことを気にしているのだろう。
こいつには、両親も家族もいる。
そして、俺以外の友人も。
だから、心配するのも、極自然だろう。
だけど、あえて慰めの言葉は口にはださなかった。
出せなかった。
俺が言ったところでそれはエゴにしか過ぎないから。
僅かな沈黙のあと、カインは気分を変えるかのように、滝の冷たい雪解け水を頭からかぶった。
その行動に俺は呆れ、冷たい視線さえ出来なかった。
一瞬、狂ったのかとさえ思った。
「さぁて、どうしようかデーヴァ?俺もうお腹ペコペコなんだけど...」
そういわれてみれば、そうだ。
昨夜の襲撃騒ぎで夕食は疎か、朝食でさえ食べ逃しているから、あたり前ではある。
だけど、あたりを見渡したところで全てが焼け焦げ食べ物はありそうにない。
俺が、頭を抱えていると、カインが嬉しそうな声をあげた。
「ねえ、デーヴァ、あれ!」
すぐ隣にいたはずのカインはいつの間にか焦げた木の天辺まで登っていた。
俺も仕方なく登り、カインの視線の先を見やる。
そこには、巨大な石の壁で覆われた巨大な建築物が立っていた。
「あれが、外の世界の...?」
交流は、厳しく禁止されていたため、話でしか聞いたことのない世界。
森の民と異なる世界。
「なぁ、あそこに人間がいるんだったら、食料だってあるはずだろ?」
カインのいうことには、一利あるが...
と不安はあるものの、自分自身、お腹が減っているので、頭が回らない。
とりあえず、カインの案に乗り、服を乾かしてから、その巨大な建築物に向かって歩き出したのだった。
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