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あれから、長瀬からは2、3度、手紙が来た。わかる範囲で警察の捜査状況などが
書かれていた。もちろん、こちらから返事は出さない。
長瀬が、絶対に雫には知らせるな、と前置きして書いてきたことを、口にした。
「おまえの大事な灯真さんな。絵の具喰って死にかけたらしい。」
「えっ!」
弾かれたように雫が体の向きをかえた。
カドミウム・レッドのことだとすぐにわかった。
この絵の具が毒だと長瀬に教えられたとき灯真は、
「今度また、ひとりぼっちになったときは、コレを飲めばいいんだ。」と
冗談とも本気ともつかない独り言を言っているのを聞いたのだ。
千田につかみかかるようにして「助かったんですよね?」と確認する。
頷いた千田を見て「ああ。」と両手に顔を埋めて嘆息した。
「だがな、それから魂が抜けたみたいにぼやーーーーっと過ごしてるらしい。」
雫の胸が針につかれたように痛んだ。
今すぐ飛んで行ってあの細い体を抱きしめたかった。
「なあ、おまえ、このままでいいと思ってないんだろう。」
千田のその問いに、すでに雫の頬を濡らす涙が答えていた。
指でその涙をぬぐってやりながら、もうすっかり馴染んでしまった
雫との暮らしに、終止符をうつ時がきたか、と思った。
こんな俺には、幸せすぎた時間だったな・・・・。
「とるべき道はふたつある。一つは、警察に自首すること。」
時間はかかるが、綺麗なからだになってシャバに戻れる。
雫は即座に首を横にふった。
「灯真さんを巻き込んでしまう。あの人にこれ以上辛い想いをして欲しくない。」
「もうひとつは、お前がお前でなくなることだ。」
「?」
「なあ、雫。おまえその灯真とやらのために、自分を全部捨てられるか。」
「全部って?」
「顔も名前も・・・全部だ。」
雫はすぐに頷いた。が、少し考えて、「目だけ・・・。」と呟いた。
「ん?」
「灯真さんのかわりに見えなくちゃいけないから、目は捨てられません。」
と、真剣な顔で言った。
「はは。」呆れて思わず笑ってしまった。目だけ残してどうするんだ。
どこまで一途なのか。可笑しすぎて涙が出るぜ。
「千田さん?」
千田はあわてて目をこすって言った。
「灯真んちの庭師が、もうヨボヨボなんだそうだ。跡継ぎがいなくて、
かわりの職人を探してるらしい。これ、百姓のネットワーク情報。」
「?」
「おれにちょっと考えがあるんだ。」
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