アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
51
-
3度目のロウバイが部屋に届いたころにはまだナイフのようだった空気が、
徐々にゆるみ柔らかく日差しに溶け出した頃。
「今日は暖かいから、すこし庭に出てみるかい、灯真。」
長瀬に誘われて、灯真はゆらりと椅子から立ち上がった。
「はい。先生。」
長瀬に肩を抱かれて、屋敷の外にでる。
うららかな日差しに誘われて、鳥がさえずりを交わす初春の風に、
灯真の銀色の髪がそよと揺れる。同時に、甘やかな香りが鼻孔をくすぐった。
「またなにか咲いてるの?」
灯真のほうから尋ねてくるのを、嬉しい気持ちで聞きながら、
長瀬も風の匂いを嗅いだ。
「ああ、いい香りがするね。」
花の方へ進みかけたとき、屋敷から使用人が声を掛けて来た。
「先生。申し訳ありません。税理士のかたからお電話が。」
灯真の父が不在がちのために、長瀬がかわりに行わなければいけない庶務が
増えていた。
「あとで折り返すと言ってくれ。」そう返す長瀬に、
「先生、いいよ。行って来て。僕ここで待ってるから。」灯真が言った。
「いや、しかし。」
「大丈夫。」
長瀬はしばらく迷っていたが、用件はすぐ済むだろうと判断し、
灯真の白い頬をそっと手のひらで撫でて、
「じゃ、一人で動くんじゃないよ、いいね。」
と小さな子供に諭すように言うと、屋敷に駆け戻って行った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
51 / 60