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結城一門
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結局、夕方まで高平家にお邪魔していた。
高平家から徒歩5分程の距離にある俺の実家。
地元で有名な老舗和菓子屋を代々営んでいるため、古いが立派な数寄屋造りのお屋敷だ。
会長の家のように、使用人を雇っているわけではないのだが、きちんと庭が手入れされている。
親父がやったのだろう。
庭を抜け、玄関に辿り着く。
インターホンを押すと、すぐに人が出てきた。
「はぁーい…って!あ、兄上!!」
出てきたのは俺の妹・七瀬だった。
「ただいま、七瀬。」
仏壇の前に座り、線香を供える。
そして手を合わせながら、写真を見つめた。
「…ただいま、母さん」
そうとだけ呟くと、深呼吸して台所に戻った。
台所では七瀬が、黒くて艶のある長髪を1つに結び、祖母に貰った割烹着を身に纏って、野菜を切っていた。
「七瀬、夕飯なに?」
俺が横から覗き込むと、
「今日はすき焼きでごさりまする!兄上が帰郷致すと聞いたので、奮発してしまいましたっ!」
と言いながらスーパーで買ってきた肉を見せる。
国産の和牛…うまそう
「俺、何か手伝うことあるか?」
「全くありませぬ。お暇ならば父上とお話になって下さりませ。」
「おう……」
俺は離れにある道場へ向かった。
そういえば、家族の話をしていなかったな。
変な喋り方ですき焼きを作っているのは結城七瀬。
俺の3歳下の妹だ。
何故あんな喋り方かというと、
以前は一緒に暮らしていた祖父が、昔から武士言葉を使う人で、祖父を尊敬していた七瀬は小さい頃から真似をしていた為、ああなってしまった。
そして七瀬は、親父をしばいて時代劇チャンネルを付けさせる程の時代劇ファンなので、それのせいもあるだろう。
ちなみに祖父は俺が中学生の時にハワイに移住した。
今頃ワイキキビーチでサーフィンでもやっているのだろう。
母親は9年前に病気で他界。
七瀬も俺もまだ幼かったが、母親との思い出は鮮明に覚えている。
気が強いが、とても優しく、家族想いな母親だった。
あと紹介していない人といったら…
俺が道場の戸を開けると、声をあげて竹刀を振り回していた男性が、ピタリと動きを止めてこちらを見た。
真剣な顔が、満面の笑みに変わる。
「よう宗吉!正月ぶりだな!」
懐かしい低い声を聞いて、俺も頬が緩んだ。
「ああ…ただいま親父。」
親父は47歳の和菓子職人だ。
しかし、剣道6段を持つ武道家でもある。
俺の家は武道一家で、妹は空手(親父は女の子なら芸道をと茶道をやらせたが、本人がお抹茶が苦くて無理と言って辞めた。)、俺は剣道と弓道をやっている。
祖父は剣道、居合道、柔道の有段者だ。
祖父がいた時は門下生もいて、親父も教えていたのだが、今は閉めている。
「七瀬が継いだらまた始める」とは言っているが。
親父は首に掛けたタオルで額の汗を拭きながら、戸に寄りかかる俺に近づいてきた。
「まだまだ現役、か。」
俺がそう言うと、親父はいきなり竹刀を振り下ろした。
ヒュンと音を立てて風を切る。
そして俺の鼻先でピタリと止まった。
…………
……顔には出さなかったが、内心ヒビった。
うわー本当にこんな事する人いるんだー…と内心引いてもいた。
親父は「お前は衰えたみたいだな。」と鼻で笑った。
俺は向けられた竹刀をやんわり除ける。
「もう剣道はやってないんだから仕方ないだろ…」
「んじゃ、久しぶりにやってみるか?」
「…俺、弓道部なんだけど。」
「小手は狙わんぞ?」
「イヤ、そういう問題じゃないから。」
俺は溜息を吐いた。
親父は「久しぶりに誰かと手合わせしたかったんだけどなぁー」とブツブツ文句を言いながら竹刀を片付けに行った。
…本当に全然変わってないなこの家は。
俺は懐かしく思いながらも、やれやれと苦笑した。
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