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第十九話 本当の自分
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朝6時00分、目ざましが鳴る少し前に起床。
階段を下りて、洗面所へ行って顔を洗う。
希にはボーッとしてるって良く突っ込まれるから、意外かもしれねーけど結構早起きだ。
俺は昔から心配症で、遅刻したらどうする?変な寝ぐせがついてたりしないか?
なんて不安から、早く目が冷めてしまうんだ。
俺の家は母子家庭で、母親は忙しく働いてくれている。
家族は、母親と小学生の妹の小春(こはる)、そして俺の三人だ。
朝ご飯を食べたら小春の髪の毛を結ってやる。
今日はトップが編み込みの二つくくりだ。
すげー喜んでくれるから、手先が器用でよかったと思う。
七時に家を出て、少し歩いてバス停へ。
バスに乗って学校に着くのは八時少し前だ。
悠宇と希は八時を過ぎないと来ないから、誰と挨拶するでもなく黙って席に向かう。
今日もいつも通りな予定だった・・・・・
「真咲君、おはよう!」
バスケの試合以来挨拶してくれるようになった横手さん、いつも、挨拶を交わすとピューッと席に戻っていくんだけど、今日はいつもと様子が違った。
「・・・おう、おはよ。」
「真咲君って、いつも早いよね。」
「そうか?」
早い、かな?教室をくるりと見渡す。クラスメイトの半分も来ていなかった。
うん、早いうちに入るな。
横手さんはかなり小さい。希の頭一つ分小さい感じ。
で、何か続きがあんのかとじっと見ていると、横手さんが真っ赤になってアワアワしだした。
ハムスターみたいで可愛い。
ちょっと笑ってしまったけれど・・失礼だったな。
せっかく話しかけてくれたけど、何も思い浮かばない俺。
「じゃ・・・」
これ以上困らせても悪いから席に着こうと横を通り過ぎようとしたら、
真っ赤になった横手さんが俺の制服の裾を引っ張った。
「えと・・・・あ、はは・・・見て真咲君、紗由達、朝から髪の毛いじってるんだけど、
ヨレヨレになっちゃってるの。」
「あ、真咲君、おはよ~見てよこれ~」
「も~!佳織が雑誌見て可愛くしてくれるっていうからいじってもらったらコレだよ!きゃはは」
横手さんが話を振った先を見ると、豊田紗由さんに三好実湖さん、そして三浦佳織さんが騒いでいた。
この三人はいつも悠宇の傍にいるから良く覚えている。
朝から大爆笑している三人。
三好さんがくるっと後ろ髪を見せてくる。
見ると、髪の毛がモシャモシャと絡まったように編まれていた。
クシを持って雑誌を覗き込む三浦さんは、あれ~?おかしいな~とブツブツつぶやいている。
どうしようとしたらああなるんだ・・・・
気になって、雑誌を覗き込む。
雑誌には、『カチューシャ風編みこみ』とタイトル付けされていて、丁寧に写真つきの解説が載っていた。
左右のどちらかから髪を編みこんでいって、残した後ろ髪は一つに結ぶ。完成すると編みこみがカチューシャのように見えるヘアスタイルだ。
これ、小春にやってやったら喜ぶな・・・・。
「貸して。」
三浦さんに向かって右手を差し出す。
「え・・・・・・?あ、クシ???は、はいどーぞ。」
「三好さん、ちょっとじっとしてて・・・。」
髪をほどいてクシでとく。三好さんの髪は左に流れる癖があるから・・
右から左に編みこもう。
小春より髪が長いから編みやすいな・・・
よし、これで、後ろに残した髪と一緒にくくって・・・
「よし。できた。」
気がつくと、豊田さんと三浦さん、そして横手さんが俺の手元をじっと見つめていた・・・
あ、マズイ・・・また似合わない事やっちまった・・・・
『え~似合わない〜。もっと男らしい人だと思ってたのに。』
いつかの記憶が蘇って、サーっと血の気が引くのを感じる。
こういう事、時々言われてたな・・・
俺の見た目と何が似合わないんだろ、甘いもの?器用な手先?俺の、性格全部??
中学生だった当時は良く分からなかったけど、今はなんとなく分かる。
だから気をつけようと思ってたのに・・・
また、なんか言われんのかな・・・・・
気まずくて立ちすくんでいると、横手さんがさっきまでとは比べ物にならない位大きな声を出した。
「す!すごい~~~~~~!!!真咲君、すごいよ!!!!」
「ほ、ほんと・・・私より全然上手・・・」
「ちょ、佳織、比べ物になんないよ!真咲君すごすぎ!そんな特技あったの!?」
「え?え?そんな綺麗にできたの???鏡見せて!
・・・わ~~~雑誌と一緒だ!!!!嬉しい~~~~!!!」
え・・・・拍子抜けだ・・・
なんだ、すげー喜んでくれてる。
よかった・・・・・
そこに希と木下がやってきた。
「おはよ~!皆、盛り上がってるね~~」
「はよーっす! え?これ真咲がやったの!?
なんなのお前、すごすぎんだろ!!!!」
木下にバシンと背中を叩かれる。加減を知らない木下・・・いてぇ・・けど、こういうの、悪くないな。
注目されるのは苦手だけど、喜ばれると嬉しいし、褒められると気分がいい。
なんかむずがゆい感じ・・・・
「あ・・じゃ、横手さん、俺席行くから。」
「あ、うん、話してくれてありがと!」
「私も!髪の毛してくれてありがと~~!」
ちょっと振り向いて小さく返事を返す。
素の自分でも、案外皆気にしないのかも。
ちょっとだけ、気負っていた気持ちが晴れて気分がいい。
希と連れだって席につく。
「聡太~朝から何があったのさ~!」
「いや、横手さんが話しかけてくれて・・・そしたらああなった。」
「はしょりすぎ!!!!!てか、横手さん・・・・」
「なに?」
「や、何でもないよ!今日のお昼、緊急会議だから!
チャイム鳴ったら、すぐに屋上だよ!分かった!?」
「お、おう。」
希の勢いに負けて返事をする。何の緊急会議なのかさっぱり分からないけど、
とりあえず屋上、だな。
☆
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