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第四十六話 幸せの中の影 side 朝比奈 悠宇
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朝学校に行くと、好きな人がいて、そしてその人も俺を待ってくれていて。
嬉しくて自然と顔がほころぶ。俺は最近毎日がすごく楽しくて・・・
聡太のおかげで迫さんとのわだかまりも解けたこともあるし、
何よりも聡太が隣に座っていると思うだけで、つまらないハズの授業までなんだか楽しく感じるから不思議だ。
「じゃ、書き取りのノート順に前に回してー。集まったらクラス委員が科学準備室に持って来といてな~」
山本先生のやる気の無い声が教室に響く。
「はい。」
「ん、朝比奈よろしくな~!」
中学の時そうだったように、俺は今のクラスでもクラス委員を買って出ていた。
山本先生は、普通だったら教師が言いそうにない事を平気で言ってのける人だ。
妙にハイテンションかと思いきや、突然やる気が無くなったり。
短く整えられた髪に、一重だけど大きな瞳、鼻筋の通った形の良い鼻、下唇が少しだけ厚くて・・
見た目の良さもあって、その性格は女子達からは子どもみたいで可愛いと好意的に受け止められている。
くだらない冗談にも付き合ってくれるから、男子生徒にも人気があるみたいだ。
それに、俺達と年が近い事もあって、先生の周りには常に生徒達がいて・・・
でも、俺は先生が時々見せる冷たい表情が少し苦手だったりする。
まあ、そんな深く関わる事もないだろうし、一年間だけの担任だ。
その時の俺は、少し苦手な先生という認識位で特に気にも留めていなかった・・・・。
休憩時間、教卓に集められたノートを運ぼうと前に出ると後ろから豊田さんに声を掛けられた。
「朝比奈君、一緒に行こうか!よいしょ・・・・」
そう言って、半分の束を抱える豊田さん。
入学式の後、俺がクラス委員に立候補するとすぐに豊田さんが立候補してくれて、委員長がすぐに決まった事もあってクラスの雰囲気が一気に良くなったんだ。
「待って、半分は持ちすぎ。ほら、この位でいいよ。行こうか。」
豊田さんが持ち上げたさらに半分を上から取って俺の束に重ねながら、当時の感謝の気持ちを思い出して、自然と笑みがこぼれた。
「・・っありがと・・・・」
あ・・・・つい・・・・・・・やってしまった。
少し赤くなって俯く豊田さんを見て、胸がズキリと傷む。
俺は決して鈍くない。豊田さんの気持ちは分かっているつもりだったのに。
普通に・・・皆に優しくしたいのに、裏目に出る時があって・・。
「悠宇!豊田さん・・・!」
教室を出て少し歩くと、突然後ろから呼び止める声。
いつもの聡太からは想像できない位大きな声で少しビックリする。
「あ、真咲君~ どうしたの?」
「それ・・・俺が持つ。」
「え・・・・?」
「女の子に重たいもん持たせらんねぇし・・・それに・・・」
一瞬、少し残念そうな顔をした豊田さんだったけれど、聡太の言葉を聞いてパッと顔が明るくなった。
「真咲君って、見た目と違って優しいよね!ふふ。じゃ~よろしくっ」
豊田さんの明るい大きな声が、語尾が小さくなる聡太の言葉をかき消すように重なった。
そして、ニコニコと聡太にノートを手渡すとそのまま教室の方へと戻って行ってしまった。
「・・・・見た目と違う・・・・。」
ちょっとした一言に地味に傷つく聡太。
少し鈍感でマイナス思考な聡太は、今までその事で悩んできた事もあって悪い意味に捉えてしまうようで。
去っていく豊田さんを見つめながら、ポツリと呟く姿はシュンしているように見えた。
そんな姿を見ると、無性に抱きしめたくなるけれど、両手はノートでふさがっている・・・・
いやいや!その前にここ学校だった!!聡太といると、俺まで周りが見えなくなるみたいだ・・・
「聡太が優しいのは、俺が知ってるから」
トン・・・
肩で聡太の腕に軽く触れて、少し見上げてニッコリとほほ笑みかけると聡太もふわりと笑い返してくれた。
「あ、・・それも、俺が持つから。」
豊田さんに何か言おうとしていた聡太は、結局その言葉を飲み込んで俺が抱えるノートの束を下からひょいっと持ち上げた。それはあっという間の出来事で。
聡太はクラス全員分のノートの束を抱えてスタスタと歩きだしてしまった。
俺は男としてもデカイ方で、今までだって教材を運んだり重たい物を動かしたり・・女の子の代りに力仕事をするのが当たり前だったから、こんな風に気遣ってもらった事は初めてで、ビックリして少し固まってしまった。
少し歩いた聡太が、クルリと振り返って困ったように眉を下げる。
「・・一緒に行きたいんだけど、着いてきてくれるか・・?」
「・・・っ・・!もちろん、一緒に行く!聡太、ありがとう!」
俺がついて来ないから、不安になった聡太が伺うような視線を投げかけてくる。
こういう所は何故か弱気で・・・でも、時々すごく男らしくて。
聡太のギャップに俺はいつもドキドキさせられる。
それに、こんな女の子にするような事をされて嬉しいと思ってしまう自分がいて。
そんな自分に戸惑いつつも、聡太の優しさに胸がぎゅっとなる。
とても短い休憩時間だけど、少しでも長く一緒にいたい。
「さっき、言いそびれたんだけど・・・」
「ん?」
少し気まずそうに視線を彷徨わせる聡太。
先を促すように、返事をすると・・・
「豊田さんと二人きりって事がなんか嫌で・・・豊田さんには、悠宇と話してーからって言おうとしたんだけど、言いそびれた・・・変に喜ばせて悪かったかな。」
「ふふ。女の子に、重たいもの持たせたくないのは本心だろ?大丈夫だよ。」
人が羨む要素を何でも持っていて、驕っていてもおかしくないのに・・・
いつも、人の気持ちに真剣に向き合って、ちょっとした事でも悩んで・・・
そんな優しい聡太を見て、あーやっぱり好きだなーって実感する。
俺と話すために、わざわざ追いかけてくれて・・
聡太も俺と少しでも一緒に居たいと思くれていることが嬉しかった。
・
・
・
コンコン・・・・
「は~い、入って~」
ガララーーーー
校舎の端にある科学準備室のドアを開けると、白衣を着てパソコンに向かう山本先生がパッと顔を上げた。
「お~真咲も手伝ってくれたのか。・・・ん?全部?」
ノートを渡すと、山本先生が不思議そうな顔をした。
わざわざ二人でやってきて、クラス委員でもない聡太が持ってるなんて確かにちょっと変だったかな・・・
「俺が持ちたかったんで。」
「そっかそっか、ありがとうな!
しかし、二人並ぶと壮観だなー 女子がほっとかねーだろー
二人とも、もう彼女いんのか?俺が取り持ってやろうか?」
あははと笑いながら、いつもの冗談。
山本先生は教師の癖に自称 <男女交際推進委員長> と言って皆を笑わせている。
「・・・俺は彼女とかいいです。」
「真咲、何お前・・・出家でもすんの!?高校一年にしてそれはね~わ!女つくれよ女!ははは」
「俺は悠宇が・・あ、友達がいたら、それでいいんで。」
「・・・・ふ~ん・・・・」
上から下まで、ゆっくりと俺達を値踏みするかのように見てくる先生はいつもと違った雰囲気で・・・
ゆっくりと立ち上がって、白衣のポケットに手を突っ込んだまま俺達に近付いてきた。
あ・・・なんか、今の先生の目、嫌な感じだ・・・
「真咲、身長いくつ?」
「は・・?182ですけど・・・」
「俺より4センチもデカイのかよ!
ん~朝比奈は・・・もうちょっと小さかったらな・・・・。
で、男だけでつるんで、そんなに楽しいのかよ?」
「何が、言いたいのか分からないんですけど・・・。」
「っ・・・先生、聡太は真面目なんで、いじらないでください!じゃあ失礼します!」
先生は明らかにいつもと違う、異様な雰囲気だった。
変に真面目な聡太は聞かれたら何でも返事をしないといけないと思っている節がある。
これ以上ここに居たらとんでもない事を口走りそうだと、聡太の手を引いて慌てて外に出た。
☆
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