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第五十話 溢れだす気持ち
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科学準備室を出て、悠宇の手を引いて夕暮れの校舎を歩く。
何時なんだろう・・外からは部活に励む生徒の声が聞こえてくるけれど、
誰もいない廊下には窓から差す夕陽が等間隔に落ちていて。
まるで、校舎内には俺達だけが存在しているみたいだ。
「聡太、ありがとう・・・」
後ろから、思いがけない言葉が掛けられる。
足を止め、振り返ると困ったような笑顔の悠宇。
「そんな・・・俺が一緒にいなかったから・・・
すぐに駆けつけてやれなかったから、こんな事に・・・。
礼なんて・・・。」
はがゆくて、繋いだ手に力が入る。
そんな俺を見て、また困ったように笑ったかと思うと、
繋いでいない方の手に、悠宇のもう片方の手が伸びてきてそっと手をつながれた。
窓から差す夕日を受けて、キラキラと輝く悠宇。
「聡太のせいなんかじゃないだろ。
俺が力で敵わなかったせいだし・・・
いや、やっぱ、山本先生のせいだし・・・はは・・」
「俺、あんなに人に腹が立ったの初めてだ・・・。」
「俺のために、あんなに怒ってくれてありがとう。
俺が欲しい言葉を全部くれて・・・
こんな事言ったらアレだけど・・・俺、今すごく嬉しいんだ。」
「・・・・・・・。
でも、悠宇が不安がってたのに・・・すぐに助けてやれなくて・・・」
「聡太が来てくれたから、全部吹き飛んだよ。」
そう言って、俺の大好きなあの柔らかい笑顔で笑いかけてくれて・・・
繋いだ両手に力を入れてグッと引き寄せると、素直に悠宇の体が俺にもたれかかってきた。
そのまま、優しく抱きしめる。
「聡太・・・・本当、来てくれた時は夢かと思ったよ・・・」
俺の肩に顔を埋めてゆっくりと呼吸を繰り返す悠宇。
そんな悠宇を、俺の精一杯の気持ちを込めてさらに強く抱きしめた。
愛おしい・・・・もっと近くに・・・もっと悠宇が欲しい。
「結局、何もなかったから・・・俺は大丈夫だよ。」
「・・・・・・味見って言葉が・・・ひっかかるんだけど・・・」
「!!!わ・・・忘れて欲しいんだけど・・・・・山本先生・・すごく嫌な言葉使うよね・・・。」
抱きしめたまま見下ろすと悠宇の耳と頬がわずかに染まるのが見えて・・・
何があったんだよ・・・
でも、今聞きだすのも・・・・な。
「悠宇・・・まだ、時間あるか・・・?」
「うん。俺門限とかないし・・・・どうしたの・・?」
「二人きりになりたいんだけど。」
そう言うと、少し赤くなって辺りを見回す悠宇。
こんな事で、いちいち赤くなって俺を意識してくれるところがスゲー可愛いと思う。
「俺の家、今誰もいないから・・・ちょっと寄ってって。
俺、もう我慢できそうにねーから・・味見じゃなくて、悠宇の全部がほしいんだけど。」
「・・・・・っ・・・・う、ん。
・・・・・・・・・・あれ??妹さんは・・・?そういえば、聡太帰ったハズだったのに、どうして・・・」
真っ赤になってYESと言ってくれた悠宇。それだけで俺の心が満たされる。
急ぐつもりは無かったけど、あんな事があって悠宇への独占欲が増したかも・・・
バスで俺の家に向かう間に、悠宇と別れた後の事を話すことにした。
・
・
・
俺は教室を出ると、妹が待つ家に早く帰ってやろうと足早でバス停へ向かっていたんだけどーー校舎を横切る瞬間、背中にゾワリとする感覚が襲って来て・・・
視線・・・・・?
パッと校舎を振りかえると、科学準備室から俺を見下ろす山本先生が見えた。
目が合ったかと思うと、さっと部屋に入って行ってしまったけれど、絶対こっちを見てた・・・
悠宇は夕方まで委員会のハズだ。
その後何かないといいんだけど。
俺達にしつこく絡んできた姿を思い出す。
悠宇があんなに気にするなんて・・・
ザワリと胸騒ぎ、嫌な予感がする・・・
携帯を取り出して、希の番号を呼び出す。
プルルループルルー ピッ・・・
「はいは~い 聡太~どしたの~?」
「希・・お願いがあるんだけど・・・」
そこで、いきさつを話して妹を連れて希の兄貴の美容室へと向かった。
初めて会う希の兄貴は華奢だけど身長は俺と同じ位で、不思議な雰囲気の人だった。
「わ~聡太の妹ちゃん!小春ちゃんだったよね?
初めまして!僕は聡太の友達の、希だよ~!よろしくね☆」
「聡太君、小春ちゃんはじめまして。希の兄の光(ひかり)です。希と仲良くしてくれて、ありがと~ね。」
「初めまして!小春です!小学校5年生です。今日はよろしくお願いします。」
「わ~きちんとご挨拶できるんだ。もうお姉ちゃんだね~ふふ。」
初めて入る店内はホワイトを貴重として、家具や小物はブラックで統一されていて・・
そこに、ホワイトのⅤネックシャツの上に黒のジャケットを羽織り、黒のスキニ―パンツを綺麗に着こなした希の兄貴が立つとまるでそれが完成された絵のように様に格好良くて。
きっと、外で見たら奇抜に見えるだろうグレーの髪もここだとすごく自然で。
アーモンド形の瞳は、笑うと猫の目のように少し釣って、色気のある大人の男性って感じで・・
兄弟だけど、小さくて可愛い雰囲気の希とは全然タイプが違うんだな。
「・・・・希ちゃん・・・男の子・・・なの?」
「ん???ん~~~???」
「希ちゃん、可愛い、お姫様みたい。」
「えええ~!僕男の子だよ!王子様だよ!」
「違うよ~~お姫様!ふふふ。」
「小春ちゃん、そうだね。希はだれよりも可愛いお姫様だよ。」
そう言って、光さんは希を後ろからぎゅっと抱き寄せた。
「兄ちゃん!紛らわしい事言わないで~~!」
「俺にとっては、ね。ふふふ。」
「お姫様だから、お化粧してみよう!!!」
「小春ちゃん、何言ってるの~~も~~~!」
確かに、細身のロングパーカーに、グレーのスキニ―パンツを履いた希は小柄で華奢なせいもあってか、いつもより中世的な雰囲気が増していた。
・・・早くいかねーと、と思ってチラリと時計を見て時間を確認すると、まだ、委員会の時間で。
それなのに、何故か悠宇の顔が早く見たくて不安で仕方なかった。
「お兄ちゃん、用事があるんでしょ?私希ちゃんに遊んでもらうから!お店のお手伝いもするよ!」
「小春・・ごめんな。
希、光さん、急なお願いを聞いてもらってありがとうございます。」
「ウチは全然かまわないよ~
ちょうど、今日はもう予約もないしね。
晩御飯も、ウチで食べてもらっていいから気になる事は、しっかり解決しておいで。
希からちょっと聞いたんだけど・・・担任って山本 敬(やまもと けい)だよね?
俺高校の時の同級生でーーーーーーー」
・
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・
「そっか、そんな事が・・・・。
聡太、俺のためにありがとう・・・。
皆にも迷惑かけちゃったね。」
「希と光さんには感謝だけど、小春はすげー喜んでたから気にすんなよ。」
バスを降りて、俺の家に向かう。
これ以上、気にしないようにと優しく頭を撫でて笑いかけると、悠宇の顔がどんどん赤くなっていって・・・
「聡太って・・・格好イイよね・・・・・。」
「は・・・・・・・?」
「いや、いつも思ってたけど・・・何となく。言ってみた。あは。」
「・・・・・・っ・・・・。」
やばい、悠宇がいつも以上に可愛く見える。
家までは後少し、その距離すらもどかしくて・・・
そこからはちょっとだけ早足になってしまった。
☆
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