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第五十九話 好きな人 side朝比奈 悠宇
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「朝比奈君・・委員会で知り合ってお話するようになってから
優しいところがすごく素敵だなって・・
好きになりましたッ・・!良かったら、付き合ってください!」
ブレザーの端をギュッと握りしめて、俺に真っすぐな瞳を向けて告白する真野さん。
その手は少し震えていて・・・
勇気を出して言ってくれてるって事が伝わってくる。
真野さんは隣のクラスの副委員長で、
各クラスのクラス委員と副委員が集まる学年委員会で
隣の席になったのがきっかけで時々話すようになったんだ。
廊下ですれ違う度、いつも明るく話しかけてくれて、
その元気いっぱいの笑顔に俺もつられて笑顔になっちゃうようなお日様みたいな女の子。
でも、俺が好きなのは聡太でーー
これから何をするのも一緒が良くて、もう聡太意外は考えられない。
話した事がない子からの告白でも、断る時は胸が痛むけれど
こうして仲良くしていた子なら尚更辛い。
「ごめん・・・俺・・・」
言いかけて、その続きが浮かばずに固まってしまった。
好きな人がいる?付き合ってる人がいる?
何て言ったらいいのか、いつも迷ってしまう。
「いやいやいや!!私こそ、なんかごめん!言えてスッキリしたから・・・
友達として、これからも仲良くできたらいいから、そんな顔しないで。」
一瞬の沈黙の後、真野さんが手をぶんぶんと振りながら
一生懸命笑顔を作って、黙り込む俺を気遣ってくれた。
「真野さん、告白嬉しかったよ。ありがとう・・・ごめんね。」
俺を好きになってくれてありがとう、気持ちに応えられなくてごめん。
そんな気持ちを込めて感謝を伝えたーーー
キーンコーンカーンコーン・・・
「あ!予鈴!貴重なお昼休みにごめんね!
また話しかけちゃうから!ふふ、聞いてくれてありがとう。またね!」
そう言うと、真野さんはクルリと振り返って元来た廊下に向かって走りだした。
ありがとう、ごめんね、色んな気持ちがグルグルと胸に渦巻く。
こんな時、早く聡太に会いたくなる。
俺が何も言わなくても、何かあると一番に気がついてくれて。
黙って俺の頭をクシャリと撫でてくれる・・俺はそれだけで気持ちが救われるんだ。
真野さんの背中を見送って俺も教室へと歩き出す。
予鈴が鳴って、廊下を歩いている生徒は殆どいなかった。
早く教室に戻らないと本格的に遅刻だ・・・
俺は複雑な気持ちを振り払うように教室に向かって駆け出した。
半地下にある用具入れに続く下り階段の横を通り過ぎようとした時だった。
急に後ろから強い衝撃に襲われてーーーー
ドンッーーーーーーーー!!!
あっ・・・
視界がスローモーション。
たった五段の階段だけど、とてもゆっくりと落ちるように感じる。
見上げた先には見たことが無い男子生徒がいて・・・
一瞬、ニヤリと口角が上がったように見えたーーーー
ドサッ・・・・!!
「ッう・・・」
たった五段だけど、油断していたからほとんど受け身がとれなくて・・・
全身に衝撃が走った後、手や足、そして強く打った腰がズキズキと痛みだした。
「痛・・・っ・・・・」
「朝比奈君!!!大丈夫!?」
大声にビックリして見上げると、階段の上からさっきの生徒が慌てて駆け降りてきて俺に手を差し出してくれた。
その顔はすごく心配してくれている様子で。
「え、あ・・・ありがとう。」
「いえいえ~。
まったく酷いよね。誰だか知らないけど、さっき朝比奈君を追い越して行ったヤツ、
ぶつかっといてそのまま行っちゃうなんてさぁ・・・」
「きっと、予鈴が鳴って急いでたんだよ。
俺なら大丈夫!心配してくれてありがとう。」
「ふ~ん・・本当に優しいんだね。」
ニッコリと笑ってそう言われて・・・・
笑ったように見えたのは気のせいだった・・・?
そ、そうだよな・・・人を階段から突き落とすなんて。
落ちた人を笑うなんてこと、あるワケないよな。
差しだされた手を素直に掴むと、グイッと引き上げてくれて。
その力が思ったよりも強くて、思わぬ勢いに目の前に立つ生徒の体にぶつかってしまった。
「あっ・・・ごめん!」
「大丈夫?どこか・・・怪我、した?」
俺の顔をじっと見つめた後、ジロリと上から下まで見られて・・・何だろう、怪我してないか見てるにしては嫌な雰囲気で。
「え、あ・・・ちょっと痛いけど、大丈夫だと思う。」
体重をかけるとズキリと右足が痛んだけれど、大した事はなさそうかな・・・
一歩後ろに下がって彼を見つめる。
ネクタイの色は紺色で俺と同じ学年なのは間違いない。
俺と変わらない身長、すっきりと爽やかな顔立ちで一度見たら忘れそうにない。
そして、時々品定めするように俺を見てきて・・・
彼は俺の事を知ってる風だけど俺は知らなくて・・・。
「助けてくれてありがとう。俺達、どこかで会った事あったかな?
ごめん、君の名前思いだせなくて・・・教えてくれる?」
「はは。朝比奈君は有名だから一方的に知ってただけだよ。
気にしないで。俺は6組の松本だよ。2組の朝比奈君とは階も違うよね。」
キーンコーンカーンコーン・・・
「あ・・・本鈴!6組なら、上の階だね。
俺のせいで遅刻させちゃってごめん!
どこも怪我はないから、気にせずに行って。」
「そう・・・・じゃあ、またね。」
何だろう・・・何だか変わった雰囲気の人だったな・・・。
痛む右足で思うように走れないけれど、とにかく急いで教室へ向かった。
ガラガラ―――
「すみません、遅くなりました。」
「あらあら朝比奈君、遅刻なんて珍しいわね。いいわ、早く席についてちょうだい。」
すっかり授業は始まっていて、皆の視線が一斉に俺に集まる。
聡太・・・あ、心配そうな顔してる・・・
そうだよな、告白されて遅れて帰ってきたんじゃ心配になるよな。
席に着いて、隣に座る聡太をこっそりと見ると、
聡太も俺の事を見ていて・・目が合って、お互いにほほ笑み合う。
それだけで、少し気持ちが晴れるから不思議だ。
4限が終わって休憩になると、森田君が声を掛けてきた。
「朝比奈君~遅刻なんて珍しいね。二人がどうにかなるんじゃないかって、
聡太が死んだように落ち込んでたよ。クスクス・・」
「そんな事ねーし・・・俺は、悠宇を信じてたから、全然大丈夫だった。」
そう言いながら、チラリと俺を見てサッと視線を逸らす聡太。
聞きたいのに、聞けない。きっとそんな事を考えてるんだろうな・・・
心配してくれていた聡太には悪いけれど、強がる聡太を可愛いと思ってしまって・・・
椅子から立ち上がり、ゆっくりと聡太に近付いて首を傾けて耳元で囁いた。
「俺には、聡太だけだよ。」
「いっ・・・イケメン~~~~!!!!!!」
耳を押さえて固まる聡太と、はしゃぐ森田君。
ふふ、いつも聡太にドキドキさせられっ放しだけど、
俺だってたまには聡太をドキッとさせたい。
固まる聡太・・・可愛いな・・・。
「なんだなんだぁ~?朝比奈がイケメンだって~?
聞き飽きたぜそのセリフ~!」
「お、高梨がイケメンを僻んでるッ!」
「うるせー森田!お前だって羨ましいだろーが!」
そう言って森田君にエルボーをする高梨君。
「ぎゃー助けて聡太~!!!」
「お前が茶々入れるからだろ。自業自得だ」
腕を組んで、不敵に笑いながらもっとやれと言う聡太。
さっき告白の事で森田君にからかわれたの、根に持ってるんだ・・・。
「イケメンは敵だー!!!」
「ぎゃー!!!何で僕にその怒りをぶつけるのさ~!!!」
あはは!また高梨が暴れてるぞ~!
高梨君と森田君のやり取りを見てクラスが盛り上がる。
「俺はそんな、イケメンじゃないし・・・」
そう、俺なんて全然で・・イケメンっていうのは、聡太みたいな・・・
「「「「「朝比奈くんはイケメンでしょ!!!!」」」」
俺の発言に被せるような女子の全否定を聞いて、高梨君が益々ヒートアップしてしまった。
「くっ。なんだよ皆して!!森田ー!!俺のこの悔しさを分け与えてやる!!」
「うッ、く、苦し・・あ!!ヤバい!忘れてた!!!高梨、ちょっとどいて!!」
「何だよ~~~、あ!あれか!」
急に思いついたように机の中をゴソゴソと探った森田君は、一枚のペーパーを俺に差しだしてきた。
「・・・・・・・クラス対抗鬼ごっこ・・・・・・?」
「隣のクラスの委員長が持ってきてくれたんだけど、球技大会でコレだよ!?すごくない!?」
「朝比奈、特賞んとこ見てみろ!」
「え?わ!!!ディズニーランド!!?フィールドワークが!?すごい!!」
「すごいでしょ~~~!?行きたいよねぇ。
ちなみに、今日の6限のレクリエーションで鬼ごっこの特訓をするらしいよ~
皆、ディズニーに向けて、頑張ろうッ☆」
森田君の呼びかけに、クラスが一つになって盛り上がる。
「悠宇・・・一緒に行こうな。」
騒がしい教室で、ポツリと低くて穏やかな声が振ってきて。
ハッとして横を見ると、ふわりと目を細めて柔らかい笑顔で俺を見つめる聡太がいて・・・
聡太・・・教室で、その顔は反則だよ・・・
盛り上がるクラスメイトの中、俺の顔は一瞬で赤く染まったのだった。
☆
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