アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第六十一話 鬼ごっこ 2
-
ドタドタドターーーーー
「どこだっ!?」
「あっちは!?」
「そこ鍵あるから!3Fのロッカーはどうだ?!」
階段上で騒がしい音が響く。
テンションの上がった皆は勢いよく教室を飛び出して、その勢いのまま教室を出てすぐ下にある用具室には目もくれずに掛け出しているみたいだった。
静かな室内、皆が走り去る音が聞こえて・・・
さっきから、悠宇を独り占めしたい気持ちを押さえ込んでいたのに。
悠宇の言葉と、俺の傍で幸せそうに笑う姿に当てられて一瞬で理性が吹き飛んじまって・・
ここが学校だとか、授業中だとか、誰かが来るかもしれない・・
なんて考える事もせずに夢中でキスをしていた。
チュ・・チュク・・・
押しつけるだけのキスのつもりが、いつの間にか舌をからませていて・・
「ふ、っ・・・ん」
静まり返った室内に悠宇の吐息だけが聞こえる。
ふと目を開けると、トロンとした瞳で俺を見つめる悠宇と目が合って・・・
『聡太が格好イイから、目を閉じるのが勿体ない気がして・・・
集中してなくて、ごめん。』
初めて一つになった日に言われた言葉を思い出して、
愛しさが込み上げてくる。
俺なんかの事を、そんな風に思ってくれて
いつもはカッコいい悠宇が俺の前ではこんなに可愛くなる・・
それが、たまらなく嬉しくて。
チュク・・チュッ・・・チュ・・・
俺の顔を映した悠宇の大きな瞳を見つめながら、
深いキスから、軽く唇を啄むようなキスに変えてそのままゆっくりと唇を離した。
両手で頬を包み込んで至近距離で話しかける。
「また、見てる」
嬉しくて、無意識に笑みがこぼれてしまう。
「あ・・・俺、もう癖になっちゃったかも。
キスをする時の聡太の顔が見られないのは勿体ないもん・・・」
「・・・・ッ」
そんな事言われると、どうしていいか分からない。
可愛くて、大切にしたいのにめちゃくちゃにしたくて・・・
思い切り、強く強く抱きしめる。
「聡太ッ・・・あは、俺は結構丈夫だけど、さすがに痛い!」
抱きしめるとふわりと悠宇の髪から甘い香りがして、その柔らかい髪に顔を寄せる。
抱きしめた体から伝わる、悠宇の少し早い鼓動。
悠宇が笑うと、抱きしめる俺の体も一緒に揺れて・・・
悠宇の気持ちが全部流れてくるみたいだ。
痛いって言われても、緩められなくて。
強く抱きしめられて、少し身をよじりながら楽しそうに笑った後、ポツリと悠宇が呟いた。
「・・・聡太・・・。俺の事、離さないで。」
女の子だったらこんなに強く抱きしめられない。
痛いと言いながらも、俺が強く抱きしめたって、悠宇はクスクスと楽しそうに笑ってくれている。
愛しいって気持ちを、こんなにも強く伝える事ができる。
俺は、気の利いた事なんて言えなくて、口ではうまく伝えられないから・・
こうしてギュッと抱きしめることで離したくないって気持ちをぶつけたくて。
それを悠宇は分かってくれたし、望んでくれている。
この先の未来もずっと悠宇を離したくないーー
「俺・・・悠宇の事、もう離してって言われても、離せなくなってる・・。」
「俺だって、聡太の事離したくないよ・・・。」
そう言って悠宇も俺を強く抱きしめてくれて・・・・
「ッ!・・・悠宇・・・結構、痛てぇんだけど・・・」
「あは、仕返し!俺だって本気出せば・・・・!」
それっと言って、その腕にさらに力を込める悠宇。
「いて、イテ―ッて!!はは!」
「痛いけど、何か俺嬉しかったから、聡太の事も本気で抱きしめるよ!」
「わ、分かった!!!けど・・・いてぇー・・」
本当は、いつだって二人でこうして抱き合って過ごしたい。
けれど俺達はまだ高校生で・・・
二人きりになれる場所も時間も限られている。
今は悠宇と二人きり、穏やかで楽しい時間が過ごせて・・・
「鬼ごっこ」も悪くねーな・・・なんて、ゲンキンな事を考えてしまう。
「結構探す場所あったよねー」
「いやいや、鍵かかんなくて隠れるトコって少なかったよ~!」
階段上から賑やかな声がして、もう終わりかと寂しくなる。
悠宇を抱きしめたまま、その顔を見つめると眉を下げて少し寂しそうな顔。
俺と同じ気持ちでいてくれるってだけで寂しい気持ちが薄らいで。
最後にギュっと思い切り抱きしめた。
「く、苦しいーーーーッ!!!あははは!」
悠宇の叫び声と笑い声が廊下にも響いた。
「あ!朝比奈君の声!!こっち、こっちだよ!!」
「見つかった、な。」
「ふふ。残念。でも、すごく楽しかった・・・。」
「俺も。」
本番に向けて二人で隠れられる場所見つけねーとな。
やっぱり悠宇と二人なら、何だって楽しいんだ。
あらためて確信して、悠宇の事がまた愛おしくなる。
カチャ
「みーつけた!朝比奈君の声が聞こえたよ~ふふ。二人で何楽しそうにしてるの~。私達、めっちゃ探したんだよ~!」
「朝比奈君、真咲君こんなトコにいたんだね!」
「灯台もと暗しッてやつ!?」
開かれたドアの外には豊田さんと三好さん、そして三浦さんがニコニコと立っていた。
「あはは。最後の最後に見つかっちゃったね。」
「あ、れ・・・朝比奈君、足どうかしたの・・?」
入り口に向かってヒョコヒョコと歩く悠宇を見て、豊田さんが心配そうに問いかける。
「俺さっき授業遅れちゃったでしょ?あの時、遅刻だ~と思って慌ててたら階段から転げ落ちちゃったんだよね~!」
「え!大丈夫なの!?保健室に行った方がいいよ!
でも、意外かも。おっちょこちょいな所もあるんだねっ!」
そう言って少し照れたように笑う豊田さん。
ズキリ。少し胸が痛む。豊田さんはいつか気持ちを伝えるんだろーな・・
でも、俺は悠宇を手放したりするつもりはなくて。
誰も傷つかない方法なんて・・・ねーんだよな・・・。
「意外かな?俺、結構抜けてるところあるから・・・ね?聡太?」
「え?あ、おう。」
「そーなんだ~!可愛い~」
可愛い・・・・か。
悠宇は本当に可愛いからな・・・。
でも、その可愛い姿は誰にも見せたくねーけど。
ガヤガヤと皆で話しながら教室に戻ると、
山本先生が教卓の前に椅子を持ってきてだらりと座って待っていた。
「お~皆お疲れ!全員揃ったな!どうだ、実際やってみたら分かったろ!?意外に隠れる所は少ないんだ。当日までにしっかりリサーチするように!」
「「「はーい!」」」
キーンコーンカーンコーン・・・・
「は~めちゃくちゃ楽しかったぁ~!僕逃げ切ったんだよ~!」
「すげーな。俺達は、最後に見つかっちまった・・。」
「でも、いい場所見つけたよね!他にも無いか明日昼休みに探そうよ!」
「お!いいねぇ~!ワクワクするなぁ~~~☆」
放課後の教室はさっきまでの「鬼ごっこ」の話題でもちきりだった。
「あ、俺帰る前に保健室寄ってくる!」
「俺もついて行く。」
「足怪我したんだって?じゃあ僕は教室で待ってるよ~!気をつけて行って来てね!」
少し足をかばうようにして歩く悠宇に寄り添って教室を出て廊下を歩いていると、廊下の端からこちらに手を振る生徒が見えて・・・俺、じゃないよな・・・俺に手を振ってくるような友達は希しかいねーし・・・
隣を歩く悠宇が小さく呟く。
「あ・・・」
その生徒はどんどんこちらに近づいてきて・・・
「や、朝比奈君。やっぱりどこか怪我してないか気になって来てみたんだ。」
そいつは俺達の目の前まできて、ニコリと悠宇に笑いかけた。
スッキリとして整った顔立ちのそいつは、俺が到底真似できないような爽やかな笑顔で悠宇を見つめていて・・・
見たことねーやつだけど・・・怪我の事、知ってるって事は、その場にいたのか・・?
「松本君、心配して来てくれたの!?ありがとう!やっぱりちょっと足を捻ってたみたいで、今から保健室に行くところなんだよ。聡太、こちら6組の松本君。俺が階段から落ちたところを助けてくれたんだ。」
悠宇の紹介で松本が俺を見上げてきて・・・少しの沈黙・・・
あ、俺が自己紹介しねーとなのか?
こういう時コミュ力の無さを痛感する・・・。
「悠宇と同じクラスの真咲です。よろしく・・・」
「・・・・・。
俺は松本です!こちらこそ、よろしく!真咲君、背が高いね〜。凄くカッコ良くて羨ましいなぁ。」
少し真顔でじっと見つめられたかと思ったら、また元の爽やかな笑顔で手を差しのべながらそう言う松本。カッコいいとか言われて、何て答えたらいーか思いつかねぇんだけど・・・。
「松本の方がカッコいいじゃねーか。」
出された手を素直に取って、握手をしながら思った事を口にした。
俺にはない爽やかで明るい笑顔・・・
これが、希が言っていた<キラキラオーラ>ってやつだと思う。
俺がそう言うと、急に松本が大声で笑いだして・・・
「ははははは!何いってんの!お世辞にしても嬉しいけど!真咲君、クラスの女子が言ってた背の高い大人っぽい人ってきっと君だね。朝比奈君はもちろんだけど、真咲君も有名だよ。ふふ」
何か、変わったヤツだな・・・
そう思っていると、悠宇が口を開いた。
「松本君、保健室には聡太がついてきてくれるから大丈夫だよ。心配してくれて、本当にありがとうね。」
「そうみたいだね。せっかく知り合ったんだし、また2組に遊びに行ってもいいかな?」
「もちろん!じゃあ、またね!」
「うん!さよなら!」
松本はそう言うと、最後にまた二カッと笑って去って行った。
「悠宇?」
「あ、ごめんボーッとしてた。じゃ、行こうか!」
いつものように二コリとほほ笑まれて、あーーやっぱり悠宇の<キラキラオーラ>には誰も敵わねぇな・・・なんて思いながら、二人で保健室に向かったのだった。
☆
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
61 / 134