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第六十五話 悠宇の家
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電車を降りて悠宇の家に向かう。
隣の街だけど、実際に来るのは初めてで。
俺の隣には少し俯いて歩く悠宇。
俺が電車でからかってから、悠宇はすっかり大人しくなってしまった。
無表情なその顔は、整っているだけにその造りの良さが強調されているようで・・・すれ違う女子達が悠宇を見て「かっこいい」と思わず呟いてしまう程だ。
少し下にある綺麗な横顔を見つめながら、電車の中で俺を見上げて赤くなった悠宇の顔を思い出す。口はアワアワと動かして、眉が下がって・・・真っ赤になって固まっていた。
目なんてこれでもかって位に開かれていて・・・
皆といる時はいつも優しく微笑んでいる悠宇だけど、俺といる時は表情がくるくる変わってせわしなくて。その全ての表情を可愛いと思ってしまう。
早く二人きりになって、悠宇を独り占めしたい。
そんな事を考えながら歩いていると、綺麗な高層マンションの前で悠宇がピタリと足を止めた。
「・・・聡太、ここ、俺の家。」
真っ赤になって俯いたまま家を指差す悠宇。
俺の事を意識しまくっている姿が可愛くて・・さっき何もしねーって言ったけど、約束守れんのかな・・・。
そんなに意識されると、余計に抱きしめてーし、触りたくなるんだけど・・
ウィーーーーン・・・チンッ
エレベーターが23階で止まる。
どうぞ、と通されたリビングのでかい窓から見える景色は青色の空だけだった。
高い建物があまり無い街には珍しい高層マンション。いつも育ちの良さそうな繊細な動きをしていると思っていたけれど、理由が分かった気がする。
「あ、そっちが俺の部屋だから・・・飲み物持っていくから、先に入ってて。」
そう言ってリビングの奥のドアを指した悠宇は、キッチンに向かって行った。
飲み物・・そういえば、俺の差し入れ、すっかりタイミングを逃してたケド、今しかねーよな。
リュックの中から小さな包みを取りだして、キッチンに立つ悠宇の元へと向かう。
うまく出来たと思うけど・・やっぱり自分が作った物を渡すのは緊張するな。
「悠宇。これ、やる・・。」
「え?あ!!もしかして、聡太が作ってくれたの!?」
「おう・・。」
「うわぁーー!!!!やった!前作ってくれたヤツ凄く美味しかったし、聡太の手作りってめっちゃ嬉しいよ!」
さっきまで真っ赤になって俯いていたのに、俺の菓子を見た瞬間に全部忘れて喜ぶ悠宇。子どもみたいに純粋に喜んでくれて、作って良かったってこっちまで嬉しくなる。
「何だろう!?ハート!?ハートのマフィンだ!フッ、あは!ふふふ・・・」
包みの中を見て突然笑い出す悠宇。
あれ?潰れてたか・・・?
不思議に思って悠宇を見つめていると・・・
「聡太が、俺の為にハート・・・っハートのマフィンを・・・!その顔でこれを作ってくれてるトコ想像したら可愛くて・・・!!」
「・・そんなにおもしれーか?悠宇に渡すんだから、ハート型一択だろ。」
「ふっ、あははは!も、サイコー!聡太、大好きだよ!」
そう言ってカウンターから走り出してきた悠宇にギュッと抱きしめられた。
「はー・・なんか、緊張がなくなった・・・
聡太はいつも俺に幸せをくれるね・・俺も何か返したいよ。」
「俺だっていつも悠宇からもらってる。今だって・・俺が作った物でそんな喜んでくれてるじゃねーか・・俺もそれがメチャクチャ嬉しい。」
「聡太・・・。本当に大好きだよ。」
俺を見上げて、嬉しそうに言う悠宇の瞳はキラキラしていてすごく綺麗だ。
チュッ・・・
至近距離、あまりに可愛い顔で笑うもんだから・・
我慢できなくて、幸せそうに弧を描く形の良い唇に触れるだけのキスをした。
「・・・。あは・・・やっぱ、ちょっと照れるね。」
「もう、何回もしたのに?」
悠宇にそう言われると、嬉しいクセについいじめたくなって意地悪な事を言ってしまう。
「いいだろ!緊張するものは、するの!飲み物、用意するから待ってて。」
少し拗ねた悠宇は、俺の胸をドンと押して俺の手から離れてしまった。
俺だって、キスする度に嬉しいし、ドキドキだってする。
でも、いちいち大げさに喜んだり照れたりしてくれる悠宇の反応が見たくて、つい余計な事を言ってしまう。
棚の中、綺麗に並んだカラフルな缶の中からブルーのラベルの缶を選んだ悠宇はいそいそとお茶の準備を始めた。
せっかく二人でいるのに、少し開いた距離が寂しくて・・
目の前に立つ悠宇の細い体に腕を回して、忙しく動く手元を覗き込んだ。
「わっ!聡太、どうしたの?あ、紅茶でいい?」
「ん。」
「あの・・聡太、いつまでそうしてるの・・?」
「普段こんなにくっつけねーから、今日はいつもの分取り戻す。嫌か?」
「うれ・・しいけど・・」
後ろから見える悠宇の頬は赤く染まっていて。
ああ、可愛いな、離したくねーなってまた強く思う。
コポコポコポ・・・
綺麗な模様の缶に入っていた茶葉から入れてくれた紅茶は不思議な香りがして・・
あれ?何か悠宇の香りと似てる?
悠宇の肩越しにスーッと匂いを吸い込んで・・悠宇の首筋に顔を埋めてまた香りを確かめて・・・甘いだけじゃない、ほんのりムスクを感じさせる落ち着いた独特な香り。やっぱ似てる・・
「わ!ちょっ・・何急に!!くすぐったい!」
「あ、ワリ。なんか、この紅茶悠宇の匂いと似てると思って・・。」
「え?そうかな・・・?これはね、キーマン紅茶がベースで柑橘とベリー系が入ってるんだよ。甘いけど程よい酸味もあって、俺はこれがすごく好きなんだよね。甘いっていっても、お菓子とも良く合うから!」
嬉しそうに話す悠宇を見ていると俺まで楽しくなってきて。
悠宇の好きな紅茶か・・・
「楽しみだな・・」
「ふふ。じゃあ、俺の部屋で食べよう!」
「おう。」
俺の菓子と紅茶を嬉しそうに運ぶ悠宇の後について部屋に入る。
ガチャーー
「さ!入って!」
悠宇の部屋はカーテンやシーツがブルーで統一されていて、家具は白だった。悠宇のイメージ通りの爽やかでスッキリとした部屋だ。
部屋の真ん中にある楕円形のローテーブルに菓子を置くと、ベッドを背もたれにして横並びで座った。
悠宇の香りと似たこの紅茶・・早く飲んでみてーな。
そんな事を思いながら紅茶をじっと見つめていると・・・
「聡太・・いただきます、しようか!」
「おう。じゃあ・・・いただきます」
「いただきます!」
俺は紅茶を、悠宇はマフィンを一番に食べた。
「・・・・美味しい!すごい・・・しっとりしてて、甘くて美味しいよ!俺、本当に幸せ。」
「あ・・・うまい。」
紅茶は渋みが全然無くて、柑橘の爽やかさの中にほんのりと甘みを感じる、とても飲み易い味だった。
悠宇の笑顔と美味しい紅茶。俺もすげー幸せだ。
あっという間にマフィンを平らげた悠宇は紅茶を飲む俺をじっと見つめている。
ニコニコと嬉しそうに見つめられると少し気恥ずかしくて。
何か話題とか・・・あ、そうだ。
「悠宇、これ・・・」
「あ!さっきのシャツ・・でも、どうしてこれが死活問題なの?」
不思議そうな悠宇の顔。
理由を説明もせずにこれを買おうとした俺に、「死活問題なら買わないと」と言ってくれた悠宇。
俺はそれがスゲー嬉しくて。そんな悠宇に変にカッコつけるのも嫌で・・。
素直に・・・話すしかねーよな。
「思い出したくねーかもしんねーんだけど・・・」
「うん。何?」
ゆっくり微笑んで首を傾ける悠宇。
「悠宇って・・・カッターの下にインナー着てねぇだろ・・?」
「あ・・・うん。俺、朝弱くて慌てて着替えるし、インナー着るのちょっと手間だから・・」
そう言うと、少し照れくさそうに笑う悠宇。
朝、弱かったのか。それにシャツを着るのが手間って・・
何でもキチンとしてるからそんな風には見えなかったな。
まだまだ、俺の知らない悠宇がいる。悠宇の色んな事、もっと知りてーな・・
そんな事を思いながら、話を先に進める。
「山本先生に襲われた時も、松本にジュースをかけられた時も、シャツ一枚あるだけでちょっとは違うかなって思って。これから薄着になるし、少しでも隠してほしいっつーか・・・それで、買おうと思ったんだ。俺が買ったシャツで、悠宇の体ちょっとは守りてーっ・・・ていうのは建前で、ただ俺が人に見せたくないだけで・・着てない理由先に聞いとけば良かったよな、ゴメン。」
「それが・・聡太の死活問題・・・。聡太の気持ち、凄く嬉しいよ。俺、着るから!でも、シャツ代は俺が払う!」
「いや、いいんだ。それは親の金とかじゃなくて、中学の時、春休みの度に親戚が経営するアパートの清掃に呼び出されて、泊まり込みでバイトしてた時のだから。」
「そんな大事なお金・・・」
「これは俺の我儘だから・・受け取ってくれよ。」
そう言ってシャツの入った袋を悠宇に渡す。
少し困った顔の悠宇は、やっと受け取ってくれて・・・。
包みを抱きしめたまま、俺にもたれかかる悠宇。
「ありがと・・俺、この間から心配させてばっかでゴメン。」
「あれは悠宇のせいじゃねーし、好きな奴の心配するのは当然だろ・・だから、謝んなよ・・・な?」
優しい悠宇の事だから、色々考えてしまうんだろうけど、俺はただ悠宇が笑ってくれたらそれで良くて。
俺の右肩に寄りかかる悠宇の肩を掴んで少し距離を取って微笑みかけた。
「・・・ッ・・・。」
俺の顔を見て、一瞬赤くなった悠宇の顔がすぐに曇って・・・。
「聡太・・・その顔・・・」
「何だ?」
「いや・・何でも無い。」
「え・・・何だよ・・気になるだろ・・」
何・・俺の顔がどうかしたのか・・・変な顔してたか・・・?
特別何かした記憶は無くて。嫌われるような顔をしたかと焦る。
不安になって悠宇を見つめていると、じっと俺を見ていた悠宇がギュッと瞳を閉じて言いにくそうに口を開いた。
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