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第七十話 離れたくない
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俺たちは悠宇に勧められるまま、広いリビングの真ん中に鎮座する四人掛けの大きなソファーに少し間を開けて腰かけた。
キッチンでお茶を淹れる悠宇。
さっきまで俺の腕の中にいたのに、今はもうあんなに遠くにいる。
何か、スゲー寂しいんだけど。
少し体を傾けてカップに紅茶を注ぐその動きに合わせて、悠宇の柔らかい栗色の髪がサラリと傾く。
お茶を淹れる姿も様になるな。
なんて思いつつ悠宇を見つめていると、隣から視線を感じて・・
松本の方を向くと、俺の事を無表情でじっと見ていた。
松本は一重の切れ長の瞳で、高い鼻に少し厚めの形の良い唇をしていて、無表情になった時はその目元のせいか酷く冷たい印象を受ける。
そんな松本は、俺と目が合うと突然ニコニコしながら話しかけてきた。
「放課後も遊んでるなんて、二人は本当に仲良しなんだね。」
そう言ってまたニコリと微笑む松本の笑顔はとても爽やかで。
この瞬間だけ見ると何か変な事を考えているようには見えねーんだけど・・・
「まあ・・・クラスが一緒になってから、ずっとツルんでるからな。」
「羨ましいな〜・・俺も二人みたいに仲が良い友達が欲しいよ。」
「お前、俺なんかより友達多そうじゃねーか・・」
「まあ、それなりにいるにはいるんだけど、ね。」
「それなり・・・?」
「お待たせ!」
紅茶がのったトレーを運んできた悠宇は、ソファーの前にあるローテーブルを挟んで俺たちの前に腰を下ろした。
カチャ・・カチャ・・
「はい、どうぞ。」
ラグの上、キチンと正座して座る悠宇の背筋はピンと伸びていて、伏し目がちに紅茶を置く姿がとても綺麗だ。
さっきまで一緒にいたせいか、松本がいるのについ無意識に悠宇を目で追ってしまう・・・
俺、本当どんだけ悠宇の事好きなんだよ・・・
少し気まずくなってチラリと横を見ると、松本もそんな悠宇をじっと見ていた。
「・・・・あれ・・・?朝比奈君、これって紅茶だよね?変わった香りがする・・・」
「そうそう、柑橘とベリー系が入ってて・・ちょっと香りがきついよね?大丈夫だった・・?」
カップを手に持って、少し眉を寄せて香りを確認する松本を心配そうに見つめる悠宇。
「・・・・」
「松本君・・・・?」
じっと紅茶を見つめていた松本が、紅茶をソーサーに置いたかと思うと突然机に片手をついてソファーから身を乗り出して・・・そのまま目の前に座る悠宇の首筋に顔を近づけた。
ビックリして固まる悠宇と、首筋に唇が触れそうな程に近づこうとする松本を見て一瞬何も考えられなくなって・・
俺は思わず松本の空いた手を掴んで自分の方に引っ張ってしまった。
「わっ!」
強く引きすぎたせいで、ボスンと音を立ててソファーに尻餅をつく松本。
「あ、ワリ・・・紅茶・・・零しそうだったぞ・・・」
「びっくりした〜!わ〜危ない!ありがとう。」
「俺もビックリしたよー。松本君、急にどうしたの?」
「何か匂った事あるなーと思ったら、朝比奈君の香りだ!と思って思わず確認したくなったんだ。」
「え、そうなの?さっき聡太にも言われたんだよ。自分では全然分からないんだけど。」
「良い香りだから、何の香水使ってるのか聞きたいと思ってたんだよね。でも・・・今はその香りしなかったよ。シャンプー?の香りがしたけど・・お風呂入った?」
じっと悠宇を見つめて不審そうな顔で質問する松本。
「え?あ・・・うん、暑くて汗かいてたから・・」
松本の鋭さに驚きつつも、俺が下手な事を言うと余計に墓穴を掘りそうでじっと二人の会話に耳を傾けた。
「そうなんだ・・・あ、これ・・シャツのお詫び。一緒に食べよう!」
そう言って持っていたトートバッグから焼き菓子を出す松本はさっきまでの雰囲気は一切無くて。
少し多めに買って良かったと言ってニコニコと楽しそうに包みを広げている。
何か、つかみどころのねーやつ・・・
「わ!ありがとう!いただきます!」
「今日は濡らしちゃって本当にごめんね・・・」
「そんなー、俺もぼんやり歩いてたんだから気にしないでね!」
「・・・。朝比奈君って、怒ったりする事あるの・・・?真咲君は見た事ある?」
「そういや・・ねーかもな・・。」
「俺だって怒る事はあるよーでも、怒るような事ってそうそう起きないよね!」
「じゃあ、俺がわざとぶつかってたとしたら?」
「え・・・?」
「はは、例えばだよ」
「ビックリした!でも、怒る程の事じゃないかな・・わざとなら、濡らすのはやめてほしいけど。あは。」
松本の質問に笑顔で答える悠宇。
悠宇の笑顔は、整った顔からは想像できない位柔らかくて・・・
もしわざとだったとしても悠宇なら相手がどうしてそんな事をしたのか、自分が何かしたんじゃないか・・なんて、きっとそんな事を思うに違い無い。
松本の悪意なのか好奇心なのか分からない感情で悠宇を惑わすのはやめてほしい。
「な、松本・・お前何が聞きてーの?」
「何って・・・俺は朝比奈君の事が色々知りたいだけだよ・・
・・・笑顔以外の顔とかね。」
俺の問いにニコニコと答えた松本。最後に何かつぶやくように言ったけれど聞き取れなくて。
そこからはたわいもない話で時間が過ぎて、街が一望できるリビングの窓からはネオンがキラキラと輝いているのが見えた。
「俺、そろそろ帰らないと!」
「あ・・俺も・・」
「じゃあ、途中まで一緒に帰ろうよ。」
「おう。」
「そっか!じゃあ・・・また明日だね。」
玄関先でバイバイと手を振る悠宇は少し寂しそうで。
親も遅いって言ってたし、悠宇には兄弟もいねーもんな・・・
あのでかい窓のあるリビングも、一人きりだと思うと少し広すぎる気がする。
そんな事を考えていると、どうしてももう一度悠宇に会いたくなって・・・
「松本、俺ちょっと忘れものしたから・・・先に下行っといて。」
「ん?了解ー!ロビーで待ってる!」
急いで部屋に引き返して、インターフォンを鳴らす。
ピンポーン・・・・
ガチャ
すぐに開いた扉に体を滑り込ませて、後ろ手にドアを閉しめた。
「あ! 聡太、どうしたの?」
「悠宇、今誰か確認せずに開けただろ・・危ねーから、ちゃんとモニター見てから出ろよ。」
「あは。女の子じゃあるまいし!心配しすぎだよ!」
「いいから。絶対確認しろよ・・後、チェーンも掛けるんだぞ!」
「ふふ。わかったよ。どうしたの?松本くんは・・・」
悠宇の話を遮って、目の前に立つ細い体をギュッと抱きしめる。
「わ・・・!聡太・・・」
「また・・明日、な・・・」
そう言って唇に触れるだけのキスをして・・・頭をクシャリと撫でる。
「聡太・・・松本君が来てくれたのは嬉しかったけど・・聡太と離れちゃって寂しかったんだ・・帰って来てくれて、すごく嬉しかった・・」
少しは恥ずかしそうに微笑む悠宇が可愛くて、ついまたキスしたくなってしまって・・・
悠宇の頬に伸ばした手を直前で頭にのせて、またクシャリとかき混ぜる。
「俺も悠宇と離れて寂しかった。松本が下で待ってるから、もう行くな・・・。」
「うん。気をつけて帰ってね。」
「おう・・・。」
近くに居れば居る程離れる時が寂しくて。
いつか二人で一緒に暮らしてーな・・なんて思いながら、エレベーターに乗り込んで松本が待つロビーに向かった。
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