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第七十一話 迷い Side 松本 依(まつもと より)
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エレベーターから降りて来た真咲君が近づいてくる。
一目見ただけでも特別だと分かる高い身長に、恵まれた体型、
そしてその顔は大人っぽくて・・・。
この間俺が朝比奈君の事を探るような事をしてから、無愛想だった真咲君は益々俺に壁を作るようになってしまった。
あの日・・整った顔、その切れ長の二重で睨まれた時、元々気が弱い俺は本当にドキリとして。
だからって、朝比奈君への詮索、そして嫌がらせ・・・今更後には引けない・・・
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「ねね!2組の朝比奈君って知ってる!?」
「知ってる!!めちゃくちゃ格好いいよね〜!背が高くて大人っぽくて〜いつ見てもニコニコしてるんだよ〜優しそうだよね〜」
「あ〜あ。同じクラスだったらよかったのにぃ・・階まで違うから滅多に見られないよね・・」
「あ!外見て!!朝比奈君と・・・あれ、誰だろう・・背が高くて格好いい人といる!」
「朝比奈君と同じクラスの真咲君だよ!は〜真咲君も格好いいよねー、ちょっと怖そうだけど。」
「ちょっと・・・真咲君が朝比奈君の頭ヨシヨシしてる!!」
「わ!可愛い〜萌える〜っ!二人ともめちゃくちゃ笑ってる!真咲君といると格好良い朝比奈君が可愛く見えるよね。あ〜二人とも良い〜〜!でも、私はやっぱり朝比奈君がいいかな〜」
「分かる!笑顔が可愛い過ぎだよね〜!」
窓の外に視線を向けると、楽しそうに笑う朝比奈君がいた。
朝比奈君と真咲君は入学式の日から目立っていて女子の間で噂になっていたから、クラスは違うけれどなんとなく目で追うようになっていて・・・。
二人とも格好良いし、小さくて可愛い子と三人でいつも楽しそうで・・・
誰といても朝比奈君は輪の中心でニコニコと笑っていた。
それに対して俺は平凡な性格に、人より高い身長とそこそこ褒められる顔をしている程度で。中学の時はそれなりにモテていたけれど、高校では朝比奈君に注目が集まって俺はあまり目立たなくなっていた。
「は〜うぜぇ・・また朝比奈の話だよ。よく知りもしねーのに、顔が良いだけでチヤホヤされてムカつくな・・な、松本?」
「え?あ・・まあ・・・」
「は〜松本はノリ悪ぃなぁ・・」
「そういえば、鈴岡が好きな真野ちゃんも朝比奈が好きらしいぜ〜?」
「は!?マジかよ!?」
「マジマジ!こないだ真野ちゃんがうちのクラスの女と話してるの聞いたんだよ。」
「チッ・・・本当何なんだよアイツ。ムカつくな・・・ニヤニヤ女に媚び売りやがって・・・
そーだ!松本、お前顔だけは良いんだから、朝比奈の好きな奴惚れさせて奪っちまえよ!」
「え・・・?何で俺が・・・」
「お前だってムカつくだろ?顔が良いだけで、ヘラヘラしてりゃ女が寄ってくるんだぜ?絶対調子乗ってるよ・・アイツだって女なんてちょろいって思ってるって!松本も男見せろよ!女が寄ってくると思ってお前とツルんでんのに効果薄なままでいいのかよ!?」
「おい、鈴岡お前言い過ぎだって!」
「事実だろ、こいついたらナンパだって成功率上がんじゃん!あはは」
「・・・・。」
「気にすんなよ、松本。こいつ失恋してヤケになってるだけだから、な?」
確かに俺は面白い事も話せないけど・・・俺の価値って・・何なんだ・・・?
ここまで言われて何も言い返せないなんて・・・。
鈴岡が朝比奈君に嫉妬しているだけだって事、分かってはいるけど。
そのせいで八つ当たりをされて、自分のツマラナサを実感させられて。
俺がこんなにも苦労しているものを易々と手に入れる朝比奈君を見て、俺もいつの間にか嫉妬していたのかもしれないーーー
鈴岡に焚き付けられて、いつも笑顔の朝比奈君の裏の顔があるなら俺も見てみたいと思ってしまった。完璧な人間なんて居ないんだって事を証明したかったのかもしれない。
そして、こんな俺でも朝比奈君に何か一つでも勝つ事ができたら・・
「俺、やるよ・・・」
「お〜まじか!松本!男らしいとこあんじゃん!見直したぜ!」
「松本・・・無理すんなよ?」
「無理なんかしてない・・何でも思い通りにならない事、俺が思い知らせてやるよ・・・」
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大見得を切った俺はさっそく朝比奈君に近づこうとして、何かきっかけはないかと後をつけるようになっていた。
そんな時に、たまたま朝比奈君が突き飛ばされた所に居合わせて・・・
笑いながら去っていく男子生徒には見覚えがなかったけれど、恨みや妬みを持っている奴は俺達だけじゃなかったんだと妙な安心感と正義感が生まれて。
眼下に見下ろす、みんなが愛してやまない朝比奈くんの驚いた顔、不安そうな顔、辛そうな顔・・
全てが初めて見る表情で、なぜか体の奥からゾクゾクとしたものが駆け上がってきた。
気がつくと、俺の顔からは自然に笑みが溢れていてーー
俺って、こんな最低な人間だったのか・・・
人が目の前で階段から落ちたっていうのに、そんな事を頭の中で冷静に考える余裕すらあって。
そうだ・・・良い気になっている朝比奈君に、俺が思い知らせてやるんだ。
そんな風に考えて近づいた俺だったけれど・・・
こんなに嫌がらせをしているのに、朝比奈君は俺の事をおっちょこちょいだと言っていつも笑って許してくれて・・・
そんな朝比奈君を見ていると、俺達が思っているような奴じゃないんじゃないかって、俺は少しずつ気が付き始めていた。
男だけツルんでいる時も、変わらずニコニコしているし、その優しさは女の子にだけじゃなくて俺にも平等だった。
でも、鈴岡に大見得切った手前引くに引けなくて。
何か弱点はないか、好きな人はいないかと必死に探りを入れつつも2組の女子にモーションをかける。こんなに積極的に動いたのは始めてだった。
俺がそこまでして朝比奈君について分かった事といえば、付き合っている人はいない事、温厚で優しくて・・・そして、特に真咲君と仲が良いという事くらいだった。
「じゃ、帰ろうぜ。電車、乗るんだろ?」
「うん!真咲君と二人で話す事ってなかったから嬉しいな。」
「俺と話してもつまんねーと思うけど・・・。」
「え!それを言ったら俺もだよ!あはは。」
意外にも俺の隣を歩いてくれる真咲君と自然と会話が弾む。
真咲君は見た目的に鈴岡みたいな俺様なタイプかと思っていたけれど、いつも謙遜ばかりでこっちがつい褒めたくなってしまう不思議な人だ。
自分の事を自覚してないのか・・・わざとなのか・・・
でも、いつもその瞳は真剣で。
「そういえば、真咲君はどうして東上坂受けたの?」
「・・・・・・神社デートとかしてぇなって思ったから、かな。」
「ぶっ・・・・はっ!何それ!あはは!真咲君ってそういうキャラなの!?」
「キャラ・・・?どんなキャラだよ。」
「え!今の志望動機ってマジ答え!?」
「ふっ・・・わざわざそんなダセー嘘つかねーよ。」
いつも笑わない真咲君がクスリと笑ってくれて・・・
自分を飾らない真咲君と話していると、自分が汚い気持ちで二人に近づいている事なんてすっかり忘れて、いつの間にか俺も自然体で話をしていた。
真咲君ってこんなギャップがあるんだな・・・
新たな一面を見れた事が妙に嬉しくて、一見無愛想なその整った顔を見上げながら一生懸命話しかけた。
「・・・お前・・・いつもそんなだといいのにな。」
「え・・・・・」
俺をじっと見下ろしたかと思うと、少し笑ってそう言って・・・
その大きな手が俺の頭に伸びてきて、ポンと軽く頭を叩かれた。
これ・・いつも朝比奈君や森田君にしてるやつだ・・・
真咲君の独特な空気が俺を包んで、胸の奥がじわりと暖かくなる。
なんだか嬉しくなって、笑顔で真咲くんを見上げた時ーー
突然横側から女の人に声を掛けられた。
「すみませ〜ん。君達、今暇?私達これからカラオケ行くんだけど、一緒にどう〜?」
びっくりして、真咲くんの横から顔を覗かせると、とても綺麗な二人組の女の人が真咲君を見上げて立っていた・・・
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