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第七十四話 松本の本音。
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帰り道、松本と二人でこんなに話すのは始めてで・・
いつもの嫌な雰囲気が全くなくて別人のような松本の態度に少し戸惑う。
穏やかで、少し気が弱そうで・・・
俺を気遣ったりからかったり。話していて楽しいし、悠宇がいる時の松本とは全く違う。
一体どっちが本当の松本なんだ?
こうしていると、すげーイイ奴なのに・・・
さっきの女の人に対してもだけど、あんな風に人に気を使う姿を見ていると、いつもの悠宇に対する行き過ぎた態度はやっぱりわざとなんじゃねーかと思ってしまって。
話してくれるかは分かんねーけど、もう少し一緒にいれば何かが分かる気がしてマックに誘うと、松本は嬉しそうに笑ってOKしてくれた。
店に向かって歩いていると、黙って後ろを歩いていた松本が急に声を上げた。
「あ、れ・・・?真咲君もお風呂に入ったの・・・?」
「は?・・・・」
どうして急に・・・慌てて自分の香りを嗅ぐ。
自分でも不自然なのは分かってるけど、急に指摘されてパニックになる。
何か言わねーと、余計怪しいよな。
必死に考えても、元々口下手な俺は良い答えなんて思い浮かばなくて。
思い浮かぶのは一緒に風呂に入った時の可愛い悠宇の事ばかり・・って、今それどころじゃねーだろ・・・!
「あ・・・・俺、も・・汗、かいたから・・・・」
しっかりしろ俺・・・・何だよこの返事。
俺が目に見えて動揺しちまったから、それに釣られるように慌てだした松本が謝ってくる。
このままじゃ、俺も変な事を口走ってしまいそうで、妙な空気を振り払うように半ば無理やり店へと歩き出した。
香り、か・・・
普通は、男同士で恋人とかって発想がねーんだろうけど・・
隠すか、言っちまうか・・・悠宇の為には絶対隠した方が良いのは分かってる。
けれど、悠宇が告白される度、俺と付き合ってるんだって言いたくなってしまう。俺のものだと宣言して、堂々と守りてーし・・
俺のこの気持ちが叶う事はきっとねーんだろうな。
こればっかりは男同士だし、仕方ねーか・・・
そんな事を考えているとすぐにマックに着いて、その頃には俺も松本も落ち着きを取り戻していた。
テーブルについて俺のジュースの事で二人で笑い合っていると、松本が急に真剣な表情になって・・・手に持っていた烏龍茶のカップをテーブルに勢い良く置いたかと思うと、ボソボソと話し始めた。
「全部は話せないんだけど・・・朝比奈君には、純粋に友達になりたくて近づいたわけじゃないんだ。」
その言葉を聞いて、一瞬カッとなる。
もしどんな理由があっても、悠宇を傷つけるつもりで近づいたとしたら許せねー。
けれど、そう言う松本の顔があまりにも悲しそうな顔をしていたから、何も言わずに続きを聞くことにした。
「朝比奈君の事は入学式の日から知ってて・・かっこいいし、憧れの気持ちで見てたんだ。何て言ったらいいんだろ・・いつからか、その憧れが違う気持ちに変わっちゃって・・・そうだ、朝比奈君階段から落ちた事があっただろ・・?」
「ああ。遅刻しそうで慌ててて落ちたって言ってたな・・。」
「真咲君にはそう言ったんだね・・俺、あの時近くに居たんだけど、同じ一年の生徒に突き落とされたんだよ。」
「は・・・?」
悠宇が・・・俺の大切な悠宇が誰かにそんな事をされていたなんて・・
頭が真っ白になって、言葉が続かない。
俺が心配すると思って言わなかったんだろうけど、そんな大事な事は言って欲しかった。もっと、今よりずっと側にいて、守ってやりてーのに・・・
「朝比奈君はモテるから・・・女の子を取られたヤツなんかが嫉妬したり、妬んでるヤツも多いんだよ。」
「そんな・・くだんねーことで・・・」
理由を聞いて、絶句する。
「はは・・・確かに、下らないよね。でも、皆のそんな下らない気持ち、真咲君みたいにモテる人には分からないと思うよ。」
「・・・俺は別にもてねーけど、そう、だな・・・俺も、悠宇の中身を知るまでは確かに嫉妬してたもんな・・・けど、だからって傷つけるような真似、していいわけねーだろ・・・。」
「ふふ。真咲君は本当に変わってるね。そんなにカッコイイのに朝比奈君に嫉妬なんて・・でも、そうだよ、ね・・・。うん。俺も・・・最初は憧れてたんだけど、あまりにも朝比奈君がいつも笑顔でお手本のように優等生だから、実は裏があるんじゃないかって疑ったりしちゃってさ・・・。でも、朝比奈君は誰にでも・・俺にもすごく優しくて・・・。それは間違ってたんだって気づいたんだ。」
「嫉妬であんな事してたって事かよ。悠宇は松本が友達になりてーって言ってくれて嬉しいって言ってたんだぞ。それに、これ以上エスカレートしたらイタズラじゃすまねーぞ。」
「俺なんかが友達になってって言ったのを、嬉しいって言ってくれてたのか・・・。」
「もう悠宇がそんなヤツじゃねーって分かったんなら、これ以上あんな事しねーよな?」
「・・・・そう、だね・・・。」
返事をする松本は妙に歯切れが悪くて。
手に握ったままだったハンバーガーを一口齧ると虚ろな瞳で外を見つめ始めた。
「もう酷い事はしない、けど・・・。詮索は・・やめられないかもしれない・・・。俺の家、両親が離婚してるんだ。」
松本の話をが急に飛んで。
何か隠している松本の真意が俺には掴めない。
何て言っていいか分からなくて、外の景色を見つめたままの松本の横顔をじっと見つめた。
「俺と母さん、父さんに捨てられたようなもんなんだ・・・他の女の人と暮らすために、俺達を追い出したんだよね・・それ以来、俺は人に嫌われたり、見放されたりするのがすごく怖くなったんだよ・・・。人が俺の事をどう思っているか気になって・・怖いんだよね・・・。父さんに要らないって思われる俺に、価値なんて無いから。」
それが悠宇への態度とどう関係があるのか分かんねーけど、きっと何か意味がある話しなんだと思う。それに、あまりに俺の家と似た境遇に驚いてしまった。
でも・・・
「俺の家も、同じだぜ。うちは妹がいて、親父の浮気で離婚した時妹はまだ赤ん坊だったから、母親がすげー苦労してた。だから、辛いのはよく分かる・・けど、松本とはちょっと違って・・俺は親父を見返したいって思ってる、かな。」
「見返す・・・?」
「そうだな、確かにその時の親父にとっては、俺達は価値が無かったのかもしれねーけど・・・でも、あの時何で俺達と離れちまったんだろう、あんなに幸せそうに、立派になってる・・・って、いつか悔しがらせてやりてーと思ってるんだよ。だから、色んな事を必死に勉強するようになったんだ。それに、親父にとっては価値が無かったのかもしれねーけど、誰だって誰かの一番にはなれるんだぜ?松本だって・・・」
俺が話し終える前に、外を見ていた松本が勢い良く振り向いたかと思うと、急に腕を掴まれた。
「そっか・・・その発想、俺には無かった・・・ずっと捨てられた俺に価値なんて無いって思ってて・・・悔しがらせる、か・・・何か、いいね、それ・・・」
俺を見上げる松本の顔は少しスッキリしたような表情で、俺の腕を掴む力の強さが、今までの苦悩を物語っているように感じた。置いて行かれた辛さは俺にも分かるけど、俺には妹がいて、兄として必要とされていたからまた考え方も違ったのかもしれねーな・・・
松本が悩んだ時間を思うと胸が痛くなって、空いた右手で松本の頭をクシャリとかき混ぜて、微笑みかけた。
「今まで、辛かったよな・・・。」
「ッ・・・真咲君・・・。」
俺の顔を見ていた松本が急に下を向いて、俺を掴んでいた手にギュッと力が込められた。
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