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第七十九話 苦しい気持ち side 松本 依
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「明後日の『鬼ごっこ』で、やるぞ。」
「マジかよ・・・・」
「は?じゃ、三川は来なくていいよ。4組のやつもノルって言ってたから、そいつらとやっからよ。」
「俺は、いいよ。ついていけねーよ・・・」
「やるって、何を・・・?」
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昼休憩、朝比奈君の話を聞いてショックを受けて・・・味のしないお弁当を森田君と食べた。
森田君が一生懸命話しかけてくれたけれど、殆ど聞こえてこなくて・・・。
昨日二人で話してから、真咲君のぶっきらぼうなようでいて優しい内面にすごく惹かれていった俺は、はじめてこの人の一番になりたいと、そう思ったんだ。
男同士だし、最初は友情だろうと思っていたけれど、微笑み掛けられて、頭を撫でられると妙にドキドキしてしまって・・・
あの一見冷たくて怖そうな顔が、笑うとあんなに優しい表情になるなんて。
それだけでドキリとしてしまったのに、俺よりも大きな手で頭を撫でられた時に俺の気持ちは確信へと変わった。
もっと、触れられたい・・・
この笑顔を俺だけに向けて欲しい・・・
自然と、そう思ってしまったんだ。
自分に自信が無い俺が、今日は必死に頑張った。
頑張ったんだ・・・
ちょっと朝比奈君に対してやり過ぎた時も、容赦なく注意されて。
でも、そんな裏表の無い所もすごく好きになった。影で悪口を言ったりしない、ダメならその場で注意してくれる。俺にとってそれはとても新鮮だったから・・・
そして、二人で手を洗いに行った時ーーーー
「俺はお前を信じてる」「お前が誰かに虐められてたら、それだって俺は許さねーよ。」
俺が欲しくてたまらなかった言葉。
高校に入ってから、つきまとっていた虚しさが吹き飛ぶような気分だった。
友達・・・そしていつか恋人になれたら、その優しい腕に強く抱きしめられてみたい・・・なんて、ありもしない想像をしながら屋上に戻ると、森田君と朝比奈君の声がして。
真咲君と朝比奈君、二人が付き合ってるって・・そういう風に聞こえたんだけど・・・
二人が手を繋いで屋上から去って行くのをただ見つめる事しかできなくて、予鈴が鳴ってボンヤリと教室に戻って・・・5限も6限も自分が何をしていたのか思い出せない。
気がつくと、あっという間に時間が過ぎて放課後になっていた。
椅子に座ってぼんやりとしていた俺の耳に、鈴岡と三川の不穏な会話が聞こえてきて。
思わず口を挟んだんだーーー
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「は?聞いてなかったのかよ・・ったく。相変わらずトロいな。」
「鈴岡・・・俺はもう知らないからな。松本も、深入りしない方がいいよ。じゃあ、俺は先に帰るから。」
いつも穏やかで、松本の言う事に意見しない三川が怒って帰ってしまって・・・
「ごめん・・・で、何をするの・・・?」
「お前がさっさと朝比奈の好きなやつ落とさねーから、俺たちで報復してやろうと思ってな。」
「報復って・・・・」
「あれからどんだけ経ったと思ってんだよ。あいつ、あの時からまた何人かに告白されてんだぞ。」
「あ、うん・・でも、全部断ってるだろ?報復なんて・・・」
「付き合うかどーかじゃねーの!いつまであいつを天狗にならしとく気なんだよ!」
「朝比奈君は天狗になってなんかな・・・」
バンッ!!!
目の前に座る鈴岡が俺の机を片手で叩きつけてきて。
突然の音にビクリと肩が揺れた。
「お前まであいつに取り込まれたのかよ!本当使えねーやつ!もう他のやつとやるからいいよ。」
そう言って、机を足で強く蹴った後、鈴岡も教室を出て行ってしまった。
少し残っていた生徒の視線が一斉にこちらを向くけれど、そんな事は気にならなくて。
一体・・何をする気なんだ・・どうしよう・・朝比奈君に教えてあげないと・・・
・・・・・
・・・・・
朝比奈君が悪い人だったら、どんなに気持ちが楽だっただろう。
見た目も良くて、性格が良いのも本当で。
俺の事も、知っていながら構ってくれていたし、友達になってくれた。
言うべきだ。言うべきなんだ・・・
何が正しいかなんて、分かってる、のに・・・
真咲君と付き合ってたなんて・・・
あんなに女の子が言い寄ってくるのに、どうして真咲君なんだ。
俺が初めて好きになった人、俺は・・・真咲君が欲しい・・・
蹴られて乱れた席に座ったまま、それを直す事もせずにただ俯いて考える。
どうしたらいいんだ・・・・
ガラガラーーー
俺達のやりとりを見て、遠巻きにヒソヒソと話していたクラスメイトが、教室のドアが開く音で一斉にそちらを向いた。
「真咲君だ!」
「え、何でうちのクラスに?誰に用だろ!」
「ひゃー大きいね・・かっこいい・・」
真咲・・君・・?
女子達の声に、慌てて入り口を見ると真咲君がドアにもたれて立っていて・・・目が合って、数秒間の無言の時間・・・。
何で、真咲君が・・・
俺に用事・・・?
一瞬嬉しくなって、次の瞬間に朝比奈君の顔が過ぎって・・・
そうだ、二人は付き合っていて、俺なんかの入る隙は無くて。
そう考えると、胸が詰まるように苦しくなる。
一気に起こった色んな出来事に、動く事が出来なくてただじっと真咲君を見つめていると、少し驚いた表情をしたかと思うとこちらに走って寄ってきてくれた。
「松本、お前・・・この席どーしたんだよ。そんな泣きそうな顔して・・・」
椅子に座る俺を見上げるように、床に片膝を立てて座る真咲君。
真っ暗な気持ちの俺の心に光が灯る。
まるで王子様が俺を救いにきてくれたみたいだ・・・。
「俺・・・・」
でも、俺が考えていたのは最低な事で。
「・・・いい、どっか別のとこで話そうぜ。立てるか・・・?」
「うん・・・。」
俺が返事をして立ち上がると、真咲君は俺の鞄をさっと持って、席を直してくれた。
友達だからしてくれているその気遣いが嬉しいけれど、苦しくもある。
どうしてそんなに優しいんだよ・・・
複雑な気持ちを抱えて、クラスメイトの視線を背に俺たちは教室を後にした。
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