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第八十話 揺れる思いとダメな俺 side 松本 依
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俺の横に並んで歩く真咲君は、時々伺うようにこちらを見ている気配がする。だけど、目を合わせる勇気が無くて・・・
何も悪くない朝比奈君がひどい目に合うかもしれないっていうのに、俺はそれを隠そうとしていて・・こんな卑怯な俺が真咲君に甘える資格なんて無い。
さっきの事、どう思ったんだろう。
状況だけ見ると、俺がクラスメイトと喧嘩をしたか、いじめられたせいで孤立していたと思っているに違いない。
だから心配してくれて、こんな・・・
真咲君の手に握られた、返してもらいそびれた俺のトートバッグが視界に入る。
自分のリュックを背負って俺のトートを持って歩く真咲君。
女の子でもないのに、その優しさが嬉しいと思ってしまう。
もっと早く・・違う形で出会いたかった・・・
そういえば、どうして今日は教室まで来たんだろう?
いつも俺が行ってばかりだったから、来てもらうのは初めてで。
今日聞いてしまった事の口止めをするため、とか・・・?
そうだ・・男同士で付き合ってるなんて、本当でも嘘でも噂されるのは嫌に決まってる。そう思うと真咲君が訪ねて来た事が妙に納得できた。
そして、俺が真咲君に近づき過ぎた事で朝比奈君が嫌な思いをしたからもう来るなって釘を刺されるかもしれない・・・
そう思うと、益々憂鬱な気持ちになってしまう。
「松本・・・・大丈夫か?歩くのしんどいか・・・?」
「え・・・・」
気持ちの重さと比例して、いつのまにか歩く速度も遅くなっていたみたいで。
俺の肩に手を置いて、少し覗き込むように顔色を伺う真咲君はとても配そうな顔をしていた。
「あ、ごめん。色々・・考え事しちゃってて・・。歩けるよ!」
「じゃあ、ちょっと歩こうぜ。」
そう言ってまた歩き出した真咲君は、バス停を通り越してドンドン歩いて行く。
「街まで・・歩くの・・?」
「いや。ゆっくりするのに、いい神社知ってるから・・・」
「ふ、ふふっ。いい店知ってるから的な言い方!何それ、神社って!あは、あはは」
「はは、笑う元気出たな。」
「もしかして、俺を元気付けるために、冗談言ってくれたの?」
「あ・・・いや、冗談じゃ、ねーんだけど・・・」
俺の質問に少し恥ずかしそうに答える真咲君。
どこまで本気で、どこまで天然なんだろう・・・
クールな顔で、その容姿に似合わない事を言っちゃうけれどそれが妙に可愛くて。そんな不思議な魅力に益々引き込まれてしまう。
ああ、いいな・・
横で少し照れる真咲君の横顔を見て、胸がドキドキと早鐘を打つ。だめだ、もっと好きになってしまいそう・・・。
高い鼻、照れて下を向いた時の長いまつ毛・・・その綺麗な顔、俺の鞄を持つ大きな手・・見つめるだけで、つい触れてみたくなって・・・無意識に隣を歩く真咲君に手を伸ばす。
俺、このままじゃヤバイ。
慌てて手を引っ込めて、そんな感情を誤魔化すように話しかけた。
「・・・じゃあ、本当に神社に行くの?」
「おう・・店とかじゃ、絡まれたりするかもしれねーし・・」
「ぷっ・・・!絡まれるって!ナンパでしょ!?」
「悠宇といると良く声かけられるし、今日もお前といたら声かけられそーで・・・」
「いや、いやいや!待って!昨日の目当ては真咲君だから!朝比奈君はカッコイイけど、真咲君も負けてないから!」
「ふっ、お世辞はいーよ。だいたい、俺一人で声かけられた事ねーし。そん位分かるから。」
「・・・・・・。」
カッコイイけど、一見怖そうな真咲君は確かに一人でいたら声を掛け辛いだろうけれど・・・
真咲君オススメの神社の階段を登りながら、素朴な疑問をぶつけてみる。
「真咲君、自分がカッコイイって気づいてる、よね?」
「んー・・・正直、中学ん時はそんなに顔は悪くねーのかなって漠然とと思ってたけど、高校に入って悠宇に出会って、すげーモテてんの目の当たりにして・・俺ってそうでもなかったなって感じかな。」
「・・・・。」
マジで言ってる顔してる・・・
ちょっとズレてる所があると思ってたけど、鈍感・・なのかな・・・。
朝比奈君はどんどん話しかけられるタイプで、真咲君は陰でキャーキャー言われるタイプで・・そう考えると、少し鈍感そうな真咲君は本当に気づいていない可能性もあるな・・・
真咲君には、ハッキリ言わないと分からないって事か・・・。
「松本だって、うちのクラスの女子がキャーキャー言ってるじゃねーか。お前が来るたび教室が騒がしくなるからな・・キラキラオーラ出てるって希と話してたんだぞ。」
「いや、俺のは本当にそれ程じゃないし・・・それに、キラキラって!はは、そんな風に見えてた?本当の俺は・・・くすんでるよ・・・」
「まあ、実際カッコいい顔してるし、教室での雰囲気とは違うけどいつものお前もくすんでなんかねーと思うぜ。」
俺は、元々モテないワケじゃないし、顔もいい方だと思うけど・・真咲君に言ってもらえる程カッコ良くはないんだけどな。でも、好きな人に容姿を褒められるのは素直に嬉しいな・・・。
くすんでない。そう言ってくれた真咲君は、困ったような、少し心配した顔で俺を見て・・・
「何があったか分かんねーけど、本当にいつでも相談にのるから・・・それと、今日は話したい事があって誘ったんだ。しんどかったら、また今度聞いてくれたらいいから・・ほら、この景色でも見て元気だせ。」
話し終えた所でちょうど頂上で。長い階段も真咲君とならあっという間だった。
「・・・・すごい・・・ここ、フィールドワークの時に来なかった神社だ・・いいね。」
「俺はここに来たら、悩み事や心配事が全部大した事じゃねーっつうか、何かそんなスッキリした気分になれるから好きなんだよ。」
「そうだね・・・。ねえ、さっき言ってた話し、今聞かせてくれる・・?」
「今日じゃなくてもいいぞ?お前、しんどそうだし・・」
「いいんだ。聞きたい。」
目の前に広がる景色。隣にいる真咲君をじっと見つめてそう答える。
風に揺られてなびく、前髪の間から深い色をした切れ長の目が良く見える。ああ・・・なんて綺麗なんだろう。迷いのない瞳に俺も心を決めた。
好きだって、伝えよう・・・。
二人でお堂の前の階段に座る。
横並びに座るけれど、体をこちらに向けて真剣な顔で俺を見つめる真咲君は、戸惑う事なく、ハッキリと俺に真実を告げてくれた・・・・・
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