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第八十一話 松本の気持ち
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隣に座る松本をじっと見つめると、松本も、真剣な表情で俺を見つめ返してくれていて。
今日屋上で聞いた話の事だって、薄々気づいてるんだろうな・・
希以外のやつに悠宇との事を話すのは初めてで、少し緊張する。
俺がちゃんと話せなかった事で悠宇を不安にさせて、松本にも聞かれちまって・・・
でも、最初は何を考えているか分からなかった松本も、本当はいい奴だって分かって、
松本にはちゃんと話したいと思ったから今日は教室まで行ったんだ。
いつも松本が来てくれていたから、6組に行ったのは初めてだった。ドアを開けて、目を疑う。
教室の少し奥で不自然に動いた机を直す事もせずに俯いて椅子に座る松本がいて・・
クラスのやつらは遠巻きにそれを見ているだけだった。
こっちを向いて、俺と目が合うと松本の顔は今にも泣き出しそうに歪んで・・・
一体何があったんだよ・・・力になりたいと思うけれど、いい言葉が見つからない。とにかくその場を離れようと、あまり人気のない神社まで連れてきた。
今日は松本も疲れているだろうから別の日にしようと思ったけれど、今話すように言われてーーー
同性の恋愛を誰もが受け入れてくれるとは思わないけれど、せっかく友達になった松本には勝手だけど認めて欲しいと思っている自分がいる。
俺は勇気を出して松本に俺達の事を告白した・・・
「今日の昼、悠宇が話してた事、聞こえたと思うんだけど・・俺と悠宇は付き合ってるんだ。」
「・・・・。・・・・そっか・・・」
一瞬の沈黙
眉を寄せて複雑そうな顔をしたかと思うと、下を向いて黙ってしまった松本・・膝に置かれたその手はぎゅっと握り込まれていて。
ズキンーーーー
俺達の事を否定されているようで胸が痛んだけれど、考えてみればそんなの当たり前の事で。
俺はちょっと軽く考えてたのかもしれねー・・・
誰もが受け入れられる事じゃねーし、皆に言うって事はこういう拒絶を何度も悠宇が受けるかもしれねーって事だよな・・
「普通は、こんな事気持ち悪いと思うよな。変な話ししてワリー・・けど、俺は悠宇の事が好きなんだ。認めてくれなくてもいいけど、松本にはちゃんと話してーって思ったから・・」
下を向く松本の感情を思うと目を逸らしたくなったけれど、ちゃんと伝えたくて必死に言葉を続ける。
少しの沈黙の後、下を向いたまま動かない松本の拳にポタリと水滴が落ちた。
え・・・・・涙・・・・・?
何で・・そんなに聞くのが嫌・・だったか・・・?
「ま・・松本、俺あんま人の気持ちとか分かんねーから・・スゲー嫌な思いさせちまったなら・・・・」
動揺でいつも以上にうまく話せない。
泣くほど、嫌な話しだったのか?
ごめんと続けようとしたその時ーーー
「違う!!!」
叫ぶと同時に上を向いた松本の瞳は涙に濡れていて。
少し赤くなった瞳、ぎゅっと結んだ唇が必死に泣くのを耐えようとしているように見えるけれど、その瞳からは次々に涙がこぼれ落ちていた。
「違うって・・何が・・・・」
「俺・・・俺は、真咲君の事が好きなんだ・・・」
「え・・・・」
好き?松本が俺を・・・悠宇に言われた時はそんな事思いもしなかった。
嫉妬してくれて、大袈裟に捉えてるだけなのかと思っていたのに・・・
だけど、悠宇と俺が付き合っていると聞いて、こんなに泣いて・・そして俺の事が好きだと言う。
この好きの意味は聞くまでもなくて。
どうして、いつ・・・色んな疑問が頭に浮かぶけれど、そんな事はどうでも良くて。
小さく震えながら、じっと俺を見る松本の気持ちを思うと、心臓が鷲掴みにされたように痛んだ。
でも、ちゃんと言わなくちゃなんねー・・・
「ありがとう・・でも、俺は悠宇が好きだから、松本の気持ちには答えられねーんだ。」
「俺、真咲君が誰でも誰かの一番にになれるって言った時、真咲君の一番になりたいって思ったんだ・・・でも、男同士だから、無理だと思って・・・朝比奈君と付き合ってるって事は、男も好きになれるって事・・だよね。俺にも少しでも可能性はある?だったら俺、いつまでだって待つから・・お願い・・」
傷つけるのを分かっていて言うのは辛いけれど、松本の為に、ハッキリと言わねーと・・・
「松本・・俺は、男を好きになったのは悠宇が初めてだし、これからも俺には悠宇だけだと思ってるから・・・ごめんな・・・」
言い終わる前に、松本がぎゅっと目を閉じて下を向く。
階段にポタポタと涙のシミができて・・・
ごめん、ごめんな・・俯向く頭を撫でてやりたくなるけれど、それが酷な事だという事は俺でも分かる・・
「・・・また、選ばれなかったな・・・」
「え・・・・何て・・・?」
「ううん、何でもない・・・ハッキリ言ってくれて、ありがとう。」
「・・・」
「最後に、抱きしめてもらえないかな・・・勝手かもしれないけど、それで、友達に戻りたい・・」
抱きしめる・・・それで松本の気持ちの区切りがつくならいいのか・・・?いや、悠宇以外のやつを抱きしめるなんて事、どんな理由があってもできねー・・・・。
「俺は、松本の事をダチとして好きだ。だけど、そういう気持ちで抱きしめる事はできねーんだ・・」
グス・・・
制服の裾で、ゴシゴシと目を擦った松本は、鼻の頭を少し赤くして呟いた。
「朝比奈君が羨ましい・・真咲君みたいな恋人がいて・・・」
「俺なんか・・・」
「俺は、真咲君が欲しいよ。なんか、じゃないよ・・・」
「気持ちに応えらんなくて、ごめんな・・・」
「いいんだ・・・。言えてスッキリしたから!はは・・・ごめん、真咲君、先に帰ってくれるかな・・・?」
「・・・分かった。じゃあ、また明日な・・・。」
「・・・うん。また、明日・・・。」
松本を置いて、一人階段を降りる。
元気付けたいと思ってたのに、余計に傷つける結果になってしまって。
何だよ、この気持ち・・・
自分が振られたワケじゃねーけど、それ以上に辛いかもしれねー・・
俺を好きだと言う松本に、何もしてやれる事が無くて。
今松本はどんな気持ちでいるんだろう。
泣いている松本の顔が浮かんで、ズキリと胸が痛んで自分の胸に拳を当てる。
悠宇・・・
想像とは違う結末になったけど、昨日からの事を悠宇にちゃんと話さねーと・・
長い階段は、降りる時はあっという間で。
重い足取りで最後の段を降りてから、振り返って階段を見上げる。
そこにはまだ松本の姿は見えない。
一人で階段に座って泣いてるんじゃねーか?今日はそれでなくても辛そうだったのに・・・
でも、俺にしてやれる事はなくて。
やるせない気持ちで、携帯の通話ボタンをタップした。
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