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第八十五話 お互いの気持ち side 朝比奈 悠宇
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「松本は・・俺を好きだって言ってくれた・・・」
そう言って、聡太が俺を抱きしめる腕に力を込める。
俺よりずっと大きくて逞しい胸に顔を埋めて、体は力強い腕に包まれる。
好きな人ができて、付き合えて・・
全部聡太が初めてだから、つい不安になってしまう俺を聡太はいつも優しく受け止めてくれる。
本当に、聡太の全てが愛おしい・・・。
強くギュッと抱きしめ返してから、この無意味な不安を振り払おうと一度深呼吸をする。
聡太は今日、勇気を出して松本君に俺達の事を話しに行ってくれたんだもんな・・・
俺も、ちゃんと聡太の目を見て話を聞こう。
そう思って見上げると・・・
「悠宇、大丈夫・・俺を信じろ。」
信じろ・・・その一言が俺にとってはすごく大きくて。
抱き合って見つめ合ったまま、ゆっくりと頷いて続きを待った。
「一度断って・・それでも松本は待つって言ってくれたけど、俺はこれから先も悠宇しか考えられねーから、ちゃんとそれを伝えた。」
「・・聡太・・」
少し辛そうな聡太の表情。
松本君の気持ちを知っても、俺を選んでくれた・・・
ほっとした気持ちと同時に胸の痛みが訪れる。
気持ちをぶつける事がどんなに勇気がいる事か、ましてや男同士でそれを口にする事がどんなに大変な事か・・・・
そして、精一杯ぶつけてくれた相手の気持ちを断る側の辛さも痛いほど分かる。
聡太が俺を選んでくれて、これから先の事も考えてくれた事は嬉しいけれど、それを思うと単純に喜べなくて・・・。
聡太には俺を好きでいてほしい、松本君には傷ついてほしくない。
俺は、何て自分勝手なヤツなんだろう・・
「悠宇・・・そんな顔すんな・・俺が誤解させるような事したのかもしれねーし・・・悠宇のせいじゃねーんだから、な?」
「でも・・・」
「・・・前に悠宇が告白されて帰ってきた時スゲー辛そうな顔してて・・
俺は安心するけど、断った時の悠宇の気持ちを考えて、辛いだろうなって思ってた。
でも・・・今日告白されて、分かってたつもりだったけど断るのはすげー胸が痛くて・・・俺がこんな事言うのは勝手過ぎるんだけど、松本には幸せになって欲しいって思ってる・・・」
「俺も、そう思う・・・。」
少し遠くを見るようにして話す聡太はきっと松本君を想っていて。
できたら友達のままでいたいけれど・・きっと無理だよ、な・・・。
ぼんやりと松本君の事を考えていると、聡太が俺の頭に額をコツンとぶつけてきた。
「・・・好き、悠宇・・好きだ・・・」
「聡太・・・俺も・・・」
色んな感情が入り混じる。
聡太の温もりを感じてやり切れない気持ちを二人で分け合って…
その日、俺達はただただ二人で抱きしめ合って、お互いの存在の大切さを確かめたんだ・・・。
・
・
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翌日、毎日のように来ていた松本君は俺達の前に現れなくて。
ああ・・もうこれで終わりなのかなって、少し寂しくなる。
その日からずっと、階が違う松本君を見る事はなかった。
そして、ついにクラス対抗「鬼ごっこ」の日がやってきた。
たまの息抜きとあって体育館に集められた生徒達は生き生きとしていて凄く楽しそうだ。
ピーーーーガーー・・・
「はい、皆さんおはようございます。本日は・・・・・」
校長先生の長い挨拶が終わり、生徒会長から鬼ごっこのルールが説明される。
「はい!皆注目!ちゃんと聞いてないと、ディズニーは手にはいらないよ〜!今から俺の説明をしっかり聞いて、今日は思い切り楽しんじゃおう!」
委員会でいつもお世話になっている秋月生徒会長はこの学校の雰囲気とは少し違って、底なしに明るくてハジけた人で、いつも委員会を盛り上げてくれていた。
人気投票で選ばれただけあって、会長が話し始めると体育館が一気に盛り上がる。
皆、鬼ごっこの開始を心待ちにしているようで、会長が何か言う度にあちこちから歓声が上がっていて・・・
後ろからトンと肩に触れられて振り返ると、聡太が俺の耳元に顔を寄せてきた。
「なぁ、もしはぐれたら前に一緒に隠れた用具入れで落ち合おうぜ。」
「そうだね。でも、あそこ以上にいい場所が無かったし、走り回ってても見つかる可能性が高いから最初からあそこに隠れとかない?一緒に逃げると目立つから、別々で走って集合しようよ!」
「別々か・・・」
腕を組んで、少し考える聡太。
「俺、結構足速いでしょ?心配しなくても大丈夫!」
「そういう心配じゃねーんだけど・・・。んー・・・ダメだ。やっぱ一緒に走ろうぜ。」
「聡太がそう言うなら一緒に行こう!俺、ついて行くから遠慮なく本気だしてよ!」
「ん。じゃあ、俺の傍から離れんなよ。」
「・・・・・うん。」
今の台詞・・・不覚にも凄く胸がキュンとしてしまった!
こんな、皆がいる体育館で・・・
しかも、「キュン」なんて単語が浮かんだ自分が恥ずかしくなって顔に熱が集まるのを感じる。
やばい・・赤くなってしまう・・・。
「なんだよお前ら!恋人みたいな会話しやがってよー」
「わっ!」
俺の前にならぶ木下君が肩をぐっと掴んで俺を引き寄せながら会話に乱入してきた。
「真咲、朝比奈と二人きりで何するつもりなんだよっ!ははは!」
「・・・何もしねぇけど・・・」
「・・・・朝比奈、顔すげー赤い・・・何何?この俺様に抱きしめられて照れちゃったか!?可愛い奴め!」
「あ!本当だ!朝比奈君赤い!なんで〜?可愛い!」
「三好さんっ・・!違っ!違うから・・・!!!くっ・・苦しい木下君!首が締まる!!!!」
「・・・なあ、朝比奈っていい匂いが・・・」
横の列の女の子達が俺達を見てキャーキャーと騒ぐ中、
ほとんど身長の変わらない木下君が首に腕を巻きつけて思い切りのしかかってくる。
首筋辺りをクンクンと嗅がれて、くすぐったさとその重さに耐え切れなくて聡太の胸に木下君をしょったまま倒れ込んでしまった。
俺を木下君ごと抱きとめる聡太。
見上げると・・・すごく不機嫌な顔をしていて・・・
「木下・・・離れろ・・」
「あ、あぶねー!はは、さすが力あんな!」
「いいから離れろって・・・」
「分かった分かった!」
木下君が俺から離れると、聡太が俺を後ろにぐいっと押しのけて前に出た。
「何、真咲・・・顔怖いんだけど・・・」
「・・・恋人みたいなんだろ?じゃあ、それでいいから。俺の悠宇にこれ以上近づくなよ。」
「なんだよ〜!びびった!ぶつかったから怒ったのかと思ったぜ!はは!真咲って時々冗談言うけど、顔がマジだからウケる!」
「あはは、真咲君、木下から朝比奈君を守ってー!」
「あ〜私も彼氏にそんな事言われてみたいよ〜!カッコイイ・・・」
「三浦さん、彼氏いたの?」
「朝比奈君!そこは触れちゃだめ!未来の彼氏の話しなの!!」
俺、彼氏にそんな事言われてる張本人だけど・・・うん。すごく嬉しい・・・。
自分がこんな事で喜ぶようなタイプだと思わなかったんだけど・・
実際大切にされると性別関係無く素直に嬉しいな。
横に並ぶ豊田さん達と話しながら、聡太の後ろ姿をチラリと視界に入れる。
今どんな顔してるんだろう。少し照れくさいけれど、早く二人っきりになりたくて。
気がつけは「鬼ごっこ」はもう始まろうとしていた。
会長の合図でぞろぞろと体育館から出る(子)達に続いて俺たちも外に出る。
(子)になった生徒は体育館の外のスタートラインに立ち、鬼(親)は体育館で(子)のスタートから10秒後に追いかけてくるというルールだ。
学年とクラス毎に違う色のタスキを着けていて、それが目印になる。
逃げる時間はたった10秒か・・・隠れる時間を作るにはまずは追ってくる鬼を撒かなくちゃいけないな。
「聡太!朝比奈君っ!」
スタート直前、俺たちの腕を取って森田君が真ん中に飛び込んで来た。
「森田君!いい場所見つかった?」
「まあね〜ふふ。僕だからこそ、隠れられる場所なんだよね〜自信ある!」
「隠れるまでにつかまんねーようにしねーとな・・。ふっ」
「笑った!笑ったな〜!どうせ僕は足が遅いよ!でも秘策がある!」
俺たちの間で得意そうにニヤリと笑う森田君はとても可愛くて、俺もつられて笑顔になってしまう。
「秘策って何?」
「うん、人が固まってるところに潜り込んで途中まで一緒に走るのだ!」
「・・秘策・・・かよそれ?」
「何さ〜!これ以上の秘策がどこにあるの!?このまま二人と一緒にいたら、置いてきぼりで目立っちゃうから僕はあっちの方からスタートするね!じゃあ、検討を祈るっ!」
そう言ってニコニコと手を振りながら女の子の集団の中に消えて行った森田君を見て聡太が楽しそうに笑う。
いよいよ、始まるな・・・
隣にいる聡太を見上げて、ニコリと笑うと聡太も微笑んでくれて・・
よし!ディズニー目指して頑張るぞ!
連れ立って歩く俺と聡太を、数人の鬼がじっと見ている事にその時は気づかなかった・・・
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**「鬼ごっこ」ルールおさらい**
クラスを半分に分けて追いかける側の鬼(親)と隠れる側の(子)を決める。
鬼(親)は他クラスの(子)を探す。
(子)は制限時間2時間の間逃げ切る。
鬼(親)にタッチされた者は「監獄」(体育館)に集められる。
一度捉えられた(子)は、生きている仲間の(子)に触れられると生き返ることができるが、鬼が見張る体育館に侵入して仲間を救出するのは困難なため、救出に向かうよりも隠れて時間を稼ぐ方が得策。
隠れる場所は、学校の敷地内ならどこでも可。
ただし、トイレなどの鍵の付いた部屋は×。
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