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第八十六話 俺の選択 side 松本 依
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「オッス。一昨日はやり過ぎて悪かったな・・・例の件、やっぱお前に協力してほしいんだけどよ。話し聞いてくんね?」
体育館に向かう途中、鈴岡が少し気まずそうに話しかけてきた。
朝比奈君を落とし入れる為の協力・・・
真咲君に告白をした日、結局そのことを言い出せなくて。
言うタイミングはたくさんあったのに、言わなかったのはフラれた腹いせだと思われても仕方がないし、自分でもそう思う・・・。
だからと言って積極的に協力する気にもなれなくて無視をしていると、何も言わない俺にしびれを切らした鈴岡が気になる事を言ってきた。
「俺さ・・お前が朝比奈の好きな奴見つけてこねーからイライラしてたんだけど、アレ分んなくて当然だったのかもしんねーぞ?」
「え・・?どういう事・・?」
何だか嫌な予感がする・・・。
「実はな、一組と三組の奴で今回の話しに乗るってやつらがいてさ、その一組の奴らが昨日朝比奈が他校の女とカフェにいるの見たらしいんだよ!」
「二人きりで・・・?」
「そーなんだけどな、問題はそこじゃねーの!その女が彼女かと思って聞き耳を立ててたら、どうも朝比奈には付き合ってる奴がいるらしい事が分かってさ!んで、そこに真咲が来たらしいんだよ・・」
そこまで言って、またニヤリと笑う鈴岡に続きを促す。
「そん時の二人の雰囲気が尋常じゃなかったらしくてよ・・ありえねーとは思うけど、朝比奈と真咲ってデキてるかもしんねーって、昨日そいつらと盛り上がってたんだよ!」
そう言っていやらしく笑う松本を見ていると、男同士の恋愛が否定されているようで・・自分の事がバレたワケでもないのに、心臓がドキリと跳ねた。
「男同士で、ただじゃれてただけじゃないの・・・?」
「まーな・・。でも、見た奴らは間違いないって言っててよ!それに、もしそうだったらおもしれーと思わねぇ!?」
やっぱり俺と別れた後、朝比奈君は真咲君を独占していたんだ・・
きっとあの後会うんだろうって分かっていたけれど、実際こうして誤解されるような事をしていたんだと思うと、心にまた靄がかかって。
「・・・・。で、俺にどうして欲しいの・・?」
「お、その気になったか?お前も気になるだろ!?」
「別に・・どうして欲しいのか言ってみてよ・・」
「よし、まずはな・・・・」
鈴岡から体育館に向かうまでの間に聞いた計画はこうだ。
一組と三組の協力者の鬼(親)は開会式に参加せず、校庭の物陰に隠れて待機する。
スタート直後、真咲君と朝比奈君を引き裂くように追いかけ、最終的に朝比奈君だけを別棟の倉庫付近まで追い込む。
そこにあらかじめ隠れていた(子)の俺が朝比奈君を倉庫に呼び込んで、倉庫内に隠れている残りの仲間(子)がリンチする・・と言っても、怪我をさせると後々面倒だから何か別の方法で制裁を加えるという事だった。
追いかける鬼(親)は1組と3組の4人で、倉庫に潜むのは俺を含めて4人らしい。
話しを聞き終えて体育館に入ると、少し前を歩く真咲君を見つけて・・・
俺が欲しくてたまらなかった真咲君の横を当たり前に歩く朝比奈君。
朝比奈君だったら他に誰だって手に入るのに、どうしてよりによって俺が好きになった人と付き合ってるんだよ・・・。
真咲君を見上げて嬉しそうに微笑む朝比奈君を見ると羨ましくて・・・
少し位痛い目にあったっていいんじゃないかって思ってしまう。
生徒会長の説明の後、スタートの合図とともに(子)が一斉に走りだす。
グラウンドは、全校生徒の半数が集まっているだけあってかなり動きにくい。
そんな中での10秒間はあっという間で。
鬼投入の笛が鳴って後ろを振り向くと、女の子や人ごみで動きが取れなくなった奴が次々に捕まっていた。
真咲君と朝比奈君は後方からスタートしたにも関わらず、すぐに先頭集団へ追いついたけれど、タイミングを見て物陰から飛び出した協力者の鬼(親)にそれぞれ追いかけられて、人ごみのせいもあって苦戦している。
鬼(親)も必死に追うけれど、二人とも凄く早くて・・
「聡太!捕まるより今は逃げよう!」
「・・ッ・・・分かった!後でな!」
そう言って別れを告げると、さらに速いスピードで鬼(親)から逃げる二人。
とりあえず、離れ離れにする作戦はなんとか成功した。
俺達は二人が別れるのを確認すると、こっそりとフェンスを越えて別棟の倉庫に先回りした。
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「そろそろ来るんじゃねーの」
「なあ、どうやって制裁加える?」
「んー・・・朝比奈の好きな奴が女なら、松本に惚れさせようとしてたんだけどよ・・さすがに男落とすワケにはいかねーからな。はははっ・・・制裁な・・あんま怪我させても後で面倒だしな。王道の恥ずかしい写真でも撮るか!皆の王子様のお下劣写真とかどーだよ!」
「ははは!お下劣って何だよ!ま、とりあえず押さえ込んでから考えるか。」
「てか鈴岡、お前松本使ってそんな事考えてたのかよ!でも、逆に女取られるトコ見てみたかったよな〜。」
入り口を見張る俺の後ろで、鈴岡と1組の山口と井上が盛り上がっていて・・・
「実は俺さ、朝比奈の事階段から突き落とした事があるんだよな。ぶつかるフリしてさ!それでよ、ザマァと思ってたら怪我した朝比奈見て女共がキャーキャ心配して騒いでさ・・マジでイライラしたわ。」
あの時ぶつかったのって、1組の山口だったのか。
自分で怪我させといて、勝手にイライラしてこんな事にまで参加してるんだ。
何て勝手な奴・・・今の話しの中で、朝比奈君が何かした事なんて一度も無いじゃないか・・・。
倉庫の扉を少し開けて、外を見つめながらぼんやりとそんな事を思って・・・
そうだ、俺は同じ事をしようとしてるんだ・・・。
そう思った時、外が少し賑やかになって・・・こちらに向かって走ってくる朝比奈君が見えた。
「松本!来たぞ!俺たちは隠れるから、早く呼びこめ!」
・・・・・どうしよう・・・どうしたら・・・
「朝比奈君!こっち!鬼に見つからないうちに早く!」
引き戸を開けて、大声で呼びかけながら手招きすると、朝比奈君が俺に気付いて・・・
「松本君!!」
俺を見つけて嬉しそうな笑顔を見せる朝比奈君に胸が痛む。
ふと、少し前に朝比奈君が言ってくれた言葉が頭に浮かぶ。
『ちゃんと仲良くなれないかなってずっと思ってたんだ』
こんな事、鈴岡が言ってくれた事は無くて。
俺はいつも人の顔色を伺って、本当に大切な物に気がつくのが遅いんだ・・・
こっちに向かって走る朝比奈君。
純粋に俺を信じてくれていて・・・
罠だと知ったら、朝比奈君はどれだけ絶望するだろう。
こんな俺と友達になろうとしてくれていたのに。
真咲君への嫉妬はあるけれど、それは朝比奈君が悪いワケじゃない。
分かっていたのに抑えられなかった自分が恥ずかしくなる。
今更後には引けない、取り合えず朝比奈君を呼び込んで、それから鈴岡を説得してみよう・・。
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