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第八十七話 朝比奈君という人 side 松本 依
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ガッ、ガラララーーー バタン・・
朝比奈君を招き入れて、ガタガタと軋む建てつけの悪い倉庫の扉を閉めた。
「ハッ・・ハァ・・・ま、松本君、助かったよ・・・ありがとう。」
「・・・・・・・。」
罠に嵌めようとしている俺に、息を切らせながらお礼を言う朝比奈君を見ていると何も言えなくて・・
無言で立ちすくんていると、膝に手を着いて下を向いて息を整えていた朝比奈君がガバッと顔を上げた。
「あっ・・・本当は俺なんか、匿いたくないよね!?実は昨日聡太から聞いたんだけど・・・」
「朝比奈君!!!」
「わっ!ビックリした!な、何!?」
あ・・あぶない・・昨日の告白の事、後ろに隠れている鈴岡達に聞かれる訳にはいかない。
真咲君と朝比奈君の事を話していた時の鈴岡の顔が頭に過る。
真咲君を好きな気持ちは本当だけど、この先の事を考えると男を好きになったなんて打ち明ける勇気はなくて。
「や、何でもない・・じゃなくて、鈴岡っ!!!」
このつまらない報復を終わらせようと、俺は勇気を出して鈴岡の名前を呼んだ。
「えっ?鈴岡君って?急にどうしたの・・・」
ガタン・・・・
「寝返るのかよ・・・」
用具入れの裏からゆっくりと鈴岡が現れる・・その声は怒りに震えていて。
元々争いごとが嫌いな俺は、その迫力に圧倒されてしまいそうになる。
ダメだ、ちゃんと言わないと・・・。
「鈴岡、こんな事やめよう・・こんな事したって、虚しいだけだろ!?」
「松本君、一体どういう事・・・」
「松本!お前ふざけんなよ!ここまでしたのに今更何言ってんだよ!!」
怒った鈴岡がゆらりと二人の前に立つ。
「てめぇ・・・つまんねー奴だけど顔だけはいいからツルんでやってたのに・・本当度胸もねーし使えねーなあ!」
「ッ・・・・。」
自分でも自覚がある、いつも人の顔色を伺ってはっきりしない、このつまらない性格・・・
腹が立つ反面、面と向かって言われると何も言い返せなくて。
臆病な俺は、体操服の胸元をギュッと握りこんで鈴岡を見つめ返す事しかできない。
「何とか言えよっ!!」
何も言えないでいる俺に、計画をダメにされて怒った鈴岡が勢い良く拳を振り上げるーーー
咄嗟に目を閉じて、顔の前で腕を交差させようとした次の瞬間。
ドンーーーーッ
ガッ!!!!
全ては、一瞬だった・・・
強い衝撃で体が弾き飛ばされて、マットの上にドサリと倒れ込む。
「うあっ・・・!」
あれ?痛く、ない・・・殴られたはずなのに痛みがないなんて・・・なんで・・・
一瞬の放心状態の後、正気に戻って二人の方を見上げると頬を押さえて鈴岡を睨む朝比奈君がいた。
俺がどんな嫌がらせをしても、いつも笑顔で許してくれていたのに。
こんな顔初めて見た・・・
アーモンド型の綺麗な瞳が鈴岡を睨みつける。
少し釣った目元は笑顔を失うと迫力があって、唇には血がにじんでいた。
俺を庇って・・・?
さっきまでの鈴岡とのやりとりで、この状況の意味を分かっているハズなのに・・・
「朝比奈君、俺の事かばってくれたの?もう、分かってるんだろ!?どうして俺なんか!!」
「・・っ・・松本君は迷惑かもしれないけれど、俺にとってはせっかく出来た大切な友達だからだよ!その友達がこんな風に言われるのは許せない!」
こちらを振り向いて強く言い放つ朝比奈君は、俺の事だっていうのに自分の事のように辛そうな顔をしていて・・・。
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『お前が誰かに虐められてたら、それだって俺は許さねーよ。』
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俺がバカにされたからって、庇って立ち向かってくれる朝比奈君を見ていると、不思議といつかの真咲君の言葉がピタリと重なった。
「ハッ、友達かよ。お前、うまく取り入ってたんだな。」
「鈴岡君、友達に向かってどうしてそんな風に言えるんだよ!」
俺を庇って、そして俺の為に怒ってくれている。
ガタイのいい鈴岡に凄まれても怯む事なく、むしろそれを圧倒する程の迫力で迫っていて。
全部お見通しで、それでも俺を受け入れてくれていた朝比奈君。
それは素直にすごいと思っていたし、その優しさには敵わないと思っていた。
でも、朝比奈君がいつも穏やかでいられるのは、強くて優しい真咲君の横でその逞しさに守られていているからなんだろ?
なんて、そんな風に思っていたけれどーーー
今この瞬間の朝比奈君はすごく男らしくて。
自分の事だと何をされても笑って許すくせに、他人の事でここまで熱くなれる。
真咲君の好きな朝比奈君という人は、優しくて綺麗なだけじゃない。
芯のある強さを持った人だったんだ・・・
俺には無い、その強さ。
二人はちゃんと持ってる。
「出会ってちょっとの松本の事そんなにかばうなんてよ〜。朝比奈、お前真咲だけじゃなくて、松本の事も好きなワケ?顔だけはいいけどよ、こんなヘタレやめとけよ。あはははっ」
「えっ・・・」
「何、その反応・・はっ、まさかマジなのかよ!?・・今だ!抑え込むぞ!」
真咲君を好き。その言葉に明らかに動揺する朝比奈君。
その隙を狙って、鈴岡が二人を呼んで・・・・
合図とともに、山口と井上が飛び出してきた。
こんな俺を友達だと言い、顔に傷を付けてまでかばってくれた。
そんな朝比奈君に、俺の裏切りで悲しそうな顔をさせてしまって・・・
ダメだ、これ以上朝比奈君を傷つけたくない!!!
もつれ合う4人の後ろで、俺は意を決して立ち上がった。
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