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第九十話 俺の選択。
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二人で約束した用具入れに先に着いたのは俺だった。
追っ手がしつこくて結構遠回りしたから先に着いてると思ったけど・・
足の速い悠宇の事だから、きっとすぐに来るよな。
最初はそう思っていたけれど、5分、10分・・・20分を過ぎても現れなくて。
妙な胸騒ぎがする。
そんなに長い間逃げ続けているのか?
それとも、もう捕まって・・・?
悠宇の事を考えると、いてもたってもいられなくて俺は外に飛び出した。
はぁ・・・はぁ・・・
「あ!あそこに子がいるぞ!真咲だ!」
「追え追え!!」
「っ、ハッハァ・・・早っ・・・!!!無理だ・・・!」
「もういい!時間もったいねーから!あっち追いかけようぜ!」
逃げる生徒、追う鬼・・・その間を掻い潜って走り続ける。
どこだ、悠宇・・・
二人で考えたルートは全て回ったけれど、その姿はどこにも見当たらなくて・・・
もう一度戻ってみようか、もう着いているかもしれない…
そう思った時だった。
「真咲!」
聞き覚えのある声に後ろから呼び止められて振り返ると、科学準備室から顔だけ覗かせて手招きする山本先生がいた。
「ハッ・・・ハァ・・俺、急いでるんで・・・」
「朝比奈だろ?ちょっとこっち来い!」
「・・・?」
居場所を知ってんのか・・・?
いつになく真剣な様子が気になって、言われるまま科学準備室から出てくる先生について行くと非常階段まで連れていかれて・・
一体どこに行く気なんだ?
ギギーィ・・・・
先生は非常階段のドアを開けて階段の踊り場に出ると、斜め下に見える倉庫を指差した。
「あそこだ・・・」
「え・・・悠宇はあそこに・・・?」
「んー・・・俺な、監視役でウロウロしてたんだけどよ・・・ちょっと一服と思ってこの階段でタバコ吸ってたんだよ。」
「・・・」
「そしたらさ、倉庫に朝比奈が入っていくのが見えてな。」
「やっぱり、あそこに・・じゃあ、俺行ってきます。」
「あ、待て!それが、少ししてからものすごい音がしたんだよ。鉄パイプが倒れるようなさ・・・で、気になってとりあえずタバコしまいに行って部屋から出たとこでお前が通り過ぎたから声かけたんだよ。」
「え・・・っ・・・」
「あ、うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
隠れた倉庫でそんな音がするなんて、何かあったんじゃねーかと不安になって再び走り出そうとした次の瞬間、倉庫の方からかすかに叫び声が聞こえてきて・・。
「真咲、今の声・・・って・・」
「ッ・・悠宇!!」
「あ、おい真咲!!」
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必死に走ったけれど、着いた時には悠宇は気を失っていて・・・
やっと、目を覚ましてくれた・・その事に心から安心した俺だったけれど、突然の謝罪に戸惑う・・何でこんな風に謝るんだ・・・?
「悠宇、どうした?」
何があったのか分からないけれど、ここでこんな目にあったんだ・・松本はああ言っていたけれど、俺に謝らないといけないような事があったのか・・?
けれど、何があったとしても絶対に悠宇のせいなんかじゃない。
今にも泣き出しそうな顔で俺の服を掴むその手を上から包み込んで、できるだけ優しく話しかけた。
「悠宇、何があったかわかんねーけど、大変な思いをしたのは悠宇なんだぞ?そんなに嫌な事があったか・・・?」
「・・・聡太が・・誰にも見せたくないって、守りたいって言ってくれたのに・・俺が弱いせいで・・」
「ッ!!何かされたのか!?」
俺の声に肩をビクリと震わせる悠宇。
あ、しまった・・悠宇を怖がらせたいわけじゃねーのに・・・悠宇の事になると、つい頭に血が上ってしまう。
「ごめん、悠宇・・・。悠宇に何かあったんじゃねーかって心配になってつい・・デカイ声出してわりー・・・」
「大丈夫。・・体、見られたんだ・・。ごめん・・・。」
「・・・ッ・・!」
鈴岡が、『井上も山口もおかしくなってさ』って言ってたけど・・悠宇の体を見たから・・?
俺の胸に抱かれて、視線を逸らす悠宇。
長い睫毛が小さく震えていて・・・
男だったら当たり前だけど、悠宇は自分の体の魅力に頓着が無くて、今までその無防備さにヒヤヒヤする場面が少なからずあった。
そんな悠宇が、少し前に言った俺のつまんねーワガママをこんなにも気にしていてくれて。
悠宇に愛されているのを実感する反面、俺の言葉で追い詰めてしまった事を後悔する。
不安そうに俺を見つめる悠宇をぎゅっと抱きしめて、その首筋に顔を埋めて、ゆっくりと呼吸をして・・・
「悠宇のせーじゃねーよ・・遅くなってゴメン。でも、俺は悠宇が無事で安心したから・・俺の為にそんな顔すんなよ・・・」
「うん・・・聡太、来てくれてありがとう・・・」
何もできなかったのに、俺が来た事への感謝の言葉をくれる悠宇。
くそっ、山本先生の時もそうだ。
俺はいつも肝心な時に悠宇の傍に居ない・・・
鈴岡達が悠宇を捕らえた理由は、あの様子からして女にモテる事への嫉妬なんだろう。
暴力で抑えつけようとしていたのかと思っていたけれど、脱がすなんて・・・
どっちにしても許せねーけれど、俺はそれ以上に自分の事が許せなかった。
俺が見つけるのが遅かったせいで、また悠宇を傷つけてしまった。
少しのやりとりの後、離れて俺たちを見ていた松本が動く気配がしてそちらを振り向くと、下を向いてハーフパンツをギュッと握りこんで俯いていて。
その体操服は、砂や埃にまみれて酷く汚れていた。
「あ、の・・・二人とも・・俺のせいで、本当にごめん。」
そうか、隠していた事ってこういう事か・・・
友達関係に悩んでるみたいだったけど、あいつらに脅されて・・?
それとも・・・
松本の声に、悠宇がゆっくりと俺から離れて、松本の方に向き直った。
「松本君・・・もう、いいんだよ。俺のためにあんなに頑張ってくれたじゃないか・・俺、すごく嬉しかった。」
「ッ、そんな!俺が呼び込んだから!!!」
「・・・でも、俺を助けたいと思ってくれたんでしょう?それだけで十分だよ。俺は大丈夫!結局一番怖かったのはゴキブリだから!あはは!」
「・・・朝比奈君・・・」
松本を心配させまいと明るく振る舞う悠宇。
悠宇を呼び込んだのは松本、か・・・
理由は分からないけれど、事実加担していたワケで・・でも、悠宇はそんな松本を許そうと、いや、受け入れようとしている。
こんなにボロボロになるまで悠宇の為に頑張った松本の事を俺も信じたい・・・
「でも、真咲君・・これからどうなるか・・・俺のせいで大変な事に・・」
すっきりと整った顔がぐにゃりと歪んで、今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめる松本。
「俺なら大丈夫だ。もう気にすんな・・。悠宇もこうして無事だったんだし、な。」
「え?何、松本君、聡太・・二人ともどういう事!?何かあったの・・・?」
「悠宇、気に・・・
「朝比奈君を守るために、真咲君はあいつらに朝比奈君が好きって言っちゃったんだ!」
「えっ・・・・それって・・・」
俺の言葉に被せるように松本が叫ぶ。
隠したって、そのうちバレちまう事だよな・・・。
「あいつらが悠宇にちょっかい出すから・・・俺は悠宇の事をそういう意味で好きだから、これ以上手をだしたら許さねーって、言ったんだよ・・。」
「え・・」
「真咲君は、付き合ってる事は言わずに自分だけ犠牲になったんだ・・あいつら、本当に何するか・・・ッ・・ごめん、なさい・・俺、考え無しで本当こんな事になるなんて・・・」
「まあ、あいつらなら松本が居なくてもいつか同じ事してただろ・・」
「・・・でも、真咲君なら鈴岡達の事簡単に黙らせられるのに、どうしてあんな事言ったの・・・?」
「もし力で黙らせても、余計恨みを買うだけだろうから・・・・俺がずっと一緒に居られるワケじゃねぇし、あいつらが納得するような情報を渡すしかねーと思ったんだよ。」
「まって、二人共・・・どういう事!?」
「朝比奈君・・・・さっき鈴岡達が二人が付き合ってるって疑ってたろ・・・?
朝比奈君が気絶している間に真咲君がそれを否定して、自分が一方的に朝比奈君を好きって言ったんだ。そしたらそれを携帯で録音されてて・・・。」
「そんな・・どうして!?俺のために嘘をついたの!?
ッ・・・俺、鈴岡君達に俺達が付き合ってる事言ってくるから!!!」
松本の話しを聞いて、俺の両肩をグッと掴む悠宇。
少し下にある綺麗な瞳が俺を強く見上げる。
悠宇は決意したようにぎゅっと口を結んだかと思うと、立ち上がって駆け出そうとしてーーー
俺は、咄嗟に悠宇の腕をグッと掴んで引き戻した。
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