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第九十三話 変わる世界 side 松本 依
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「大丈夫、俺を信じて」
いつもニコニコしている朝比奈君の真剣な顔。
少し釣った二重の大きな瞳にじっと見つめられると、本当に何もかも大丈夫と思えるから不思議だ。
そして、実際その通りで・・・
駆け出した朝比奈君は仲間と一緒に何人もの鬼を交わしながら駆け回っている。
腕の間をくぐり抜けたり、急な方向転換で惑わせたり・・
他の二人と協力して逃げる姿は映画のワンシーンのようだった。
同じ男として、俺はこの人が本当にかっこいいと思う。
他人のために本気で怒る事が出来て、不利な状況でも諦めない姿、そして、どんな時でも真っ直ぐだ。
そんな朝比奈君を見ていると、自分って一体なんなんだって思ってしまう。
俺も朝比奈君みたいになれるだろうか。
そんな事を思いながら、真咲君の後に続いて体育館に飛び込むと、捕らえられた(子)達が中心に集められていた。
鬼意外の誰かが入ってくるなんて皆思ってもいないから、一瞬の沈黙が起きてーーー
次の瞬間、誰かが大声で指示を出した。
「おい!!(子)だ!捕まえろ!!」
見渡すと、中には5人の鬼がいて。
朝比奈君のおかげで中の鬼は随分と減っていた。
中に侵入する(子)がいるとは思っていない様子で、鬼達はひどく慌てていた。
捕らえられた沢山の(子)の中に紛れて、少しでも多くのクラスメイトを助けないと・・・
俺にできるだろうか・・走り寄ってくる鬼達に足がすくんでいると・・・
ぽんーーーー
真咲君の手がふわりと俺の肩に触れた。
見上げると、整った顔が俺を見下ろしていて。
「ここからは別行動だ。6組の奴を探して、とにかくタッチするんだ・・いいな?」
その言葉に頷くのを確認すると、俺の背中を押して走るように促してくれて。
その手に勇気付けられて、俺は再び走り出す事が出来た。
そこからは無我夢中で・・・
追っ手を交わして(子)の中に飛び込む。
「きゃー!真咲君!!!来てくれた!」
「助けに来てくれたの!?いいなー2組!」
「もう一人の子は何組!?」
「6組の松本君だよ!」
「えーあんなかっこいい子いたの!?羨ましい〜!」
「あ〜〜〜〜〜!!聡太〜〜ぁ!僕を助けに来てくれたの!?」
真咲君を見て皆嬉しそうで・・・
飛び出してきた森田君とハイタッチをした後、二人はそれぞれ人ごみの中に消えていった。
突然の救世主に湧き上がる体育館。
それぞれのクラスメイトがタッチしてもらおうと駆け寄ってくる。
一人、二人、・・・必死に走って鬼をかわしながらどんどんタッチする・・・
「松本君!こっち!」
「きゃー・・!松本君ってイメージ違うくない!?かっこいいんだけど!」
「おとなしいイメージあったよね。まさかこんなさ!すごいかっこいい!」
俺も、皆の目に少しは頼り甲斐のあるヤツに写っているんだろうか。
「チッ!ちょろちょろしやがって!」
「仕方ねーよ!こんだけ(子)がいたら見失うだろ!!!」
「ええーー!俺達のクラスの奴らは何してんだよーー!助けに来いよなー!」
「松本!こっちこっち!!」
他クラスの生徒達の羨望の眼差しを受けて、クラスメイトの歓喜の声の中、夢中で走り続けた。
そういえば・・・真咲君はうまく皆を救えてるだろうか?
キョロキョロと辺りを探しながら走っていると・・・
ドンーーー
突然背中を突き飛ばされたかと思うと、目の前にあった大きな体に抱きとめられた。
「ッ・・いたっ!」
「悪い・・!」
ふわりと香る、爽やかで優しい香り・・・俺を包み込んだその体の主は真咲君だった。
「おい、松本を守れ!タッチされたヤツは他のヤツをどんどん救え!」
クラスメイトの声が遠くに聞こえるーーー
どうして俺は真咲君の腕の中に・・・?
ぼんやりと見つめていると、俺達の前に人の壁ができて鬼がどんどん押し流されていく。
そうか、俺・・・もう少しで鬼にタッチされるところだったんだ・・。
(子)の誰かが俺を救おうと突き飛ばした所にたまたま真咲君がいた。
ただそれだけの事なのに、俺の心臓がドキドキと早鐘を打つ。
見上げると、至近距離、真咲君に抱きとめられたまま目が合って・・・。
平均より高い身長の俺をすっぽりと包むその大きな体、心配そうに俺を見下ろす優しい瞳、初めて香る真咲君の香り。
そういえば、前は朝比奈君と同じ香りがしていてーーー
その時は何も思わなかったけれど、あの時真咲君が慌てていたのはそういう事だったんだな・・・。
ちくりとした胸の痛みと、初めて真咲君の腕に包まれた嬉しさで少し動揺する。
「おい・・松本、大丈夫か・・・?走れるか・・?」
「あ・・・ごめん・・」
突き飛ばされた俺を純粋に案じる真咲君は、その腕を緩める事なくぼーっとする俺を支えてくれている。
鈴岡に抵抗する朝比奈君、それを助けに来た真咲君を見てお互いにとても思い合っているのがよく分かって・・・
そして、朝比奈君という人の凄さに気がついて、俺は今更二人の仲を割きたいとは思えなくなっている。
けれど、好きという気持ちは簡単に無くなるわけなくて。
だめだ、このままじゃ・・俺、諦められなくなる・・・・
真咲君は、突然飛び込んできた俺を受け止めただけなんだ。
勘違いするな。
必死に自分に言い聞かせて、ぐいっと真咲君の胸を押して距離を取るとーーー
「あっ・・・ワリ、・・・さ、今の内に行こうぜ!」
少し困ったような顔をした後、真咲君はまだ救っていない生徒の元へ駆けて行った。
俺、明らかに変な顔しちゃったもんな・・・
朝比奈君にあんな事をしてしまった俺なのに、二人は普通に接してくれて・・・
せっかく友達になれたんだ、気をつけないと・・・
なんとか気持ちを切り替えて走り出した時、聞き慣れた、命令するような強い口調で俺を呼ぶ声がした。
「松本!こっちーーー!」
それは紛れもなく鈴岡で。
少し離れた所にいる鈴岡がこちらに向かって手を振っている。
どうしよう・・・迷っている暇なんてないのに。
鈴岡を見て、俺はつい足を止めてしまったーーーー
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