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第九十四話 松本の気持ちと俺の気持ち
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・・俺は本当に鈍感だ。
『最後に抱きしめて欲しい』
ぶつかってきたとはいえずっと支えているなんて。
あれじゃあまるで抱きしめていたのと一緒じゃねーか・・・
抱きとめた俺の腕に収まったまま、ぼんやりとしていて今にも倒れそうだったから、ただ支えているだけのつもりが・・・
俺に他意はなくても、松本からしたらきっと意味のある事で。
目があった時の松本のあの顔・・・目元には、うっすらと涙が滲んでいて・・
松本は、涼しげな目元に高い鼻、顔が細くて白いからそのパーツが良く目立っていて、すっきりとした顔立ちをしている。
出会った時の自信家でグイグイ来る姿からは想像できなかったけれど、本当の松本は意外に涙もろくて。
友達と思っていたヤツからの告白、そしてその後の距離の置き方。
男同士なだけに、普通に接するだけでも近いのに。
考えれば考える程、俺はその距離感が分からなくて戸惑っていた。
気まずそうな松本に気をつかわせないよう、慌てて駆け出して・・・
そこから、クラスメイトを探して必死に走った。
「おっ真咲!サンキューな!」
「真咲!俺ならもう生き返ったぞ!もう充分だろ!そろそろ逃げるか!」
「ちょっと待って!真咲君ーー!こっち来て!」
タッチされた生徒は次々に仲間を救っていて、あっという間に鬼(親)の数よりも生きている(子)の数が多くなって数人の鬼(親)だけでは収集がつかなくなっていた。
もう充分だな・・・
外にいる悠宇もとっくに限界を超えているはずだ・・・
タッチされた2組、6組の生徒達は次々に体育館から駆け出していて。
きっと外の鬼(親)も混乱している頃だろう。
俺もそろそろ離脱して、悠宇と逃げよう。
さっきの事もあって気まずさはあるけれど、松本に黙って行くワケにはいかねーよな・・
一言声を掛けてから出ようと辺りを見回すと、鈴岡に肩を組まれて俯きながら入り口に向かう松本を見つけた。
・・・松本・・・。
お前、本当は言う事を聞きたくねーんだろ!?
そいつと居たくねーんじゃねーのか・・?
倉庫に入った時の松本のボロボロになった姿や今まで聞いた話を思い出すと、居ても立っても居られなくて。
本当の松本は少し臆病で。率先してあいつと付き合うようなヤツじゃねーはずだ・・・
松本の気持ちを考えると、俺が近づきすぎねー方がいいのかもしんねーけど、どうしても放っておけなくて俺の足は自然と二人の元に向かっていた。
後ろから駆け寄って、松本の肩を掴む鈴岡の腕をグッと掴む。
何を言うかなんて決めてないし、鈴岡をどうこうしたいワケでもねー。
ただ、振り向いた松本が俺を見てあんまりにも安心した顔をしたから・・
だから、やっぱりどうにかしてやりてーと思ってしまったんだ。
「イテッ・・真咲、お前自分の立場分かってんのかよ・・・松本、お前も分かってるよなぁ?」
まるで自分の手下のように松本を扱う鈴岡に腹が立って、肩に回した腕を外しながらつい力が入る。
「・・分かってるけど、それが何だよ・・」
「真咲君っ!!」
「ぐっ・・痛てぇ・・離せよ!!球技大会が終わったら、覚えてろよ!」
そう言って俺を睨みつけた後、鈴岡はさっさと入り口から出て行ってしまった。
「真咲君・・・俺が言う事聞けば、少しは時間が稼げたかもしれないのに・・・」
そう言って泣きそうな顔で俺を見上げる松本の頭をポンと叩いて、何でもないように笑ってみせる。
「さっき、俺達と戦うって言ってくれて、すげー嬉しかった。けど、自分の心に嘘ついて無理して欲しくねーんだ。俺達のために犠牲になるなんて考えんなよ。」
「・・・真咲君、俺・・・」
「話は後で、ゆっくりしよーぜ。さ、そろそろ鬼(親)が気づいて帰ってくるだろーから、俺達も行くぞ。」
「分かった・・・行こう!!」
二人で混乱する体育館を抜け出すと、遠くに鬼(親)達が見えて・・・
体育館を抜け出した(子)を追う鬼(親)がパニックになっている。
突然50人以上の(子)が駆け出してきたんだ、
何も知らない鬼がパニックになるのは無理もねー・・・
悠宇が体育館に連れ戻される所は見てねーから、きっと外にいるはず・・
そう思いながら、校庭を駆け回る(子)の中に悠宇を探すけれど、その姿は見えなくて。
もうどこかに逃げたのか?
それなら安心だ・・なんて思った次の瞬間、校庭の端に数人の鬼の固まりが激しく動く姿が視界に入った。
良く見ると、その集団の中心には悠宇達が居て。
スピードは落ちているものの、3人はまだ鬼を翻弄して走り回っていた。
少し遠くから、必死に悠宇の名前を叫ぶ。
「悠宇!!」
「聡太!!」
「ま、まさきぃ〜〜!!ハッ・・ハアッ・・」
「高梨君、木下君ッ!二人とも、ッ、ありがとう!もう行こう!」
「おう!」
「やっとかー!」
ただ逃げるだけとなれば、3人とも運動神経がいいだけあってスゲー早くて。
俺たちは鬼の間を掻い潜って、校舎の中に飛び込んだ。
「はっ・・・・は〜〜〜!死ぬかと思ったぜ!」
「な、朝比奈、俺頑張ったろ!?」
「はー・・疲れたね・・・でも、二人とも本当にありがとう。理由も気かずにあんなにしんどい思いしてくれて。俺、すごく嬉しいよ・・・」
「高梨のお願いだったら、ふざけんなって断るけどさ、朝比奈のお願いなら断るわけねーだろ」
「なんだよ木下・・・さりげにひどくね?俺のお願いも聞いてくれよ〜!」
「日頃の行いだろ!ふっ、あはは!」
「ひでー・・・でもさ、真咲が忍び込んでたとはな〜!俺たちのクラス、相当生き返ったんじゃね?」
「ああ、悠宇のおかげで、とりあえず全員体育館から出たと思う。」
「・・・そっか・・にしては出てきた生徒が多かったような・・」
「あ、俺も一緒に自分のクラス助けて回ったから・・6組も一応全員復活だよ。何かごめんね・・」
「あ、お前松本だな!くー!イケメンめ!お前が良くクラスに来るから、益々女子が俺から遠ざかって行くじゃねーか!」
「あ、わ・・ごめ・・」
「松本、気にすんなよ!高梨はお前が来なくたって女子に相手にされてねーから!」
「・・ふはっ・・・」
「おいこら松本!笑うんじゃねー!」
「あは、ごめんごめん・・」
「ふふ。高梨君はいつもこんな感じだから、気にしなくていいよ。」
「おい!朝比奈まで何なんだよ〜!なあ、真咲!俺だって需要あるよな!?」
「・・・ある・・・んじゃねーかな・・・」
「何でそんな自信なさ気なんだよ!そこはバシッと言えよ!」
あははは・・!
悠宇が無事で、松本も楽しそうに笑っていて。
こんな時間がずっと続いて欲しいと心から願いながら、俺たちは残りの時間を5人で逃げ切ったんだ。
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