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第九十七話 カラオケと俺と悠宇
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タッ、タタタタッ・・・・
俺は今、豊田さんに急かされて教室を出て行った悠宇の後を希と追いながら、ポケットから取り出したスマホを素早くタップしている。
こんな時に、どうしてかって・・?
それは、ある事を検索するために、だ。
豊田さんと悠宇を二人きりにするのは心配だけど、俺にはもう一つ心配な事があった。
それは・・・打ち上げがカラオケだという事だ。
実は、初めて悠宇とカラオケに行った時の失態を俺は未だに引きずっている。
迫さんと出会ったあの日、突然のカラオケに俺は何の用意もしていなくて、ついいつも自分が聞いているあまりメジャーじゃねーバンドの曲を歌ってしまった。
俺が歌い出した時の静寂といったら・・
今思い出してもスゲー気分が落ち込んでしまう・・・
その後皆は必死にフォローしてくれたけど、悠宇の前であんな失態見せちまった事は後悔してもしきれねー・・・
その夜、いつか迎える次のチャンスに備えるべく、俺はカラオケのマナーについて調べた。
ネットで調べたところによると、皆が知っている曲を歌うのがカラオケのルールらしい事が分かって、皆の沈黙の意味を知った俺はさらに激しく後悔する夜を送ったんだ・・・
それから俺は、流行りの曲を必死に覚えた・・・
そして今スマホで検索しているのは、「最新 歌で惚れさせる カラオケ 選曲」のワードだ。
覚えた曲が数曲ランクインしていてほっと胸をなでおろしていると、携帯を握ったままの俺の腕を希がツンツンとつついてきた。
「ねぇねぇ、聡太ぁ?・・打ち上げ、カラオケだってね。僕あんまり行きたく無いんだけど・・・」
「どうしてだ?あんなに盛り上がる技持ってるじゃねーか・・」
「あれは、盛り上がってるんじゃなくて笑われてるの!はぁー・・・聡太はいいよね、歌上手いからさ・・」
「上手くはねーだろ・・それにあんな風にドン引きされちまったし・・・」
「はぁ〜!?相変わらずだねぇ・・まあ、もう慣れたよ・・」
ため息を吐きながら腕を組む希のつむじを見下ろすけれど、その表情までは見えなくて。
「どういう意味だ・・?」
「言っても分からないだろうねぇ、あ・・朝比奈君、もうあんな遠くだよ?携帯なんていじってていいの?」
「無意味にいじってるワケじゃねーぞ・・悠宇を虜にできるような曲を探してて・・あ、本当だ・・しかも二人きりであんな遠くに・・・!ッ走るぞ!」
「え、ちょっ、あれ以上の歌を歌う気なのっ!?あっ・・・!待ってよ!聡太!色んな意味でまってぇぇぇ〜!」
ワリー希、お前を待ってたら追いつけねーから!
心の中で希に謝って、その叫び声を遠くに聞きながら俺は二人を追いかけた。
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「はっ、はぁ・・・悠宇っ・・」
「聡太!あ、鞄ありがとう!」
「真咲君お疲れ様ー!私が急かしちゃったから、ゴメンね!」
「いや、全然・・・」
「カラオケ楽しみだなー!二人の歌声初めて!」
「そう、だね・・・」
「何何?朝比奈君!実は歌が苦手・・とか?可愛いー」
「あ、え・・まあ・・そんなトコかな」
「朝比奈君なら、下手でも大丈夫!音外してても絶対かっこいいから!」
「あは、何それ!褒めすぎだよー」
豊田さんの問いに、少し上の空で答える悠宇。
実はカラオケが嫌いなのか?
でも、あの時の悠宇はスゲー上手で・・・
アップテンポの明るい選曲、綺麗に通る声で高いキーも完璧に歌い上げる姿に俺は見入っちまったんだよな。
そんな悠宇を気にしつつも、カラオケに着いた俺達が部屋に入ると、既に数人のクラスメイトが談笑していた。
「おっ!朝比奈、真咲おつー!」
「吉本君お疲れ様!」
「おつかれ。」
「ね、朝比奈君、隣座るね!」
豊田さんは楽しそうにそう言うと、跳ねるようにポスンと悠宇の隣に座った。
豊田さん・・悠宇との距離が近いんだよな・・・
反対側の悠宇の隣に座りながら、そんな事を思ってしまう自分がいて。
「っ、悠宇、ワリー・・ちょっと外付き合ってくんねーか?」
「ん?うん!じゃあ、豊田さん、ちょっと行ってくるね。」
無性に悠宇を独占したくなって一歩部屋の外に出たけれど、そこは相変わらず賑やかで。
俺は悠宇の手を引いて、すぐ側にあるトイレに入った。
「・・・聡太・・・ちょっと。」
トイレに入ると、後ろから付いてきていた悠宇が急に俺の背中を押してきて・・・
押されるままに個室に入ると、すぐに鍵の閉まる音がした。
「俺、聡太に謝りたい事があるんだ・・・。」
扉を後ろ手に閉めながら、少し俯く悠宇を見つめる。
狭い個室は自然と二人の距離を近くさせる。
雰囲気も何も無い、妙に明るい蛍光灯の下だっていうのに、長い睫毛を伏せて呟く悠宇は吸い込まれそうに綺麗だった。
「何を・・・?」
俺が質問した次の瞬間。
少し下から伸びてきた悠宇の腕が、俺をしっかりと抱きしめたーーーー
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