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第九十八話 心配事 side 朝比奈 悠宇
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誘われるままトイレに向かった俺は、勇気を出して聡太を個室に押し込んだ。
狭い個室、くるりと振り向いた聡太は少し驚いた顔をしていて。
明るいライトの下、こんなに近くに聡太がいる事やその状況を自分が作った事が恥ずかしくて、俺はつい下を向いてしまったけれど・・・
今日の俺はいつもと違うんだ・・・。
「俺、聡太に謝りたい事があるんだ・・・。」
今日あった事や今までの事・・振り返ってみれば、いつも俺が大切な事を何も言わずに抱え込んでしまって、それに気がついた聡太に心配をかけていて。
俺のつまらない羞恥心や心配をかけまいとする気持ちは、結局いつも裏目に出てしまっている。
付き合う前も今までも、いつもその繰り返しで・・・
聡太が告白してくれた時は、俺のハッキリしない態度ですごく傷つけてしまった。
あの時の聡太の顔・・・俺は忘れられなくて。
さっきだって、豊田さんの問いに対する俺の反応を見て、聡太は一瞬心配そうな顔を俺に向けてくれていた。
また、心配させちゃったな。
自分だったらどうかって考えると、どんな事でも話して欲しいと思うに決まってる。
すぐに抱え込んでしまう俺に聡太はいつも気がついてくれて。
その度に救ってもらって・・・
いつも、素直になれない自分が嫌だった。
「何を・・・?」
これからは、全部素直に話す。
そう決めたものの、慣れない事に緊張していた俺に、少し上から降ってきた言葉が、たった一言なのにすごく暖かくて優しい声色で。
それがなんだかたまらなく嬉しくて、無意識に聡太に抱きついていた。
「ふっ・・・悠宇、どうしたんだよ。」
意味不明な俺の行動。
なのに、聡太は少し楽しそうに問いかけてくれて。
俺が抱きしめると、すぐにぎゅっと抱きしめ返してくれて、俺の頭に顎を乗せてグリグリしながらクスクス笑っている。
何これ・・すごく幸せなんだけど・・・
ふっと頭が軽くなったかと思うと、ドアに手をついて、聡太が俺を覗き込んできた。
至近距離、綺麗な切れ長の目を細めて笑う聡太と目が合うと、俺の顔は一気に熱を持った。
「本当、かわいいな・・・悠宇、何か言いてー事があるのか?」
そう言うと、壁に腕をついてグッと近寄られて・・・俺達の距離は益々近づいた。
ち、近い!!近い!!
あっ・・・そうだった・・・
聡太の雰囲気があまりにも甘くて、つい当初の目的を忘れるところだった・・・
何か、今なら何でも言えそうだ・・・
「今日、あんな事になって、聡太に助けてもらった事とか・・」
「とか・・?」
そう言う聡太の顔が、また少し近づいてくる。
もう俺の頬に唇が触れそうなんだけど・・
必死に話すけれど、違う緊張でうまく話せなくなる・・・
「えっと、ちゃんと自分の気持ちを言わなくて、聡太に心配かけてるとこ・・俺、反省・・してる・・。」
「ふっ・・そんなの・・・当たり前だろ?今日のは悠宇のせいじゃねーし・・・それに、悠宇の恥ずかしがりなトコ、俺好きだから。気にすんなよ。」
そう言うと、聡太の片手が俺の髪に触れて、さらりと撫でた。
「・・・待って聡太・・・ちょっとだけ、離れて・・・」
「・・・・何でだよ・・・」
「恥ずかしくて、ちゃんと言えないから・・」
「・・・ほら。」
おれの頬にスクリと笑う聡太の吐息がかかる。
それだけで、ゾクリとして。
少し距離を取ってくれたけれど、扉に片手は付いたままで・・・。
さっきから、これっていわゆる壁ドン・・だよね?
壁ドンって、思ったより近いしドキドキするな・・・。
「聡太、さっき変な顔してたでしょ?」
「えっ!?俺変な顔してたか!?」
ニコニコしていた聡太の顔が一気に驚いた顔になる。
目を大きく開いて焦る姿が妙に可愛くて。
聡太のカッコよかったりかわいかったり・・そんなところが大好きで、胸がポカポカ暖かくなる。
「ふふ、ごめん、ごめん。そういう意味じゃないから。俺が豊田さんとカラオケの話ししてる時だよ・・」
「あ、ああ・・・なんか元気ねーように見えたから・・」
「俺、こういう事恥ずかしくて言えなくて・・そのくせ顔に出ちゃうから聡太にいつも心配かけちゃってさ・・」
今から言おうとしている事は、かなり女々しい事な気がする。
でも、理由も言わずにウジウジしていると、また聡太に心配をかけてしまうから。
これ以上心配かけたくないし、聡太なら、そんな俺をきっと受け止めてくれるから・・
「聡太、前にカラオケ一緒に行ったでしょ?その時の聡太・・歌がすごく上手で、カッコよかったから・・今日女の子達にそんな聡太を見られちゃうのが嫌で、あんな態度とっちゃったんだよ・・」
一気に言い切って、聡太の目をじっと見つめる。
また、少し驚いた顔。
目をまあるく開いて、一文字の薄い唇が少し開いている。
「え・・・悠宇そんな事思ってくれてたのかよ・・・」
「あは、女々しくてごめん・・自分でも知らなかったんだけど、俺ってかなり嫉妬深いみたいで・・でも、これからは素直に言うから。だから、聡太ーーーー」
こんな俺を嫌いにならないでーーー
そう続けようとした言葉は、文字通り聡太に飲み込まれてしまった。
チュッ・・
一瞬触れるだけのキスをして、聡太は俺を強く抱きしめてくれた。
「悠宇、俺、スゲー嬉しいから。何度も言うけど、そういうの本当に気にすんな。嫌われるなんて思わずに、何でも言ってくれよ・・・」
「聡太・・・」
「大丈夫、今日の事ならまかせとけ!悠宇が心配するような事はねーと思うけど、カラオケのタブーを使って乗り切ってみせるから!」
「え・・?」
そう言うと、聡太はグッと親指を立てて得意そうな顔をして・・
カラオケのタブー・・・聡太は自分の魅力に気がついていないし、妙に天然なところがあって。
さっきの反応・・・何か・・嫌な予感しかしないんだけど・・・
一抹の不安を胸に抱えて、俺達は皆の待つ部屋へと向かった。
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