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その夜
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あの後なんとか持ち直して、結局合コンは最後まで出た。
俺より先に戻ってた篠はいつもの篠で、へらへらしてて愛想がいいただのとなりの後輩は合コンに徹することにしたらしく、
あれから俺に話し掛けてくることはおろか近寄ることもしなかった。
もちろん帰るときも別々だ。
わけわかんね、あいつ。
家に帰り着いて2時間くらい経った頃、来訪を告げるチャイムが鳴った。
誰だろ?
出迎えた母さんの高い声が聞こえてきたから、母さんの知り合い?
まいーや。
明日の予習も済んだし、まだ7時とかだけど風呂入って寝よっかなあ。
「夏目先輩」
「ぅわああああ!!?」
けたたましい音を立てて俺は盛大に吹っ飛んだ。
「なっ、なっ、なんで篠が!?」
「あ、勉強中だった?」
「いやそれはもう済んだけど!」
やばいまだ心臓どっくどくいってる。
俺が転がした勉強机の椅子を起こして座る間も「夏目先輩字キレイですよねー」、なんてのん気な篠は俺の教材を漁るのに忙しいらしく、
「このシャーペン欲しい」とか物色しててほったらかしだ。
「つかなに、いつ来たわけ?」
「たったさっき」
「足音消して入ってくんなよ忍者かよ、もう。
あとそのシャーペンは合格祝いに美香からもらったヤツだから触んな」
「ケチ」
「おっ…お前ね、」
「はいはい、先輩のモノには触りませんよ」
なんだこいつ、昼間の時とは人が変わったみたいに別人だ。
二重人格か? んなわけないか。
「言っとくけど不法侵入じゃないからね、ピンポン鳴らしたらおばさんが入れてくれたし」
「ピンポン? じゃさっきのあれお前なの?」
「そーだよ」
篠は遠慮なくドサ、と俺のベッドに座った。
そのままコテンと横に倒れる。
壊れたおもちゃみたいだ。
「で?」
「で、って?」
「何しに来たんだよ」
そういえば篠が俺の部屋に入ったのは、小学生以来かもしれない。
ただ暇つぶしに来たって感じでもなさそうだから、とっとと用を済ませて帰らせよ。
黙って篠の返事を待ってたら、俺の枕でもふもふやりだしたのでカチンと来て「おい」、とつい咎めるような声が出た。
「なんか用があったんだろ?」
「…まあ」
「なんだよ?
辞書が無いとかなら貸すけど???」
キシ、とベッドのスプリングが鳴ったのと、俺が振り向いたのは同時だった。
机の端に寄りかかる篠は、いつもよりは距離が遠いのにずっと近いような錯覚がして、
肩に手を置かれるまでいきなり過ぎて頭がついて来なかった。
「先輩」
なんだよ、なんでそんな感じの…声なわけ?
「今日助けてあげたでしょ?
そのお礼がまだだったなって…思って」
吐息が頬にかかって、思わず目をつぶった。
悪寒に近い感覚が背筋を通る。
いやだ。まただ。
また俺の知らない、篠だ。
おっかなびっくり「さんきゅな、」と『お礼』を伝えると、肩の手が力強さを増した。
「ちょっ…なんだよ」
「言葉じゃないモノが良いんですけど」
「んなこと言われたって…俺に何かして欲しいことでもあんの?」
「そう」
返事は即答だった。
「先輩、俺にキスして」
「は? いや…何言って」
危うく目の前を星が飛ぶかと思った。
いきなり部屋に押し掛けてキスって、突拍子無さすぎにもほどがある。
にもかかわらず、篠はさっきとは比べ物にならないくらいの力で俺の肩を抱いた。
って、
「おい!?」
「キスしてくんないと部屋から出ない」
「はあ!? ふざけんな脅すなよバカ、」
「じゃあキス」
「だから嫌だって」
「キス!」
最後のひと声は結構大きな声だった。
篠にしては、珍しいくらいの大声だ。
また、俺の、知らない篠だ。
くそ!
「なんだよもう…よくわかんねーけど…キスすればお前は帰るんだな?」
「3秒で帰る」
「忍者だな」
「すぐ帰るから」
「……わかった。
とりあえずじゃあこっち向けよ。このままじゃお前の肩にキスするしかない」
ああ、とゆっくり姿勢を戻され、篠を机に腰掛けさせると、立ち上がった俺の目線は当たり前だけど篠のそれより高かった。
猫っ毛な髪、有って無いような校則ギリギリの襟足長め。
眉は凛々しくて、俺を見上げる目は力強い。
ちょっと垂れ目だけど。
俺の顔、どう映ってんだろ?
リップ音もしない静かなキスをその唇に落とすと、時間が止まったような気がした。
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