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やぶ蛇にご用心
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「???以上で第一回球技大会実行委員会は終わります。申し訳ないけど、書記に決まった理数科のふたりは議事録まとめて帰ってね」
「はい」
「…はい」
「よろしくー」
テキパキとそう言い残した実行委員長の先輩や、無事居残りにはならなかったラッキーな生徒たちが騒がしくしながら帰った後で、
張り詰めた様な空気が漂う。
唯一の音といえば、紙にペンを走らせるカリカリという音だけだ。
「先輩、委員の名前と役職の書き取りあとどれくらいかかりそう?」
「…あと…三分の一だな。今日の議題のまとめは?」
「もう終わる」
「そ」
静まり返った室内に、またカリカリの音だけが残る。
俺はクジ運も悪かったらしく、放送とか得点とか救護とか…ひとつの係りにつき二人の委員が担当するんだけど、それの書記係りを引いてしまった。
何が悪いって、篠も書記だったのだ。
篠に会いたくないからこんな面倒なことに立候補したのに、
その元凶とふたりっきりになる環境を作っちゃうってこれなんて地獄?
ひとつ席を開けて座ってるこいつもこいつで何も言わないし、ていうか普通だし、俺だけ緊張して居た堪れない気分になったりして…不公平だ、と思わずにはいられない。
紙のこすれる音に反応して視線だけ向けると、ちょうど書き終わったところらしかった。
「…終わり?」
「あ…うん」
「お疲れ。俺ももう終わりそうだから、それそこ置いといて。
まとめて先生に渡しとく」
「……」
1年の普通科の委員の名前を一通り書き終えたので顔を上げると、
無言の篠は椅子から立ち上がりもせずただそこに居た。
横顔だし髪下ろしてるからカオわかんね。
俺が篠の表情を読み取れたことなんて、数えるほどしかないけど……。
「一緒に…帰りたい」
小さな声だったから、情報が脳に伝わるまで時間がかかった。
瞬きを数回して、言われたことを反芻する。
「一緒にって…篠?」
「もし先輩がっ、嫌じゃなかったらだけど」
「嫌って急に…」
どうしたんだよ、とは、後に続かなかった。
少しだけこっちを向いた篠が、なんだか笑っちゃうくらい顔が赤くて目が泳いでて、
緊張してるのが…俺でさえわかっちゃったから。
おまけに手のひらはしっかりグーで握ってるし。
「お前緊張してんの?」
「!! なっ」
「うーわ、顔真っ赤」
「だっ…せん、そっそれはぁ!」
ちょっと面白い。
聞いてもないのに「先輩とふたりきりだしもしかしたら一緒に帰れるかもって思ったら、そりゃ多少は緊張もするというか」とか勝手に話し出すし勝手に狼狽えてる姿は新鮮で、
やっぱりなんか面白い。
堪えきれなくてニヤつくと、篠は目ざとくそれを見つけた。
「笑わないでよ」
「わっ…笑ってねーよ」
「笑ってる! それが! すでに!」
「ははは、ごめんごめん」
「ひっどいなあ。俺ホントのホントに緊張してどうにかなりそうだったのに。
ただでさえ先輩に避けられたかもって、今朝だって…」
「? なんだよ」
「今朝だって、」と言いながら、篠はゆっくりと立ち上がって席をひとつ詰めた。
パイプイス同士がぶつかり合う金属音が耳に痛い。
昨日の篠の様子がすぐにフラッシュバックしたけど、なぜか俺は動けなかった。
「先輩に会ったら謝ろうと思ってたのに、先に学校行っちゃうしシカ電するし」
緩慢な動作でするすると俺の首に腕を回す仕草は、なんだか大きな蛇みたいだ。
「だから先輩が悪いんですよ」
もう一度鳴った金属音のせいで、思考回路が真っ白なまま「ごめん、」と呟いた口は、
突然何かで覆われた。
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