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涙の理由
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「んっ…、ふぅ…ッし…のっ?」
くちゅくちゅという耳障りな音が、会議室に反響する。
「夏目先輩…口もっと開けて」
落ち着いたトーンの篠の声になんかゾクゾクするものがあって、とても目なんか開けてられない。
「はふ、ぁ…! やっ…ちょっ、」
「やば、どうしよ」
「なん…んんっ…も、篠!」
「気持ち良くて止まんない」
それが篠の舌だってやっと気づいたのは、べっろべろに口の中をベロで(シャレじゃなくて)舐め回された後だった。
キスされて身体が敏感になったのか、
「んっ」
「…かわいい」
口の端から溢れた唾液を舐め取られただけで肩が跳ねて忌まわしい。
必要以上に近い篠の顔が至近距離過ぎて、荒い息もそのまま、どこに焦点を合わせれば良いかわからなかった。
唇? 論外。
「つか…男相手に、ベロチューとかするなよお前…」
はあはあと浅い呼吸が収まらない。
篠は全然、上がってないのに。
「欲望に負けちゃって」
「ふ、ふざけんな」
「先輩が俺のことあんまりからかうから…つい魔が差したというか」
魔が差すって、ソレ男が男に使うような言葉じゃないっつの。
ぐい、と手の甲でスースーする唇を拭って篠の胸板を押すと、想像してたより簡単に密着してた身体が離れた。
いやいや、そんなことより口内の唾液に篠のが混じって味がヘン…。
「先輩の口のナカって甘いんですね」
ニコニコいい笑顔でそんなこと言われたって、ああそうですかとしか言えねーよ。あと同じ様なこと考えんな。
混乱してきた自分を落ち着かせるため、中断してた(むしろせざるを得なかった)作業を再開した。
「俺お前が何考えてるのかさっぱりわかんないんだけど…」
「先輩のことしか考えてないけど?」
「イヤだからそれが、」
「?」
「もういい」
こいつのペースに巻き込まれたまま、『お前こそ俺をからかってんだろ』なんて議論をする気にはなれなかった。
ていうかこんなことされて一緒に帰れるワケがない。
………無理無理無理無理。
「先輩? 俺教室行って荷物取って来ます」
「ああ」
いっそのこと俺も彼女を作った方が良いんじゃ…って、あれ、アイツ今なんつった!?
「違っ…」
鞭打ちになるくらい素早く頭を起こすと、篠はすでに居なかった。
俺しか居ない。会議室を出た後、だった。
なんだろう、このモワッとした虚脱感は。
うだうだ悩んであいつが戻って来るのは避けたかったので、残りの3クラスはほぼ殴り書きで片付けた。
篠が置いてった議事録のノートに合わせて糊で貼って出来上がり。
最後の三文だけ俺しか読めない字になってるけどまあいいか。
ここで委員会がある度に篠とのベロチューを思い出したら嫌だな、なんて考えながら、俺も会議室を出た。
篠に連絡は…しなくていいか。
番号登録してないし、今携帯持ってないし、どうせ昇降口か校門で待っていそうだし。
ほぼ空になった職員室の担当教諭の机にノートを置いて、急ぐでもなく来た道を引き返して自分のクラスに向かった。
鞄に今日使った教科書とか放り込んで……ってそういや携帯、電源切ったままだっけ。
カチ、と電源を入れしばらく待つと、ブーブーブーブー激しくバイブが鳴って10件の着信と数件のメール、一件のショートメールの受信を告げた。
着信は…朝の分か。美香と、知らない同じ番号が続いてる。篠だな。
メールは(なんでか超キレてた)桐島と、水無月と知らないアドレス…ああアド変か。
最後はショートメールだ。
ショートメールなんか珍しいな、って開くと、
『お疲れさま。好きなドラマの録画忘れちゃったから先帰ります。気を付けて帰ってね』
記号も絵文字も無い簡素な文。
何これ、え? 篠…から?
なんなのあいつっ…ドラマのために、先に…先に帰りやがったわけ!?
こいつのこういうところが……!
てか、気を付けて帰れって言うなら、
お 前 が 送 れ よ!
携帯を持った手がズルズルと下がる。
脱力して、机についた両手に思わず力が入った。
あーーもう意味わからん理解不能理解不能。
目頭がなんだか熱くなるのには気づかないフリ。
だから篠に関わるのは嫌なんだ。
あいつのことを分かりたいって思う自分がいることに、気づいちゃうから。
無性に悔しくなったので、メールの返事はしないでおくことにした。
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