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墓穴の埋め方
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ちょっと揺れるけど我慢してね、って言われるままに口を押さえた。
「よいしょ」なんて言って、しゃがんだ俺を簡単に横抱きして運んでくれちゃって、
どこまでこいつはいいヤツだったら気が済むんだろう。
俺はと言えば、みっともなくて情けなくて泣きそうだ。バカ。
「水…買って来た。飲める?」
冷んやりしたベンチに寝かされた状態で無言で頷いて、ボトルを受け取るために手を伸ばすと遮ってやんわり握られた。
あれ…水、くれんじゃねーの?
まあいいか。
俺のよりひと回りくらい大きい篠の手はなんだか安心する。
と、その手がそっと離されてバキッというボトルのキャップを捻る音と一緒に、篠のため息が聞こえた。
「先輩…もしかして最近体調悪かったんじゃないの?」
体調。
体調…そうかも。
「中間終わったばっか…だし」
「黙って」
聞いてきたのは篠じゃんか、なんて言い返そうとしたら、側に膝立ちしてた篠がボトルを煽って、
…え、
てかそれ俺のじゃ、
「ん…っ」
優しいキス。
いや、何これ、水…?
だいぶ苦しかったけど、コクン、と喉を鳴らすとようやく唇が離れた。
合わない焦点で見る篠の口元は外灯で光ってて、なんだか艶かしいなんて思う。
俺の頭のネジ取れたのかな、とも。
「まだ飲める?」
「えっ? ぁ…っん」
まだ飲むなんて、言ってないのに。
ベンチの背もたれに片腕をついて俺に覆い被さる篠は別人みたいだった。
過呼吸気味の息がやっと収まってきたところだったのに、
ペットボトルの半分が空になるまでそのキスは続いた。
誤解されないために弁解しとくけど、俺は貧血持ちだったりする。
寝不足が続いたり朝食を摂らなかったりすると、フラフラっていうか…すっごい気持ち悪くなる。
そんな調子で耐久競歩みたいなことをしたからか、案の定こんなだっさい先輩の出来上がり……なわけです。
え? 体育とかどうするのかって?
見学するよ(ドヤ)。
クラスの女子より出席率悪いよ(ドヤ)。
…全然ドヤ顔するような話じゃねーけどさ。
ムカつきが無くなってきたから篠の腕を借りて起き上がった。
今さら年上の威厳もクソもないけど、とりあえず…吐く、なんて醜態は晒さずにすんで良かった。マジで。
「先輩? まだ気持ち悪い?」
「いや…平気」
「肩に寄り掛かっていいよ?」
「大丈夫だって」
「寄り掛かって」
「…篠ってこんなに押すタイプだっ「つべこべ言わない」
問答無用の強さで右腕を引かれ、
とっさの出来事で受け身を取り損ねた頭がぼすっと篠の肩に不時着した。
いや、正しく言うと、頬骨が嫌ってくらい篠の肩に激突して俺超涙目。
篠はもちろん気づいてないけど。
それは置いとくにしても…、
これって変な光景だよなあ。
男子高校生が夜の…何時? 7時くらい?
にさ、お姫様だっこで公園のベンチに寝かされて、キスされて、肩を並べて寄り添ってる姿ってなかなかの珍百景だと思う。
しかも無言で。
公園の周りに人影は見当たらず、風もなくて静かそのもの。
ワイシャツ越しに伝わる篠の体温は心地良くて、目を閉じるとその心音だって聞こえそうな気がした。
「篠」
そういえば、俺の吐き気が頂点になる前になんか言いかけてなかったっけ。
こっちを向いた篠を下から眺めながら尋ねると、珍しく「えっと…」なんて口ごもった。
あれ? 心なしか目も泳いでる?
今に至るまでよっぽど恥ずかしいことしてんのに、このタイミングでその顔すんの?
瞬間、『からかう』って選択肢が浮かんだけど、へばった俺の世話を焼いてくれた恩を仇で返すようなマネはしたくないからすぐに流した。
何を躊躇ってんのか知らないけど、言いにくいなら手伝ってあげますか。
「俺…篠の話聞いてたよ」
「えっ、」
「何驚いてんの。
お前が言ったんでしょ? 『歩いたまま聞いて』って」
「それは…そうだけど」
篠は相変わらず俺を見ない。
こういうとこは強情だ。誰に似たんだか。
「で、球技大会の話だっけ」
「…うん」
「クラスでバスケに出るんだろ?」
「えーと…まあ。うん」
「試合に観に来て欲しくてそれで?
俺が応援して勝ったらなんだって?」
「勝ったら、」
「勝ったら?」
掴まれたまんまだった右手を痛いくらい握られて、篠の緊張がぴりぴりと伝染した。
俺相手に何をそんなカッチコチになる必要があるんだろ?
全然大丈夫なのに。
力が入んない右手で握り返すと、ハッと我に返ったのかやっと篠が俺を見た。
「それで?」
「あ…それで、勝ったら…
先輩の私物が何か欲しいんですけど…!」
時間が止まった。確実に。
「私…物…?」
「そう」
「ペンとか…鞄とか…?」
「鞄……!」
「えっ何お前ほんとにそんなんが欲しいの?
昼奢るとかそういうのじゃなくて?」
「え、まあ」
「『まあ』って、『まあ』ってお前…」
どうしよう、幼馴染が気持ち悪い件。
理由を聞けば、本人(俺)に避けられて会えなくっても物があれば寂しくないと思うからとかなんとからしい。
「お前せっかく顔はイイのに…なんでそんな残念なの」
「先輩に顔を褒められても喜べないな」
「意味不明だし真顔で返すな」
吐き気は治まったはずなのに今度は頭痛がしてきた。
落とした視線をもっかい上げて篠を見ると、至極真面目に見つめられて、
あ、ホントにこいつマジなんだ。って理解する。
はあ。
「……今回だけだからな」
「えっ!」
「今日は感謝してるし。その…篠に、迷惑かけたこと」
「迷惑だとか思ってないけど」
「じゃあこの話はなかったことに「思ってます! すごく迷惑でした死ぬほど!」
「えっ……死ぬほど…うわ、ほんとごめん……」
「あ、いやっ…違くて! 言葉のアヤで!」
「わかってるよ」
「先輩ひどくね!?」
「今回だけ、な」
篠の手を解いて腰を上げた。
やっぱり…なんて思うんだけど、篠を見上げるより見下ろす方が好きだ。
「俺も球技大会はバスケに出るから、篠のクラスにかち合う前に負けたら応援行ってやる」
「…え、待って先輩。先輩って確か、」
「試合でぶつかったらどーすっかなあ。
お前が勝ったら、にしとく? 宣言通り」
「確か中学の時バスケ部のエースじゃなかったっけ…!」
「それもう二年も前の話だろ?
大丈夫大丈夫、1ゲーム10分のミニゲームだし」
「つまり体力の配分を気にせずガンガンやるっていう、」
「だから言ったじゃん、二年前の話だって。中学バスケと高校バスケは全然違うし、俺背も低いし」
「1 on 1で先輩に勝てたこと俺一回も無いんだけど」
「鞄だっけ? お前が欲しいの。
なんならお互いのを交換する?」
「しっ」
「し?」
「したい…」
がっくりと項垂れる篠が可笑しくてつい吹き出した。
「勝ったらな」、と念を押すと、「先輩がオッケーするから珍しいとは思ったんだよ…」…篠にも思うところはあったらしい。
今からバスケの練習をする!って聞かない篠を無理矢理引っ張って、その日は並んで一緒に帰った。
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