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23時45分
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「ウワアアアああああ!!」
べしゃっ
「ぅげほっ……ッアアアアアアア!!!」
「ばあー」
「ぎゃーーーーーーーーっ」
5人にひとりはビビりな奴が居るのか、夜の11時を過ぎた校舎の中は阿鼻叫喚で溢れてた。
『ユズ、そっちふたり行ったよー』
「はいはい」
電話を切ると、早速荒い呼吸と足音が聞こえてきた。
どっかで上履きを落としたらしく二人分のそれは『バタバタ』っていうより『ペタペタ』してて……裸足で逃げ回ってんだな。
ここだ、ってタイミングで隠れてた教室のドアを勢い良く開けて脅かすと、
「「おおおおお!!?」」
絶叫。
ヒーヒー言ってまた走り出した。
歩いてればそんなに怖くないんだろうけど、多分途中で柏木とかが追いかけたりして走らせたせいで怖さと驚きが倍増してるっぽい。
桐島より柏木の方がタチ悪いな、なんて思いながら水無月に『ふたり通過』の電話を入れて携帯を切った。
食堂で柏木に詰め寄られたあの時、
俺はとっさに「パイ投げつければ!?」って半信半疑で切り出した。
「パイぃ?」
「パイ投げ!」
「……」
わあああメッチャ不満そう、えーとえーと、
「外じゃなくてさ、中で…校舎使って脅かすとか!」
「ふっつう…」
「そんなことないって!
考えてみろよ、暗い学校で四方八方からこう…パイとか、飛んできたら怖いだろ!?」
「暗い…学校で?」
「教室の横を通り過ぎる度にパイが飛んでくんの」
「まあ………確かに怖いかも…」
「少しは学校からも費用出してもらえるらしいし、自費でカンパして大量にパイ買ってさ、」
「いや、」
何かの悟りを開いた柏木の目は、
真っ直ぐ前を見つめて????輝いていた。
「水風船にしよう」
……というわけで、合宿一日目の今に至る。
確かにパイよりコストもかかんないし掃除も楽だし、先生もオッケーしちゃうし柏木は割りとノリノリだし、で、こんなことにね。
なったっていうね。
去年どんだけ怖い思いをしたのか、ビビらせ隊隊長の柏木を筆頭に隣のクラスの奴ら(理数科は一学年二クラスに分かれてる)の協力もあって、
脅かす側の格好は去年の比じゃない位おどろおどろしい…らしい。
更衣室を覗いたら、ミイラ男とかゾンビとかなまはげとか(あれ? なんか違うの混じってる、)確かにちょっとしたハロウィンの仮装行列みたいではあった。悪ノリし過ぎだ。
…怖くて本人たちにはそんな事もちろん言えないけど。
ちなみに今俺が居るのは、三階にある視聴覚室。
でっかいスクリーンが黒板の代わりにバーンってあって、その前に10?15列くらいの長机がずらーって並んでる部屋。なんだこの頭悪そうな説明。
ここも一応肝試しのルートではあるんだけど、わざわざ三階まで上がってくる生徒は少なくってちょっと暇だったりする。
始まってからもう一時間は経つよなあ。
あと何人残ってんだろ?
どーせ来たって一人とか二人だろうし、もう放棄して勝手に体育館(本日の寝床)に戻ってよっかなあ……。
そうしよ。眠いし。
水風船をぶつける係りでもなかったので手ブラで携帯を触りながら廊下を歩いてると、
突き当たりまで来た時に誰かの走って来る音が????
あ、と思った瞬間ぶつかって、
その反動で倒れこんだら向こうも何かに足を取られて滑ってもつれて、最終的によくわかんない体勢で俺は頭を強か打った。
「いっ……てェ…」
背中が冷たいのと硬いから、多分俺が下だっていうのはわかる。
チカチカしたりガンガンする頭を堪えてうっすら目を開けた。
「先…輩…?」
「篠?」
声を聞いて、胸が踊り狂った。
意識してみれば篠の髪が俺の頬に張り付くくらいの場所にあって、お互いちょっとでも動けば唇が触れそうな距離にいる。
ていうか、なんでここに篠が………っじゃなくて!
自分の状況をまるまる無視してとにかく篠から離れようともがくと、こめかみに鋭い激痛が走った。
「いっ…」
ってえええ…!
「え? 痛いの? あっ、待って待って起きないで、俺先輩の髪の毛敷いてるっぽい」
「わ、バカ動くな」
「そんなこと言ったって俺どかないと、」
「いいからちょっとじっとしてろって」
「嫌だよ先輩が痛いの見てらんないしっ!?」
無理矢理動いたせいで俺の下敷きになってたこいつの腕の軸がズレて、
最悪なことに体重をかけてたのかバランスを崩した篠はそのまま俺にのしかかった。
だから言ったのに…!
体への強い圧迫感がちょっと苦しい。
だけど篠だから嬉しい、なんて思ってる俺は結構重症だと思う。
「ご…ごめん先輩」
「いいよ。どっちにしろ…こうなってただろ」
「今起きるから」
申し訳なさそうな篠を気遣って起き上がるのを助けてやると、濡れた服が気になった。
よく見れば、髪から伝った水滴がシャツに新たな染みをつくるくらい、頭の先からびしょ濡れだ。
これって俺のせいでもあるんだよな…。
何か言わなきゃってとりあえず口を開けたけど、なんて言ったらいいか迷って言葉に詰まった。
光が届かない暗がりだと、濡れてるせいもあって…知ってるはずなのに知らないひとみたいだったから。
「なんでそんな…ずぶ濡れ?」
理由は知ってるんだけど。
でも他に、聞きたいことが思いつかない。
「なんでだと思う?」
「水風船?」
「…当たり」
大して面白いことを言ったわけでもないのに、篠は可笑しそうにふふ、と笑った。
お互い座った姿勢のままなのが笑えんのかな、なんて思ってたら手が伸びてきて、
「えっ、おい篠?」
「いいから」
腰に回されて体が密着した。
肩に顎を置かれてるからくすぐったいし、なんか生きた心地しねーんだけどっ…!
「しっ、篠ってば、」
「先輩すっごい心臓どくどくいってる」
「っ…ぅ、るさい」
「冗談だよ。うるさいのは俺の心臓」
「えっ?」
「夏目先輩あったかいなー…」
こんなに濡れるまで風船ぶつけられるって、どんな道を通ったんだろ。
ギュウギュウ抱きしめてくる篠に負けて俺からもハグをし返すと、その体温の低さにびっくりして体がすくんだ。
「お前寒くないの? すっげ冷たいけど」
「先輩があったかいから寒くない」
「そういうこと言ってるんじゃなくて…」
「先輩こそ…コブ痛くないの?
超腫れてるけど」
「え? いっ……(ったすぎて死ぬ)!」
数秒痛みに耐えた後、自分でもコブを触ってみてやっぱりもっかい固まった。
「…ねえ、提案があるんだけど」
「それ乗った」
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