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止まった。と、思ったのに。
「先、輩。今、」
「は? 何」
「名前……っ」
篠の掠れた声を耳に入れるや否や真横に押し倒され、衝撃に目を閉じたらゴロンと仰向けに寝かされた。
腹に回ってた手は俺の肩をベッドに縫い付ける役目に変わっている。
どうすることもできずにただ何回か瞬きすると、篠は今まで見た中で一番満足そうな顔で笑った。
「俺の名前…久しぶりに呼んでくれた」
「な、名前?」
「今『千明』って呼んだでしょ?」
篠の足がベッドに上がって、スプリングが不可抗力で揺れる。
「呼ん…だっけ」
「もっかい呼んで」
「やだよ」
「いいじゃん」
「やだやだ。っていうかお前近いって…」
肩への圧力で胸が苦しい。
逆光で、顔がろくにわかんないのに、
俺に馬乗りになって…自分の唇なんか舐めんなよ。
吐息混じりに名前を呼ばれたら体が跳ねた。
つ、と服の下から肌を触られておっかなびっくり抵抗してみるけど、やばい力が全然入んね。
手はどんどん上に上がってきた。
「先輩、指先もあっためてよ」
「は? ぅん…っ!」
「舐めてくれるだけでいいんで」
「ひのっ!?」
「『千明』って、呼んで欲しーな」
ぐり、と突っ込まれた親指が舌の動きの邪魔をする。
喋るとか指を噛みそうでできねえし、舌で侵入を拒もうとしても効果が無い。
なんなの、どこでこんなん覚えてくんの!?
教えた奴に膝詰め説教してえマジで!!
「かわいい人だなぁ」
「ふぅっ…む、んん…っ」
「ほんと、いっつも言ってるんで耳にタコかもしんないけど…俺先輩のこと大好きなんすよ」
「ひゃあっ…らっ」
「体温上がってきた? 顔赤いけど」
明日の天気の話をしてるみたいな口調だ。
「次人差し指ね」って親指を抜かれて、意図せずリップ音に似た音が出た。
いつかのキスを嫌でも思い出してますます顔が火照って…とてもじゃないけどあと9本もこんな事できる自信ない。
「先輩、口開けてよ」
無理無理無理無理。
「先輩、」
むーっりーっ!
「ケチ。もーいい」
するりと篠の手が離れて胸を撫で下ろした束の間、
「脱がす」
って物騒な呟きと一緒に、何かで視界が遮られてごたごたしてたら身ぐるみホントに剥がされた。
がばっと抱き締められて動けないし篠冷たいし、俺はもうどうしたらいいんだ。
肌と肌が触れ合う感触と心臓の音と体温はまさに今起こってる現実のコトで…自分が当事者のはずなのに、
心は他人事気分で『さあ柚木選手困りました、これはがっちりホールドされてますねぇ』なんて実況状態。ああこれが現実逃避ってやつ?
『まず篠を引っぺがすことから始めますか?』って天使みたいな俺が言う。
『でも寒そうだしハグされて内心めちゃめちゃ嬉しいしこのままでもいいんじゃないですか?』って小悪魔っぽい篠が(あれ!? 俺じゃなくて篠が!?)言う。
『ぅわ脳内会議にまで好きなやつ出てきちゃったよどうする?』
『もうここは俺(篠)に丸投げすれば?』
『何されるかわかんねえよ』
『何されても別にいいじゃん、好きだし』
『どの辺が?』
『やっぱ性格と』
って脱線ーーーー!!
現状の打開にならねええええ!
現実逃避が現実逃避してもうどーしようもない。
自分の考えをアテにしたのが間違いだったな。もうどうにでもなれ、だ。はあ。
とりあえず…のつもりで、無言の篠の肩を叩いた。
「なに。俺今充電中なんですけど」
「充電って…」またそれか。「そこの毛布取って。篠原くん」
「…寝ちゃうんですか」
「寝ませんか」
「まだ、寒いんですけど」
「じゃあ朝まで…こうしてていいから」
「えっ」
「だからソレ取って」
言いながら篠の頭をそっと撫でてみると、ちっちゃい子をあやしてる気分になった。
片腕を俺に巻きつけたまま毛布を被る篠はかわいいと…思わなくもない。
かなりおざなりに掛けられた毛布をちゃんと直してやってる最中、再びぎゅーって骨が痛くなるくらいのハグをされたから、
自分でもそんなに意識しないでたしなめる様に額にチュ、とキスを落とした。
鳩が豆鉄砲食らった顔をまさに体現した篠を見て、ほんと俺何やってんだろって自分に呆然。末期か。
「なんか…嬉しいことが一気に…あれっこれ夢?」
「よく気づいたな実は夢って痛い痛い痛い痛い腕痛い」
「あ……夢じゃねーんだ」
「せめて自分の腕で試せよ…!」
「うわー…先輩にデコチューされたんだぁ…」
「聞けよ」
「あ、じゃあもっかい名前呼んでくれません? もっかい」
「何がどうなって『じゃあ』になったんだよ」
「夢じゃないついでに、じゃあ」
「…寝ませんか」
「先輩お願い! 一回だけでいいから!」
超今さらなんだけど、本当に変なシチュエーションだ。
上半身裸の篠に上半身裸で抱きつかれて同じベッドで毛布に包まって「お願い!」なんて言われてるのは。
しかも真夜中の学校の保健室で。
あんまりしつこく食い下がってくるから仕方なく折れて、なんだか投げやりな気分でもっかいデコチューしてやった。
惚れた弱みってやつだなー。
「せ…先輩、」
「おやすみ千明」
「!!」
コブの痛みも忘れてぼふっと枕に顔を押し付ける。
なっ…、
なんだコレなんだコレ死ぬほどこっぱずかしいんだけど。
誰かの名前呼ぶのってこんな恥ずかしかったっけ、うわああああもうしばらく篠の顔マトモに見られねえ!!
「せ、先輩! ちょっ…もっかい! もっかい呼んで!」
「お前さっき一回って言ったじゃんか!!」
「無理! もっかい!」
「俺のが無理だバカもう二度と言わねーよバカ!」
「バカでいいからもっかい!」
知らず知らずのうちに大声になった押し問答は午前2時くらいまで続いて、結局寝たのは3時を過ぎた頃だった。
ちなみに。
俺は自慢じゃないけど朝は物凄い低血圧だ。
どのくらいかっていうと…中学の修学旅行で同室だったクラスメイトに起こしたけど起きなさすぎて置いてけぼりにされたくらい。
どういうことなのかは記憶無いから俺もわかんねーよ? わかんねえけど、とにかく起きない、らしい。
***
「……寒…」
「……」
「(どこ…あ、学校かぁ…。合宿だっけ……)」
「……」
「(あれ…? なんか…半分あったかい…)…ぁ、先輩…?」
「ん……」
「っ、(ビビったあ、ちっか!)」
「……」
「まつ毛なっがいなー…(陽子ちゃんより長いなー…………)」
「ん…?」
「(あ、起きちゃった)」
「………? どこ…」
「保健室だよ」
「………」
「(寝ぼけてる? かわいーなぁ)」
「千明…?」
「えっ、(!!!)」
「なんでお前の顔って…目が…?」
「えっ…?」
「……」
「(寝た!?)
ちょっ、何なんの夢見てたの今? 俺の目が何?」
「ん…」
「先輩?」
「……んん…?」
「朝だよ?」
「鐘が…鳴らない…」
「(新鮮だなー)あと40分くらいで起床時間」
「鬼……が…?」
「(鬼?)ううん、今6時過ぎ」
「……」
「(寝た…!)
先輩? まだ寝る?」
「寝ない…」
「(起きた、)じゃあとりあえず服着ないと???」
「……」
「(寝た….!!)」
極論:目と鼻を塞いだら起きた。
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