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翌朝
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なんて、先輩に激しく蹴落とされた可哀想な俺の目覚めは、そんなにヒドイものでもなかった。
だって一日の始まりに大好きな人の顔を見れたんだよ?
嬉しいに決まってる。
あ、もちろん痛いのが好きとかじゃないけど。
「おはよ、先輩。
…まさか蹴落としたりしてないよね?」
「……お前の寝相が…悪「俺寝返りほとんど打たないで眠れるのが自慢なんだ」
「……転がしたら落「蹴ったよね」
床に落ちたままの格好で(つまり寝たままの状態で)尋ねると、
「だっ、だって目が覚めたらお前の顔すっごい近くにあって、それで、あんなに近いと思わないしさあ!」って狼狽える姿が新鮮でかわいくて、
夜中に何度か起きてくっついてて良かったなあ…なんて思う。
できればほっぺチューくらいあるかなって期待したんだけど、そこはある意味期待裏切らなかったよね。
まさか開眼一秒で思いっきり蹴飛ばされるとは予想だにしてませんでした。さすが先輩。
昨日の夜あんなことしちゃったのに変わらず普通に接してくれて(多分気のせい)、話してくれて、ほんとに大好き。
俺の何がダメなのかなー。はやく俺のものになればいいのに。
「篠、つーか時間やばい。俺先行くからお前もちゃんと支度しろよ」
「え、一緒に行かないんですか?」
「行かねえよ…」
まだ床に寝そべったままの体勢の俺をよいしょ、と跨ぐ先輩に合わせて転がってみる。
呆れ顔だけど、それでも俺をここから無理矢理追い出す気はないらしい。
…あ、顔ニヤける。
だからちょっと調子に乗って「また先輩の部屋に泊まりに来たいんですけど」って相変わらず寝たまま(以下略)でお願いしてみたら、
「却下」
ですよねー。
「というわけで出てってくれますか」
唐突に、クローゼットの前に立った先輩が気だるそうにそんなことを言うから、ドキッとして体が固まる。
こっちを振り向いて何か言いかけたけど、目が合ったら、「…そんな顔すんなよ」って歩み寄ってデコピンされた。
「わっ」ど、どんな顔だろう。「えっと、」
「着替えんの。制服に。
篠原千明くんは退出してくださーい」
あ、そういうことか。…良かった。
「先輩があと30回くらい名前呼んでくれたら考えます」
「お前って……、」
「ん?」
「なんでもない…千明くんが出てったら何回でも呼んでやるよ」
「せっ、先輩が朝一緒に行ってくれるって約束するなら出て行きます」
「千明千明千明千明」
「うわあああ、待って待って録音するから! ワンモア!」
「はい今日の分終わりー。出てけ」
「そんな約束はしてませんけど!?」
「あーー篠原うっせ。マジうっせ」
「急にブラックにならないでください。あとせめて篠って呼んでよ」
「シ・ノー。ワタシ望ム出テ行クカ? 出テ行カナイナゼナノカ」
「えっ、俺の名前『シ』?」
「ボケにボケで返すなお前も唐揚げにすっぞ」
「誰と!?」
とかなんだかんだ言ってたけど、優しい先輩はわざとのんびり準備してくれたっぽくて、朝は肩を並べて仲良く(仲良く、)登校した。
じゃあねって別れて数歩先輩を見送って、俺もクラスへ向かう。
先輩寝癖直すの上手だなあ、今度使ってるワックス教えてもらおっかなーなんて考えてたら、背後からドーンとど突かれてみっともなく曲がり角に激突した。
「っ……」
「おっはよー、『篠』」
こんなこと朝っぱらからしかけてくる心当たりは一人しか居ない。
深いため息と一緒に「おはよ、松田」って挨拶だけ返して教室に足を運ぶ。ああ、あと忘れずに「『篠』って呼ばないで」と付け加えとく。
俺の神経を逆撫でする様に「はーいはい」なんて流す松田がだいぶ苦手…。
見た目スポーツマンっぽい彼の中身はインテリで、メガネ姿も様になるのに(それ多分ただのインテリ)話すと残念。いや、残念とか言っちゃダメなんだろうけど。
なんで俺の中学からの親友が松田なのかなあ。
「今おれとの友情を嫌がったでしょ?」
……ははは。
面倒くさくなって「…そういうところがキライ」と素直に返す。
「ひどいなー。憧れの先輩にはあんなにデッレデレなのになあ」
「見てたの?」
「えっいや見たくて見たとかじゃなくて見えたんだよ? 何その視線? なんかおれマズイこと言った?」
「相手が松田じゃなかったら俺もこんな言い方はしないよ?」
「やんわり拒絶しないでくれる?」
「ごめんね」
「否定してよ!?」
やいのやいの絡んでくる松田をあしらって席に着くと、数枚の手紙が机の端から覗いてた。
いわゆる…ラブレターってやつみたい。
俺ってモテ期でも来てるのかな。最近やたら告白される。
誕生日近かったから?
女の子ってそういうイベント好きだよね。
まあ…モテたい人にモテてないんだから、モテ期到来でもなんでもないんだろうけど。
なるべく誰にも見られないように手紙をカバンに忍びこませて、教科書とかノートとかを机の中に押し込んで気づく。
そういえば先輩から…せっかくだから、何か貰っとけば良かったな、
なんて、やっぱり調子良すぎかな。
つい緩む口元を慌てて取り繕ってると、残念インテリメガネが「そういえば篠原さあ、」とか話しかけて来たからマッハの速さの寝たフリで誤魔化した。
机にこうやって張り付いてると、あの日のことを思い出す。
俺が初めて、先輩に……なっちゃんに会った日のことを。
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