アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
青天の霹靂
-
***
***
篠が傷だらけになった体育大会の夜、
心配で気が気じゃなかった俺は『篠の私物を届ける』っていう名目でチャイムを鳴らした。
というのも、急に走り出したかと思ったらまさかのサボタージュであのまま家に帰ったって言うんだから、こっちとしてもそりゃ心配するわっていう。
ちょっと前まで俺のモノだったドラムバックを抱えて(よくわかんなかったから着替えだけ突っ込んで学校から持って来た)、
待つこと数秒、俺の緊張虚しく出てきたのはおばさんだった。
「あら夏目くん! 見ないうちにカッコ良くなったわねえ」
「ど、どうも」
目元が篠そっくりなおばさんは、若くて美人で元気良くて…まあ喋り方はオバサンって感じだけど、気さくないい人だ。
おばさんが出たってことはやっぱり篠のケガ、そんだけひどい…ってことか。
おずおずとバックを差し出すと、「あらまあ!」って言っておばさんはそっと受け取った。
「もうびっくりしたのよ、今日仕事が昼までだったから…体育大会、覗きに行こうかしらって準備してたのに、玄関が急に開くんだもの。
しかも上半身裸でガーゼとか湿布だらけの息子がそこで寝てるから、寿命が縮んじゃうかと思ってね」
「警察に通報されてなくて良かったわー」とおばさんは笑う。
いや笑い事じゃねえよ。
言葉が見つからなくて「大変でしたね」なんて無難にまとめて、「またいつでも来てね」って言うおばさんの声を背中で受け止めながら、篠原家を後にした。
あいつ顔も赤かったし、もしかしたら熱中症にでもなってたのかもしれない。
具合も…悪そうだったし。
自己満足だけど篠の顔見て安心したかったな…なんて、やっぱ自己満足か。
電話するのも気が引けて、結局その日は篠に慣れないメールだけ送って家に帰った。
明日は振替休日でどうせ学校休みだし、なんなら篠の部屋で課題をやってもイイし、とか、
俺なりに会うための口実を考えたりもしたんだけど、勇気が無くて実行に移せないっていう……ヘタレすぎる俺。
でっ、でもさあ、だってさあ!
なんかこう…行きづらいじゃん、
急にやって来て「お前んちで課題やろうと思って」とか苦しい言い訳にもほどが…!
そんなこんなで火曜日、
俺の勇気が無いことだけが問題じゃないことが発覚した。
***
「おっはよー! 柚………」
叩かれた肩に気づいて振り向くと、水無月の顔がみるみる固まって終いには涙目になった。
「わっ、バカ!」って桐島にズルズル引かれて視界からいなくなったかと思えば、
「何、ちょっ怖えよ柚木の何あれ!?」
「よく知らねーけどなんかあったんでしょ、怖くて聞けないけど」
「ええ何その情けなさ。
頑張れよ、お前一応詮索好きの物好きって設定なんだからさー」
「えっ何それ初耳なんだけど!?
俺って水無月にそんな風なやつだって思われてんの!?」
「ふたりとも声でかいよ!」
「…そんなに言うなら柏木が行きなよ」
「嫌だよ取って食われそうじゃん。桐島が行きなよ?」
「俺はまだ死ねないし。ってことで柏木が、」
「いやいや、桐島でしょ?」
「そこを柏木が、」
「桐島が、」
「じゃあ間をとって俺が」
「「あっどうぞどうぞ」」
「あっれえ!?」
…とかなんとか、人の不幸で勝手にコントして盛り上がってる。
俺の目つきが悪い理由は他でもない、篠のせい…まあ、篠絡みだ。それしかないか。
ちなみに今日は木曜で、あれからあいつに会うことはおろか連絡だって取れないなんて流石におかしすぎるだろ。
メールの返事もねえし、携帯も留守電だし、
会いに行っても居留守だし、
あいつなんなの? ケンカ売ってんの?
つーかメールくらい返せよ!!
携帯も触れないくらい重症なんだったら学校なんかに来てんじゃねえよ、
わかってんだよ俺とすれ違いそうになるたびお前がわざわざ遠回りしてることとか、
そのくせ俺がやったドラムバックは誰にも触らせないようにしてることとか、
知りたくない情報ばっか耳に入ってきてんだよ!
イライラが積もってそろそろ頭を制圧しそうだ。
「悪いけど、後でノート取らせて」
「えっ、柚木? 今から一限、」
「用済ませたら戻るから」
「あ、おい!?」
「センセーには適当言って誤魔化しといて」と言い捨てて教室を飛び出した。
始業間近の廊下は人がまばらで走りやすい。
階段の最後の6段は飛び降りて、猛ダッシュで一年の???篠のクラスに向かう。
朝っぱらからこんなに走らせやがって、
後で気分悪くなったらお前のせいだぞバカ篠。
俺がどんな気持ちだとか、知る由もないんだろうけど。
予鈴が鳴ったのとほぼ同時に教室に着いた。
一番角席のヤツに「篠原呼んで」と小声で頼むと、そのおっかなびっくりな声は教室中に通った。
一瞬静まった空気の中で動揺した様に聞こえたガタン、というイスの音、
ハッと気がついた時にはすでに体が動いてて、
「せ、せんぱ、ちょっ…」
あたふたするのを黙らせるために腕を引く。
「え、あのっ」
「来いよ」
もっかい強く引っ張ってイスから立たせ、無理やり教室から引きずり出した。
「あの、」とか「ちょっと」とか言いながらも着いてくる篠を無視して、
どっか人目が気になんねえとことかあったかな、なんて考える。
屋上とか。
いやダメか、この前屋上でなんか篠ヘンだったし。もしかして高いとこダメなのかも。
えーとじゃあ…視聴覚室、は遠いし…空き教室とか無かったっけ?
なんかあったよなあ、なんか、なんか…
「あ」
「えっ?」
「こっち」
「わ、先輩っ…!」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
29 / 37