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感情的欲求
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後ろ手でガチャンと鍵を掛けると、篠の肩が飛び上がった。
俺だっていっぱいいっぱいでパニック寸前なのに、一人だけ悠長に緊張するとかズルい。
いや、もうずいぶん前から篠はいろいろズルいんだけど。
締め切られた生徒指導室は、俺の見立て通り鍵があいてて無人だった。
いつだったか柏木兄(センセー)がここの話をしてたんだよな。内容は確か、この部屋は中からしか鍵を掛けられないとか…そんなんだった気がする。
手近なイスに篠を座らせて、「で?」ととりあえず直球を投げてみる。
出入り口のドアに背を預けたら、自分の鼓動が大きく聞こえた。
「え、えーと…その」
「……」
「なんて、いうか…」
「……」
「あの……っ」
声と一緒に泳ぐ視線を見てらんなくて、思わず「もういい」なんて口に出す。
途端、突き放された様な顔をするから、間違えた…って後悔した。
怒ってる怒ってない関係無く、篠にそんな顔をさせたくないと思うのは、えーとなんだっけ…ああほら、これも惚れた弱みってヤツ…なのかな。
顔を真っ赤にして押し黙る篠を慰めたくて、「ケガはマシなのかよ」と比較的取りやすいボールに変える。
これは無難だと踏んだのか、「うん」っていう返事はすぐに返って来た。
服の下はどうか知らねえけど、パッと見デコの絆創膏だけで他はなんともなさそうだしな。
っつーかおばさんにケガの具合は聞いてるからこんなん本人に確認するようなコトでもないんだけどな!
なんとか会話のきっかけを掴もうとアレコレ球を投げてみるけど、「ああ」とか「そう」とか受けるばっかで一向に返す気配が無い。
ノーコンでも魔球でもなんでもいいからリアクションしてくんねえかな、
やりづれーしイライラするし俺って割と短気だし。
もう何度目かの沈黙を迎えて、俺の中で何かが切れた。
「お前…ほんとにいい加減にしろよ」
そうだ、俺は篠にムカついてんだ。
「なんなんだよこの前から、つか体育大会、いやもっと前、お前が学校に入ってから!」
「え、せっ先輩?」
「黙ってろ!」
「はいぃっ!?」
「お前はっ……あーもう何言おうとしたか忘れたじゃねえか、えっと、くっそ…とにかく……ワケわかんねーんだよ!
か、簡単に『好き』とか言うし抱きつくしそれに振り回される俺はなんなんだよ、
本気じゃないなら俺に心配させんな、
こういう風に意味不明で避けられても迷惑なんだよ、
フツーにしてろよ頼むから!」
追われる様に一気にまくし立てるとさすがに息が上がった。
さっき走ったのと合わせてマジ気分悪い。酸欠なんか大っ嫌いだ。
苦虫を噛んでたら不意にポタリ、と何かが頬を伝って、
あれ、と思ったのと同じタイミングで、俺に釘付けになってる篠とばっちり目が合ってしまった。
いや、あれっ?
何、なんで俺泣いてんの?
慌てて拭うけどおさまらない。
鼻もツンとしてきたし涙も止まんなくて、
嫌だ、ウソだろ、
こんなん困る。困るって。
だってこれじゃなんか、
篠に構ってもらえなくてダダを捏ねてるみたいじゃねーか…!
突如として決壊した涙のダムはちょっとやそっとじゃ立て直せそうになくて、
まだ話は済んでないし言いたいことは山ほどあるけど退散しようと体をひねった。
震える指で鍵をこじ開け、ノブを回して引いた瞬間、
勢い良く扉が閉まって、視界が急に暗くなる。
薄目を開けると両隣りに腕が置かれてた。
息づかいだって聞こえる距離、なんか怖くて振り向けねえけど多分顔は俺の真後ろ。
それが誰か、なんて、1+1より簡単だ。
「先輩」
ぅわ、息が耳にかかっ……!
「一生のお願いだから、もっかい『好き』って言ってくれませんか」
「は、はあ!?
お前なに言って…! 俺の話聞いてた!?」
「お願い、先輩」
「わ、バカ、耳は嫌だって…ん、ぁ、ちょっ…バカバカバカ舐めんな、噛むなよ…っ」
べろ、と舐め上げられる感覚にビクついて離れようともがくと、逆に抱きとめられてしまった。
おかしい、もっとスマートにこの部屋を出てくはずだったのに、泣きながら…崖っぷちに突っ立ってるような気分だ。
気づけば対面で力強くハグ、いや抱き締められてて、
肩口に埋められた篠の顔が、体温が、俺の全神経をそこに集中させるから、
身動きひとつだって出来ない。
おまけに掠れた声音で「お願い」なんて懇願されれば、ああそうですかと頷くの一択。
迷ったり選んだりする余地なんて無い。
だって頼まれれば何だって、どんなことだってしてやりたくなるんだからしょうがない。
緊張と酸欠で吐きそうな胃を意識しないようにしながら、ゆっくりと息を吸い込んだ。
どうか声が震えませんように。
「すっ………、好き…だ」
なんでもないひと言のはずなのに、口に出したらまた涙が零れた。
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