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泣きっ面と告白
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「もっかい言って」
緊迫した空気で囁かれた単語は、何かの呪文みたいだ。
それか毒。
声を聞いただけで、抗えないと悟らせる。
「ねえ、もっかい」
「す、好き」
「もう一回」
「っ…す…き、」
「もっかい」
「篠…もういい加減に、」
「先輩、言ってよ」
…ああもう!
「すーきーだ! 好き好き好き好き、
もういいだろこれで勘弁しろよ…!」
正直、なんでもない風を装うのが難しい。
想いをそのまま言葉に託してしまいそうになる。
ダメだな、俺。
こんなんじゃダメだ。
もういっそ篠を俺に惚れさす勢いでアタックしようと心に決めたはずなのに、障害物が目に入った時点で迂回しちゃってる。
つーかアタックってなんだよ、もうボキャブラリーからして怪しい。今すぐ『アタック』の類語を検索して頭のライブラリーに付け加えたい。…………じゃなくて。
涙のダムの建設が進んで(だからこの例えもどうなんだよ俺)ちょっと止まってきたから、離れてもらおうと篠の胸をそっと押す。
というのも俺は篠の体温を感じるより顔を見て話す方が好きだからっていうのが理由なんだけど、
いつかの時とは違ってすぐに顔を上げる気は無いらしく、腰に回された手の力がさらに増しただけだった。
「し、篠」
もうこれ以上は密着できねえよ。
俺は嬉しいだけだけど、ここまで羽交い締めっぽく抱き締められた場合どーすりゃいいんだ。
とにかく顔が見たくてもう一度、今度はさっきより強めに押し返すと、やっと篠が体を動かした。
「篠、お前急にどう……、」
顔を上げた篠は眉を寄せてその目に涙を溜めていた。
瞬きしたらその一粒がほろりと落ちて頬に伝う。
頭が真っ白になった俺は、
その光景をただ眺めるしかなかった。
「好きなんです、先輩」
「俺…先輩のことが、ほんとのほんとに好きなんです。もうどうしようもないんです」
顔を覆うようにふたつの拳を目もとにあてたかと思ったら、
グスン、と鼻をならして篠は続けた。
「さっき先輩は俺のことワケわかんないって言ったけど、俺だって自分のことわかんないんだ」
淡々とした呟きは自分を責めてる様にも聞こえる。
「でも先輩を見たら顔が火照るし、先輩にキスしたこととか思い出すと恥ずかしくて顔が見れない。
まともに話すことも出来ないのに、先輩が俺から離れてっちゃうのも嫌だ。
嫌なんだよ、なっちゃん」
「俺とだけ喋って、
俺だけを見て、
俺に…笑って、欲しいんだ。
俺以外はみんな、なっちゃんの目に映んなきゃいいとかも思う。
誰にも触って欲しくないし触らせなくない。
ビョーキでしょ? 頭おかしいよね、
でもきっとこれを『好き』っていうんだろ?」
グーになった手を這うようにポタリポタリと雫が落ちて、それがやたらとスローモーションに見えた。
「どうしたらいい?」って篠が聞く。
鼻声なうえに震えてるから、篠の口が動いてなかったら誰の声かわかんねえよ。
なんで篠が泣くんだろう。
なんで俺もまた泣いちゃってんだろう。
どうしたら、って、
そんなの俺が聞きたい。バカ。
「ほんと、お前ってバカ…」
「えっ?」
濡れて冷たくなった指先を捕まえて、
引っ張って、
近づいた唇にできるだけ深く口づける。
無理やり奪った何度目かのキスは、しょっぱい涙の味がした。
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