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夏飛行機
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どうもこうもうまくいかないのが人生のようで。
順風満帆な人生も嫌だがこんな障害に引っかかるのも馬鹿らしいとしか言いようがない。例えばくそ暑い中50メートルプールをくそ少ない人数で掃除させられるとか。プールは嫌いじゃないがぬるぬるする床をこするよりどうせなら泳ぎたい。それこそが夏の醍醐味ってもんだろう。
なんてぶつぶつ文句を垂れても熱を孕んだ空気にかき消されてしまうのだ。
全くもって無駄な時間と体力の浪費だと言えよう。青い空は原色を漂わせ俺たちの頭上に広がっているし、遠くのほうで入道雲が偉そうに踏ん反りかえっている。まるであざ笑われている気分だからそろそろ疲れてきたのかもしれない。
「ねえ昨日のドラマ見た?」
「あー見た見た。あいつら絶対ホモだよなホモ。狙ってるべ」
「お前そういうところしか見てないのな。ヒロインの子がめちゃ可愛いとかもっとそういう普通の男子高校生らしいコメントをしろって」
「わかってねえ。わかってねえなあお前。ヒロインが可愛いとか常識だろ。俺はその上を求めていきたいのである」
「なんなのたかがドラマに高望みしすぎ」
胃のむかむかを堪えながら振り返り、暢気に談笑している幼馴染たちをにらみつける。
「おいそこ。ちゃんと掃除しやがれ」
デッキブラシの柄の上に顎を乗せ明らかにサボっているあいつらへ自然ととがった声が飛ぶ。昨日のドラマなんてどうでもいい。目の前にやるべきことがあるならそれを片付けてから無駄話はしてほしかった。
「なんでこんなことしなくちゃならないのさ俺たちが」
こんなにいい天気なのになんでプール掃除なんかせにゃならんのか。
自分が思っていたことを代弁され茹った思考回路が苛立ちでぴくんと動いた。
考えていたことをさも自分だけが不公平であるかのように吐き出した態度がとてつもなく気に食わない。普段ならこれぐらいで怒ったりはしないのだが、夏の暑さに堪忍袋の緒も緩みつつあるようだ。
「お前らが校長室に忍び込んだのがばれたからだろうが。しらばっくれるな張本人どもめ」
俺は何も関係ないはずなのに。このアホ達が共犯者として自分の名前をあげたからこんな目にあっているんだ。優等生である俺の名前をあげれば多少罪状は軽くしてもらえるかもしれないと考えたのかもしれないが、とんだとばっちりだ。
「過去のことはもうとっくに忘れちまったべ」
「そうそう。俺らは今を生きる男だから」
得意げにブイサインを作る二人に自然とデッキブラシを持つ手が強まる。汗でずり落ちてくるメガネを押し上げ殴りたい衝動をねじ伏せ、天を高く仰いだ。
「何で俺がこんな目に」
憎らしいほどの快晴だった。何だか空が落ちてきてしまいそうな感覚に陥る。
勿論そんなことはないのだが、今なら一握り青を掴み取れるのではないかと錯覚した。それほどいい天気だった。
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