アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
〇月×日『優しいキス』
-
朝の登校は矢野くんと。
放課後の帰宅は1人。
矢野くんは山梨先輩と帰る。
だから僕は図書室に向かう。
静かな図書室。
毎日1冊と、特に意味の無い目標をたててる。
「先輩」
たまに、こうして彼が訪ねてきてくれる。
僕はそれを期待してここにいるのかもしれない。
「土岐くん」
「歩でいいですって」
土岐くんは柔らかく微笑むと、僕の向かいの席に座る。
「今日はファンタジーですか。面白いですか?」
「うん、すごく」
「俺のことは気にせず読書続けてくださいね」
「……うん、」
気にするなと言われても、気になる。
土岐くんが、歩くんが目の前にいる。
僕を見てる。
本に目を向けるけど、内容は全然入ってこない。
顔が熱い。
胸がドクドクと音を立ててる。
こんなに高鳴ってたら歩くんに聞こえそうだ。
「……ぁ、ゆむくん…」
「はい」
「あんまり見られると……」
「ぁ、気が散りますよね。すみません」
そう言って歩くんが席を立ってしまう。
僕は咄嗟に身を乗り出して歩くんの服を掴んでいた。
「ちがうっ、行かないでっ」
静かな部屋に僕の声がよく通った。
必死、そんな声で彼を引き止めてしまった。
机に身を乗り出した体勢で、椅子は勢いで倒れてしまってる。
歩くんはキョトンとした顔だ。
恥ずかしい……。
「…あ…ぁ…の、ごめ…」
慌てて手を離す。
その手を歩くんに掴まれる。
真っ赤な顔で歩くんを見上げると、急に視界が暗くなった。
「……ぅ、」
唇に冷たいけど柔らかい感触、影のかかった暗い視界の先には長い睫毛が見えた。
「…………柚野先輩、俺のこと好きだよね」
まだ唇が触れ合った距離で、歩くんが小さく問いかけてくる。
紅く染まった顔が、これ以上ないってくらい熱い。
唇が震える。
歩くんに会いたい、
歩くんに会えるかな、
初めて会った時からずっと考えてる。
矢野くんと山梨先輩のことなんか、無かったみたいに思えるほど彼が僕の頭の中を占めてる。
彼に一瞬で惹かれてしまったんだ、僕は。
「……ぼく、…あゆむくんが…好…」
触れ合っていた唇に言葉は塞がれてしまった。
触れ合うだけの優しいキスに、瞳を閉じて受け入れた。
歩くんが好き。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
101 / 196