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〇月×日『甘えた』
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「ゆず」
「おい、ゆず」
「なぁ、ゆず」
「ゆずー」
呼ばれる度に僕は"またか"と顔を上げる。
僕を"ゆず"と呼ぶのはもちろん矢野くんしかいない。
矢野くんは先輩と別れてから子供みたいに僕に甘えてくる。
それは小さい子が"ママ"と甘えるあの感じに近い。
家でも学校でもそんな感じだ。
僕の部屋でも矢野くんの部屋でも、二人きりしかいないのに矢野くんは僕を離そうとしない。
トイレに立つ時でさえ"どこへ行くのか"尋ねられる。
これが学校なら一緒に付いてくる始末だ。
"子供"というより"雛鳥"のようだ。
「ゆず、」
ほら、またきた。
授業が終わり休み時間毎に僕の席までやってくる。
別に嫌ではない。
ただここ数日これが続いているものだから、矢野くんが席を立つたびにクラスメイトの目が僕を見るのが気になってしまう。
矢野くんが恋人と別れたことはどこが発信源なのか、瞬く間に広がって、矢野くんを慰めたがる女生徒は矢野くんの行動に敏感だ。
少し異常なくらい矢野くんが僕にべったりなのは、傷心ゆえだと周りは思ってるようだった。
「どうしたの?」
「……別に」
矢野くんは僕にピッタリくっつくように座ると、無言で携帯をいじり出す。
いつもこんな感じだ。
触れる距離にいて、特に会話はない。
今は学校だから肩が触れるくらいの距離。
これが家だともっと密着される。
背後から抱きしめられたり、膝の上に座らされたりと、やたらくっつきたがる。
この距離は、正直心臓に悪い。
このまま矢野くんに距離を詰められたら、いや、もっとエスカレートしたら……もし拒めなかったら、どうしたらいいんだろう。
音沙汰ないけど歩くんへの気持ちもある。
けど、今のこの状況に嫌悪感はないし、むしろドキドキしてる自分がいる。
クラスメイトの視線が、気持ちよく感じてしまっている。
皆の王子様矢野くんは、誰より僕を頼って、僕に甘えてるんだ。
こんな優越感を感じながら歩くんが好きだなんて、笑っちゃうよ。
それに、歩くんが好きだって矢野くんには言えてない。
言わなきゃいけない決まりなんてないけど、矢野くんは先輩を好きになった時僕に言ってくれた。
だから、言えてない状況に罪悪感を感じてしまっている。
でも、今の時間にもう少しだけ浸っていたい。
いいよね?
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