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〇月×日『昼下がりの』
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お昼休み、太陽の下で矢野くんとお弁当を広げる。
けど、矢野くんの箸は進まない。
いつもなら好物のだし巻き玉子から始まり、ペロリとたいらげてしまうのにだ。
「矢野くん、体調悪いの?」
「……なんで。」
「なんでって、……食欲ないみたいだし」
「…………別に。」
声にも元気がない。
顔色は悪くないのに、見るからに調子は悪そうだ。
「もう食べない?」
「……そうだな」
矢野くんが箸を置く。
結局、矢野くんはお弁当に手をつけることは無かった。
どこか上の空といった様子だし、覇気が全くない。
なんとなく心当たりはある。
先刻の歩くんとのやりとりが原因な気がする。
歩くんと話してる矢野くんは機嫌が悪かったし。
……僕を心配してくれているんだろうか。
花村さんに目をつけられていると、矢野くんが言っていたし、だとしたらすごく申し訳ない気持ちになる。
僕は歩くんの言葉に馬鹿みたいに舞い上がってしまったから…。
ずっと見えなかったのに、突然に希望が見えだしたから、浮かれてしまった。
花村さんのことがある以上は矢野くんの忠告を忘れないようにしなきゃいけない。
半分以上残ってしまったお弁当を包んで、携帯で時間を確認する。
まだゆっくりする時間はある。
矢野くんからは授業を受ける気があるようには見えない。
もうしばらく様子を見てから、最悪僕一人だけでも教室に戻ろう。
今日は天気がいいから、一番太陽の近い屋上は暖かくていい。
お腹を満たしたあとだから、こうも暖かいと眠くなってくる。
「ゆず」
「……ぁ、え?」
うとうとしかけた僕の腕を矢野くんが掴む。
「あ、……寝てた?」
「いや、寝んのか?」
「ううん、少し眠くなっただけ。矢野くんは眠くないの?」
目を擦りながら矢野くんを見る。
「全然。」
矢野くんはご飯全然食べてないからなぁ……
「……しかたねぇな」
またうとうとしかけた僕を、矢野くんは強引に引き寄せた。
矢野くんの膝の上に寝かされる。
膝枕だ。
うとうとしてたのに、矢野くんのレアな行動にビックリして目が覚めてしまった。
「ぁの、矢野くん……?」
「寝れば。起こしてやるから」
「ぇ、……ぁ、ありがとう…」
目は覚めてしまったけど、とりあえず目を閉じてみる。
でも寝れるわけがない。
ドキドキして寝られそうにない。
僕て、ほんとこういうとこ、直さなきゃいけない。
歩くんが僕に応えてくれようとしてるんなら尚更。
矢野くんとは割り切った関係にならなきゃいけない。
こんなドキドキしてちゃダメなんだから……
「ん」
「……、なんだ、起きてたのかよ」
「ぇ、……あの、」
今、キスした?
矢野くんの膝に頭を乗せながら、矢野くんを見上げる。
至近距離に整った顔がある。
嫌でもその形のいい唇に目がいってしまう。
「あの、……駄目だよ?」
自分の手を唇の上に置く。
「なんで。」
「なんでって、駄目だよ……」
僕、歩くんが好きだもん。
歩くんと付き合ってるわけじゃないけど、操を立てるわけでもないけど、なんかダメだと思う。
「じゃあ帰ろうぜ」
「駄目だよ。授業あるし、帰っても何もしないよ」
「…………ふーん」
矢野くんが面白くない、て顔しながら立ち上がる。
支えを無くし床に頭をぶつけそうになりながら、さっさと屋上を後にする矢野くんのあとを追った。
矢野くんとのキスは、初めてじゃない。
数え切れないくらいしてるけど、ほぼ全部がセックスの最中についでのようにされるものだ。
口を塞ぐようなキスばかりで、恋人同士のそれとは違った。
でもさっきのは、触れるだけの優しいキスだった。
駄目と言ったらやめてくれたし、やっぱり矢野くんは山梨先輩と付き合ってから変わった。
悔しいけど、今の矢野くんの方が好きだ。
どこかビクビクしながら矢野くんの隣にいた頃とは違って、今は穏やかになれる。
歩くんのこと、今の矢野くんなら受け入れてくれるのかな。
応援とか、してくれるのかな……
花村さんていう障害がなくなったら、もし歩くんと恋人になれたら、矢野くんは僕と幼馴染という関係を保ってくれるのかな。
矢野くんはいつも僕の前を歩く。
僕は背中を追いかけるか、良くて隣に並べるくらいのちっぽけな存在だ。
僕にとって矢野くんの代わりはいない。
矢野くんにとっても、僕はそんな存在になれたらいいと思う。
体で繋がらなくても、そばにいるよ、矢野くん。
矢野くんもそうだよね?
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