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〇月×日『顔』
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「すみませんでした」
歩くんは僕の顔を見るなり頭を下げた。
「謝って済むかよ」
そんな歩くんの謝罪を矢野くんがシャットアウトする。
「教室のど真ん中で張り手だぞ。しかも泥棒猫にビッチ呼ばわり。クラスのやつらはゆずのこと白い目でみやがって、ホモ呼ばわりするバカもいたな」
怒り収まらず、といった様子で自分のことのように矢野くんが怒ってくれる。
「……花村さんが、そんな行動に出るなんて思わなくて、……あっさり別れられるのかと…」
僕もそう思ってた。
矢野くんの時と一緒で、なにか脅す材料一つで気に入った男といつでも遊べる状況をつくる、それだけの関係を楽しむ人なんだと思ってた。
それに、矢野くんにはあんな風に取り乱したりしなかったし、それはつまり……花村さんはそれだけ歩くんを好きだったってことなんじゃないのかな。
「……駄目ですか?まこと先輩に迷惑かけてしまったけど、花村さんとは切れました。まこと先輩の彼氏にはなれませんか、僕」
「え、」
これって告白?
告白だよね、
歩くんが僕に告白してるんだよね。
「……ダメなわけ……、」
あ、
そうだ。
矢野くん。
そっと矢野くんの様子を盗み見て、胸が締め付けられた。
俯いて、唇を少しだけ噛んで、瞳は悲しげに揺らいでた。
あの矢野くんが、こんな顔するなんて。
でもこの表情は、ずっと僕がしてきたものだ。
矢野くんが数多の女の子たちと消えてしまった時、
山梨先輩が好きだと言った時、
僕はずっとこんな顔をしながら、歯がゆく、もどかしい気持ちでいっぱいだったんだよ。
「歩くんが好き」
矢野くんを視界から振り切って、歩くんの手を取った。
普段後輩らしからぬ大人びた彼が、子供みたいに笑った瞬間を、僕は目に焼き付けた。
傍らで矢野くんがどんな顔してたかは、知る由もない。
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