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○月×日『誰の男③』
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花村さんがシャワーを浴びに行ってる間に、歩くんが僕の頭を氷で冷やしてくれた。
物の場所を把握しているのか、棚からビニール袋を出し、冷蔵庫から氷を出して、すごく手際がよかった。
そんな様子に胸が痛んだけど、歩くんがボタボタと涙を流しながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も何度も謝罪してくるから、僕は何も言えなかった。
お風呂場からは花村さんの鼻歌が聞こえてくる。
かなりご機嫌なようだ。
僕の前で歩くんと寝て、気が晴れたんだろうか…
歩くんの涙は雨のように降って止まないのに…
「ゆずっ」
慌ただしく部屋に飛び込んできたのは矢野くんだった。
歩くんが呼んでくれたんだろう。
矢野くんは床に寝てる僕と、その側で泣いてる歩くんを見て、すぐに僕の側にきてくれた。
矢野くんは僕を膝枕する形で側に寄せると、歩くんから氷袋を取り上げる。
「おい、泣いてないで説明しろよ」
今度は矢野くんが僕の頭を冷やしてくれる。
僕は矢野くんの硬い膝の上で口は噤んでた。
僕の口からは言いたくない。
あんなこと…口にしたくない。
「…茜さんが、部屋に来いって、まことさんがいるから……部屋に来いって…」
嗚咽混じりに歩くんが喋り出す。
「部屋に来たら、まことさんが倒れてて、…大人しくしないと、まことさんに酷いことするって……っ」
歩くんが何度も顔を擦る。
それでも涙は止まらない。
さっきの獣じみた行為の中の雄らしさは、微塵も感じられなかった。
矢野くんが長いため息をつく。
僕と歩くんの様子、歩くんの短い説明から状況を把握したようだった。
「ゆずを餌にお前と寝たわけか。花がやりそうなことだ。……だから用心しろって言っただろ」
「……すみません…」
歩くんが項垂れる。
まるで土下座してるみたいだ。
殴られた僕より可哀想に思えてきてしまう。
「…お前さ、花に惚れてんだろ」
矢野くんがビックリな発言をする。
僕も薄々感じてたけど、まさか矢野くんの口からそれを聞くとは思わなかった。
「だからそんな泣いてんだろ。花がこんなことするとは思わなかったか?あいつが綺麗なのは顔だけだぞ」
矢野くんは慰める気があって歩くんに話しかけてるんだろうか…
「花もお前に惚れてるからこんなことしたんだろうし、ゆずにこれ以上の被害があるのは困る」
「…でも、僕……」
「でもじゃねぇっ、俺がお前らの頭割ってやろうかっ」
脅しじゃ無い、マジギレってやつだ。
矢野くんの怒鳴り声に歩くんの涙が止まる。
僕も驚いて顔を上げた。
……でも僕、頭は割れてないんだけどな、
「矢野くん…」
「ゆず、帰るぞ」
矢野くんが軽々と僕を抱き上げる。
お姫様抱っこてやつだ。
こんな状況なのに、恥ずかしい……顔が熱くなる。
「浮気も同然だし、お前は責任持って花の面倒見ろよ。ゆずにはもう構うんじゃねーぞ」
矢野くんが玄関に向かう。
僕は矢野くんに抱かれながら、歩くんを見た。
歩くんが床に膝をつきながら、矢野くんと遠ざかる僕を見上げてた。
「……まことさん、…すみません…」
すみません、、
そう言ってドアが閉まる最後まで、僕から視線を外さなかった。
歩くんとは、これで終わりなんだ…
そう悟った。
歩くんの目が、僕を諦めてた。
矢野くんの言う通りだったんだ、僕の根っこにに矢野くんがいるみたいに、歩くんも花村さんなんだ。
最初こそ僕らはレイプだった。
けど、誰かに逃げても帰るとこは決まってたんだ。
頭の痛みより、今は胸が痛い。
矢野くんの胸に顔を埋めた。
矢野くんがしっかりと僕を抱いてくれてる。
「ゆず、大丈夫か?痛くないか?」
矢野くんが僕の様子を伺いながら歩を進める。
「…矢野くん、ほんとに王子様みたいだったね」
お姫様抱っこで連れ去るなんて…
僕が小さく笑うと、矢野くんが不思議そうな顔をした。
「打ち所が悪かったんだな」
冗談のつもりで言ったんじゃなかったけどな…
「…ゆず?」
なに、矢野くん
「おいっ」
矢野くんが何か言ってる…
それを最後に、僕は意識を手放した。
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