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○月×日『偶然』★
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矢野くんの部屋にお泊まりして、休日ということもあってダラダラ過ごした。
お腹が減ったのでお昼ご飯のために矢野くんと二人で外出したときのこと。
「まことくん?」
ランチタイム中のカフェに入って店員さんに通された席に座ると、隣の席から声がかかった。
「ぇ、あ…」
声の主は笹川龍司さん。
お世話になったことがあるお医者さんだ。
できれば矢野くんと一緒の時には会いたくはない人だった。
「偶然だね。元気?あれからどう?」
笹川先生は整った顔で微笑む。
「…あれから?」
笹川先生の問いかけに答えたのは矢野くんだった。
僕の向かいに座っている矢野くんは笹川先生に興味がないのか、メニューに目を通していたのに、今は人が変わったように笹川先生を凝視している。
だけど、矢野くんの問いかけに笹川先生は口を開かなかった。
僕はそれに胸を撫で下ろしたけど、矢野くんは違った。
「あれからってなんだよ。誰だこいつ。おい、ゆず」
見るからに機嫌を損ねた矢野くんの怒りの矛先は僕へと移されたようだった。
「…えっと…」
言えるわけがなかった。
○月×日『言えるわけがない』
一年前のあの日、矢野くんに無理矢理抱かれてボロボロになってた僕は、矢野くんがお風呂に入ってる間に散らばった服を着て逃げ出した。
家に駆け込んで、部屋のベッドで泣きながらうずくまってたけど、体の痛みが酷くて、恐る恐るズボンを脱ぐと、眩暈がした。
太ももを真っ赤な血がはって、ズボンも下着も赤く染まっていた。
酷く割かれた場所の出血が止まっていなくて、手近にあったタオルで抑えて止血したけど、痛みは収まらない。
まだ混乱してる頭でどうしたらいいのか考えるけど、自分じゃ分からなかった。
かと言って誰にも相談できることじゃない。
下半身がこんな状態になってるなんて、誰にも言えないし、言いたくなかった。
こんな状態になっても羞恥心はあった。
親にも言えない。
友達…、矢野くんになんて、もってのほかだ。
いつも矢野くんと一緒にいるから、他に親しい友達もいない。
誰も頼れない。
でもなんとかしなきゃ、ほおって置いていいものかも分からないから、凄く怖かった。
死んでしまうんじゃないかと思うくらいに…。
出血が収まってきたのを確認して、一人でタクシーに乗って病院へ行った。
何科に行っていいのか分からずにオロオロしていると、白衣をきた男の人に話しかけられて、言い淀む僕に、その人はすぐに察してくれて、人払いをした部屋で僕を診察してくれた。
泣きながら診察を受けていて、何も事情は話さなかったのに、その人は全部知ってるみたいに思えた。
ただ優しく治療してくれた。
…その人が、笹川先生。
笹川先生とのことを矢野くんに話せば、あの日僕が一人でのたうちまわってたのが矢野くんに知れてしまう。
お医者さんの世話になってたなんて知られたくなかった。
そんな大袈裟なものかと呆れられたくなかった。
事実、僕にとっては大惨事だったんだけど、なんとなく矢野くんは不快に思う気がした。
矢野くんを不機嫌にさせたくなかった。
面倒なやつだと思われたくなかった。
また、…またあんな風にされたら、壊れてしまう。何もかも。
急に不機嫌になって、乱暴をした矢野くんを今も鮮明に覚えてる。
あんな日は、二度はない。
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