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○月×日『現実』
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「あっ!柚野ちゃんっ」
背後からいきなり呼び止められて振り返る間もなく温かいものに包まれた。
「え、ぁ…先輩?」
「いいからいいから、ちょっと来て」
山梨先輩は僕の首に回した腕で僕の体を引きずるように廊下の隅に移動すると、腕を離して正面に立った。
「あの、先輩?」
「あ、やっぱり。ついてるよ」
先輩はそう言って僕の制服の二つほど外れているボタンを首までとめると、自分の首からネクタイを引き抜いて僕の首に回した。
「僕ので悪いけどしときな?」
「…?…はい…」
先輩はネクタイをしめ終わると、意味もわからず困惑する僕に手をふりながら、自分の教室へと去って行った。
その夜、僕は先輩の行動の意味を知る。
制服を脱いだ僕の首回りに赤い斑点を見つけて一人で赤面した。
紛れもなく矢野くんに抱かれた証がそこにあって、それを山梨先輩に見られた。
頭の中に色んな事が巡った。
だけどすぐに思い立った。
〝いいわけ〟しなきゃ。
〝いいわけ?〟
何のために。
やましいことをしてるわけじゃないから、必要ないことだ。
何でこんなことを考えたんだろう。
…答えは知っているけれど。
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